催促


「滝沢君、私に何か言うことない?」


 昼休み。

 不満たっぷりな様子で俺に迫ってきたのは紫すみれ。

 今日もまた彼女と部室でランチなのだが、いつもと違うのはこの部屋に三船咲がいること。


 いるにはいるが、彼女たちは部屋の両端に座り部室を二分している。


 もちろん俺は紫すみれの向かいに座り、三船咲の方は見ない。


 その様子に満足そうな紫だったが、しかし昼食の途中で表情が変わった。


「な、何かあったっけ?」

「うん。わからない?」

「……放課後の部活でおすすめ本を紹介する件かな?」

「んー、それは放課後でいいかな。それよりもっと、私に言わないといけないのに言えてないこと、ない?」

「言えてないこと……」


 それはあるにはある。

 俺があの日のももにゃんの中の人で、紫すみれを助けたんだということだ。

 しかしそれは言えていないというよりむしろ、言いたくないのである。

 それに彼女が今そのことを話題にしているとは考えにくいし。


 なんだろう。

 心当たりはない。


「え、ええと」

「あ、そっか。そうだよね、やっぱりそーなんだね。ふふっ、それなら最初っからそう言ってくれたらいいのに」

「へ?」

「三船さんがいるから話しにくいんだよね? 私ったらそこまで気が回らなくて」

「い、いや、なんのこと」

「ううん、いいのいいの。ふふっ、ちゃんとわかってくれてたのならいいの。じゃあ話は放課後ってことで、早くお昼食べましょ」

「……?」


 なぜかわからないが、紫すみれは納得してしまった。

 しかし、何の話をしなければならなかったのかはわからずじまい。


 放課後にまた話をしてくれとのことだが、それまでに俺は彼女に告げるべき内容を導き出す必要があるということか。


 ふうむ。

 それに、さっきからずっと部屋の隅にいる三船咲は何をしているんだ?


 こっちを見て……笑ってる? いや、気のせいか。

 でも、三船さんもどこか機嫌は良さそう。


 紫すみれと和解でもしたのか?

 それならいいんだけど。



 へえ、滝沢君ってやっぱり照れ屋なんだ。


 紫すみれがいるから、私に告白するのは躊躇うなんて。

 それに本当は私の席でご飯食べたかったはずなのに、一緒にご飯食べてるところを見られるのが恥ずかしくてわざわざ紫すみれのところに行くなんて。


 ふふっ、ツンデレさんなのかな。

 でも、そういうところも嫌いじゃないよ。


 放課後は、ちゃんと私のところにきてね。

 紫すみれも何か言ってたみたいだけど、多分滝沢君の冷たい態度に慌ててたのね。


 まあ、私だもの。

 彼が選ぶのは。


 放課後、楽しみ。



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