女神に見えた
「や、ば……」
膀胱が破裂しそうだ。
まさか大きくなってお漏らしなんて、あり得ないと思っていたが今まさに俺は漏らしそうな状況である。
しかも同級生の女の子の部屋で。
最悪なんてもんじゃない。
トラウマ級だ。
しかし今は余計なことは考える余裕すらない。
ただひたすら漏れないように下半身に力を入れて集中しているが、それもやがて限界がくるとわかる。
「お待たせ」
その時だった。
極限までおいこまれた俺の前に、パジャマ姿の紫すみれが現れた。
「あ」
「どうしたの? もしかしてトイレ?」
「う、うん。もう漏れそうで……」
「トイレ行きたい?」
「い、いきたい」
「えー、トイレ行ったらちゃんと帰ってくる?」
「か、帰るよ! だから早く」
「はーい」
ガチャっ。
紫すみれが手錠を触るとそんな音がして俺の腕が自由になった。
俺はその後、無我夢中でトイレへ走った。
逃げようとか、このままだとまずいとか、そんなことを考える余裕は全くないまま用を足してスッキリすると、トイレから出る頃にはさっきまで手錠をかけられていたことなんてすっかり忘れていた。
「ふう……」
同級生の部屋でお漏らしせずに済んだ安心感とスッキリした開放感に包まれながら何気なく部屋に戻ると、そこには少し照れ臭そうに頬を赤くした紫すみれがいた。
「ねえ、怒ってない?」
「え?」
「だって……ちょっと意地悪しちゃったから。私、本当は滝沢君にどこにも行ってほしくなかっただけなの」
「紫、さん……」
「ねえ、手錠はもうしないけど、どこにも行かない?」
「え、ええと」
「行かない? 行かないよね?」
ジリジリと距離を詰める紫すみれから、シャンプーの香りが漂う。
そしてさっき俺の体を冷やした夜風が再び窓の隙間から吹き込むと、彼女の髪がふわっと靡く。
その姿が、なぜか俺の胸をときめかせた。
なぜかはわからない。
しかし、とても不安そうにまじまじしながら俺のそばに寄ってくるか細い彼女のことが、悪い人間には見えなかった。
床に転がった手錠も。
さっきまで尿意を我慢していたせいで額に滲んだ脂汗も。
全部俺に向けられた気持ちの結果なのだと思うと、邪険にすることもできず。
俺は静かに頷いてから、部屋の中へ一歩足を踏み入れた。
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