軟禁

「ふんふんふーん」


 紫すみれは今、厨房で鍋を温めている。

 俺はそれを見ながらキッチンの椅子に座っている。


 座ったまま、縛られている。

 身動きが取れない状態。

 なぜこうなったかについては、部屋の前の会話の流れからである。


 俺の身長を再び聞いてきた彼女に、もう嘘はつけないと思って俺は即座に謝った。

 

 本当は身長166センチだということを自白した。

 すると彼女は笑いながら、「そうだよねー、知ってる」なんていいながら。


 俺もそんな様子にホッとしたのだけど。


 一緒にキッチンへおりた後、事態は急変した。


「あの、紫さん……」

「なあに? カレーのいい匂いしてきた?」

「そうじゃなくて、この縄は?」

「嘘ついたお仕置き。ふふっ、こんなんで許してもらえるんだから優しいでしょ?」

「……」

「あれ、不満? 私は友達に嘘つかれてすっごく傷ついてるのになあ。死のうかなあ」

「そ、それはごめんなさい……あの、いつまでこうしてるのかなって」

「さあ? いい子にしてたらすぐ解いてあげるけど」


 そう言って彼女はまた静かになった。

 俺も、これ以上抗うともっと酷いことになりかねないと思い、黙り込む。


 グツグツと煮えるカレー。

 そして手を動かそうとすると軋む縄。

 そんな音だけがはっきり聞こえるほどに、部屋は静かだ。


 早く母さんに帰ってきてほしい。

 そう願いながら、静かにカレーの完成を待つ。


 そして。


「はい、完成」


 カレーが俺の前に運ばれてきた。


 湯気が立ち込めて、その熱気で少し額が汗ばむ。


「……このままだと食べれないんだけど」

「あー、たしかに。でも、思ったより身長低いから私でもあーんさせてあげやすいよねえ」

「……そのことはさっき謝ったじゃんか」

「なにがあ? 別に私、気にしてないよ? 男の子だから身長高めにサバ読むのは普通だもんねえ」

「……」

「でも、縄をほどいたらまたコソコソと誰かと電話したりするし、お食事の時に電話なんてマナー悪いし、私が食べさせてあげるね」

「い、いや、それは」

「いや?」

「……いただきます」


 こうして、拘束されたままの晩御飯が始まる。


 そしてなぜか、ポケットの中の携帯が震えているが、確かめる術はなく。


 アツアツのカレーが口元に運ばれてきた。

 

 

 

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