三船さんは

「おはよう、おふたりさん」


 学校に着いてすぐに面倒なことになった。


 三船咲が正門で俺たちを待っていたのだ。


 当然俺は身構える。

 しかし意外にも紫すみれはニコニコしながら彼女に挨拶を返していた。


「おはよう三船さん。今日から部活頑張ろうね」

「じゃあ、私を入れてくれる気になったんだ」

「ええ、もちろん。早速今日から読書部の活動開始よ。放課後までに一冊、あなたのおすすめを考えておいてね」


 紫すみれは得意そうに言って先に校舎の中へ。


 そして三船も俺に何か言うこともなくその後をついていく。


 俺は、少し間を空けて二人が見えなくなってからゆっくり教室へと向かった。



 昼休み。

 俺は当然のように家庭科準備室へ向かっていた。

 もちろん自主的にではない。

 昼休みに入る前にラインが十件ほど入っていた。


「昼休みだね、もうすぐ」

「家庭科準備室の場所ちゃんと覚えてる?」

「今日もパン買うから」

「そういえば三船咲は昼休みも来るつもりなのかな?」

「もうすぐ授業終わるね」


 云々。


 とりあえず昼休みになったら部室に来いと言いたいのだけはわかったので急いで向かうことに。


 道中で三船咲に出くわさないか心配したがそれはなかった。

 それこそ三船と一緒に部室に入室なんて展開になれば、中から包丁の一つくらい飛んできたっておかしくはない。


 余計なトラブルにならないためにも今はあの部室に行くことが最優先だと、早足で紫すみれの待つ場所まで向かった。


「失礼しま……す」

「遅いよ滝沢君。どうしたの? 何警戒してるの?」

「あ、いや別に」

「三船咲ならさっき来たわよ」

「え、いたの?」

「なによ、会いたかったの?」

「そ、そんなわけないって。でも、あっさり帰ったの?」

「ええ。ちゃんと、今後について話しておいたから安心して。それより、パン食べる?」

「う、うんいただくよ」


 三船がさっきまでここにいたというのに、紫すみれはむしろ上機嫌だ。


 打ち解けたのか、それとも何か話の決着がついたのか。


 まあ、どちらにせよいいことには違いない。

 それに、三船咲については不審な点も多くて警戒すべき存在ではあったけど、よくよく考えてみたら彼女の入部により、紫すみれと二人っきりの放課後を過ごす心配がなくなるのだからむしろありがたいとも言えるわけで。


 色々と不安は残るが、うまくやればそれなりに楽しい放課後ライフもあり得るんじゃないかなとか。


 そんな能天気なことを考えてしまっていたのはきっと、紫すみれが終始ニコニコで穏やかだったせいもあるのだろう。


 平和な昼休みは滞りなく終わり。

 平穏な午後は穏やかに過ぎていき。


 放課後。


 その日部室に、三船咲がくることはなかった。


 

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