これは夢か
「滝沢君、お待たせ」
紫すみれが風呂からあがった。
ちゃんと服を着ていた、なんて言えば彼女を変態扱いしているようだが、ちゃんと服を着ていてくれてほっとしたのだ。
ただ、格好はいつもと違う。
寝間着。
パジャマ。
ピンクのモコモコしたスウェットだ。
「どう、可愛い? 夏でも私、基本はこれなの。エアコンでキンキンにした部屋であったかい格好ってすごく気持ちいいんだよー」
袖が長く、手が半分隠れている。
たしか萌え袖っていうんだっけ。
可愛い……。
「……いかん、やばい」
「どうしたの? この服似合ってない?」
「そ、そんなこと……ピンクもよく似合うよ」
「ふふっ、よかった」
微笑む紫すみれに俺の脳は破壊されかけていた。
初めて見る女の子のパジャマ姿。
しかも学園のアイドルのそれとあって俺は正直なところムラムラがおさまらない。
向こうだって誘ってきているのは明らか。
少し濡れた髪を色っぽくかきあげる仕草なんて、俺には悩殺なんてもんじゃない。
脳殺。
本当にやばい。
でも、この一線は踏み越えないと決めたんだ。
紫すみれはいくら美人でもやばい女だとわかっている。
ここで手を出して後で後悔しても多分その時には泥沼どころの騒ぎじゃない。
「……あの、飲み物もらってもいいかな?」
俺は絞り出すようにそう言った。
すると、まるで俺がそう言うとわかっていたかのように、さっとペットボトルが渡された。
「はい、これ。スポーツドリンク嫌い?」
「ううん、大丈夫だけど。ええと、コップは」
「いいよそんなの。そのまま飲んで」
「……いただきます」
睡眠薬とか、そんなものが入っていないか一瞬疑いもしたがキャップは未開封であったのでそのままドリンクを飲んだ。
いつものスポーツドリンクのはずなのに、味がしない。
緊張からか、喉が乾いているからかはわからないが、何を飲んでいるかもわからないままそれを一気に半分くらい飲んだ。
「……ふう」
「美味しそう。ねえ、私にもちょうだい?」
「え、でも俺口を付けてるし」
「いいじゃん、今時高校生で間接キス気にする人なんていないって」
「……じゃあ」
言われるままペットボトルを返す。
すると、彼女は迷いなくそれに口をつけてググッとドリンクを飲む。
飲み干す。
そして、「ぷはぁっ」と気持ちいい声をあげてから。
少し糸を引かせながらペットボトルから口を離す。
チラッと俺を見る。
湿っぽく、ツヤっとした口元を見てしまう俺に対して。
彼女はクスッと笑いながら言った。
「滝沢君の味がしたね」
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