どっち

「え?」


 と、思わず声が出たのは俺だ。

 それもそう、三船咲はももにゃんの中身が俺だと知っていることを強みに、俺を脅していたのに。


 なぜこのタイミングでその話を紫すみれにするんだと。

 焦っていたその時、隣で。


「私も知ってるけど?」


 紫すみれはそう言った。

 呆れたように笑いながら。


「え?」


 と、声が出たのは俺だけじゃなかった。

 三船咲も。

 目を丸くしていた。


「三船さんも、あの場所にいたんだね。だったら知ってて当然かな? 私も、もちろんそうだけど」


 余裕たっぷりにそう言って、紫すみれはスタスタと先に校舎の中へ。


 呆然とする俺と三船咲は、しばらくその場で固まっていた。


 そしてチャイムの音で我に返ってすぐに校舎へ向かった。


 紫すみれはもう、俺の正体を知っていた。

 その事実にただただ、震えながら。



「……ちっ」


 三船咲さん。

 あの子、なぜあの日のももにゃんの正体を知ってるの?

 もしかして私にではなくて三船さんに正体を明かして……いえ、そんなことはないはず。

 滝沢君がそんなことをするはずない。

 

 それを認めたくないからつい、私も知ってるって言っちゃったけど。


 まだ私には確たる証拠がない。

 三船咲はそれを持ってるのかしら?

 もっとちゃんと聞いておけばよかったかも……。


「三船咲さん、か。あの子もやっぱり滝沢君のことが好きなのかな」


 まあ、なんにしても。

 彼女が私に対抗してくるのなら私も私で対応するまで。


 滝沢君、浮気は許さないから。



「……紫すみれ、か」


 あの子は可愛いなんてもんじゃない。

 女の子としての魅力が全部備わったような子だ。


 でも、私だって負けていない自信はある。

 それに滝沢君が身を挺して助けてくれたのはきっと私。


 紫すみれじゃなくて三船咲を助けてくれたの。


 だから譲れない。


 あの子があの日のももにゃんの正体を知っていたのは意外だったけど。

 確証はないって、そんな感じもする。

 あったらもっとぐいぐいいってるはず。

 

 私も、あいつがいなければもっと彼に近づきたい。

 でも、いつも彼女がそばにいるから邪魔される。


 もう、負けない。

 遠慮しない。


 今日、私に告白してくれるはず。

 滝沢君。


 あなたは私を選ぶ、よね?

 

 

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