ステイホーム

「滝沢君、今日もお見送りいいかな?」


 当たり前のように夕食を紫すみれと共に食べていると、途中でふとそう聞かれた。


 ちなみに母さんは夕食の準備が整うと気を利かせたように「出かけてくるから」とどこかへ消えた。


「まあ、最近は物騒だし見送りくらいはさせてもらうよ」

「うん、ありがと。じゃあ遅くならないうちに食べないとだね」


 まだ外は明るいくらいだが、彼女は急いで食事を済ませてから片付けに移った。


 早く帰りたいのか、用事があるのか。

 まあ、どうあれ一秒でも早く彼女から解放されるのであればそれはそれでいい。


 でも、なんか寂しい気分にさせられるのはなぜだろう。

 俺と早く別れてまで家に帰りたい事情とは?

 ……いや、変なことを考えるのはよそう。

 俺までメンヘラみたいになってる。

 それに、彼女と四六時中一緒にいるなんて無理なわけだし、俺だって自由に好きなことをしたいんだし、こんな歳から束縛されて彼女以外の何も知らない世間知らずな人間にはなりたくない。


 もっと友達もほしいし、普通な恋もしてみたい。

 高校でもおそらく無理だが大学でこそ。

 それに社会人になっていいところに就職して稼いだお金で週末に旅行とかしてみたり。

 ゴルフとか、そういう付き合いもできるようになりたいし。


 とにかく、俺は縛られたくない。

 心理的に束縛されるくらいなら縄でもつけられた方がマシだ。


 さっさと彼女を送って、部屋でゆっくりしよう。


「じゃあ、いこっか」


 今日もこれで終わりだ。

 紫すみれを家に送り届けたらようやく安息の時間が訪れる。


 俺は胸を撫で下ろしながら彼女を連れて家を出た。


 外はすっかり暗くなっていた。



 外はすっかり暗い。

 そろそろおうちに届いてるかな。


 A○azonで買った手錠。


 私たちの愛の絆。


 一緒につけて寝よーねー。


 


 

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