友達とは

「ほら、ゆっくりしてて。友達の家に来るの初めて?」

「……まあ」

「そっかあ。普段は何してるの? バイトとか? それともやっぱり読書? でも本を買うにもバイトしないとだもんね。ねっ、バイトってしたことある?」

「……」


 紫すみれの部屋に来た。


 八畳ほどのワンルームで、アパートの外観とは違い部屋の中はとても綺麗だ。


 廊下に敷かれたカーペットも、部屋の大きな窓にかかった遮光カーテンも、淡いピンクのベッドも。


 俺の散らかった部屋とは全然違う。

 とても大人びた、それでいて女の子の部屋だとすぐにわかる可愛らしい内装。


 そんな雰囲気にドキドキしながら、俺は今彼女のベッドに座らされている。


「あの、紫さん」

「なあに?」

「この部屋には、ほかに友達とか遊びに来たこととかあるの?」

「ううん、人が来るのは初めてかな」

「初めて……」

「うん。お引越しも親に頼らず一人でしたから。だから滝沢君がここに来てくれた初めての人。えへへっ、なんか緊張するね」

「……」


 急な笑顔に胸の高鳴りが一層激しくなった。

 反則級の笑顔、そして可愛い笑い声。

 俺は今、学園のアイドルの部屋にいる。

 意識するほど、足がすくんで動かなくなる。

 そして反対に、体が前のめりになっていく。


「このベッドもふかふかしてていいでしょ?」

「う、うん。でも、さすがに紫さんが寝るところに腰掛けるのは気が引けるよ」

「なんで? 友達なんだから遠慮しないでよ。ほら、友達ってなんでも話し合えて、本音でぶつかれる人のことでしょ?」

「そ、そうだけど」

「嘘つかなくて、全部本音で本気で話してくれて、どんなことでも曝け出すことができるのが友達だよね? だから私たちの間に嘘はないよね?」

「……うん」


 どうもさっきから詰められている気がしてならない。


 俺が嘘をついていることなんて、彼女はもうお見通しなのかもしれない。

 しかしこんな場所で認めたらそれこそ監禁確定。


 どうやって話を終わらせて帰宅しようものか。


 悩んでいるところで紫すみれは。


 俺を置いて部屋を出て行く。

 そして。


 振り向きざまに言った。


「お風呂入ってくるから。絶対、ぜーったい帰ったらダメだよ?」


 

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