告白

「そう」


 静かにそう返事をした紫すみれは、ゆっくり俺の方へ近づいてきた。


 そして、俺の目の前に立つとすうっと息を吸ってから。


「やっぱり」


 そう言って、俺の鼻先を指でツンとつついた。


「あ、あの……怒ってないの?」

「どうして? 隠したい理由があったんだよね?」

「ま、まあそれはそうだけど」

「滝沢君って照れ屋さんだから恥ずかしかったんだよね? 私に対して、恩着せがましい真似は嫌だなって、そんなふうに考えてくれてたから黙ってたんだよね?」

「……まあ」

 

 実際は君が怖くて隠していたんだけど、なんて言えるはずもなく。

 勝手に良い風に解釈してくれているのでそのまま話を合わせた。


「あの、だけどあの時紫さんを助けられたのは偶然、というか運が良かっただけで」

「また謙遜。そういうのよくないよ。私は知ってるの、滝沢君が勇気を出して私の前に飛び出してくれたことを」


 涼やかな風が吹いた。 

 そして、端正な彼女の顔が目の前にくると、近すぎて少しピントがボケた。


 ぼやっとする彼女の表情はよくわからなくて。

 爽やかで、それでいて甘い香りに包まれた俺の思考は止まっていた。


 そして、次の瞬間。


 俺の唇に柔らかい感触が伝わってきた。


「……!?」


 ほんの一瞬の出来事だった。

 彼女の唇が、たしかに俺の唇に触れた。


 キス、された。


「ふふっ、初めて男の子に触れちゃった。滝沢君も、だよね?」

「あ、え、あの、あ、あれ?」

「もう、女の子が勇気出したんだからしっかりしてよ。ねっ、初めて同士だよね?」

「あ……う、うん。ええと、どう、して?」

「んー? どうしてだと思う?」

「それは……」


 彼女が俺にキスをした理由。

 考えられるのは一つだけ。


 俺のことが好きだから、だろう。

 誰とでもキスするような淫らな人ではないはずだし、なによりあの日以来、自分を助けてくれた男子への執着がすごかった。


 そしてそれが俺だとわかったから気持ちが爆発して……。


「ふふっ、真剣な顔も好き。滝沢君のそういう真面目なところ、すごくいいな」

「……ども」

「でも、キスしたのは滝沢君が好きだからってだけじゃないよ?」

「え?」

「もう、心配そうな顔しないで。私、誰にでもこういうことする女じゃないもん」

「じ、じゃあなんで?」

「それはね」


 俺の襟をきゅっと掴んで、俺の顔をグッと引き寄せて。

 耳元で彼女はささやいた。


「これでもう、言い逃れできないもんね?」

 


 

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