きっと気のせい

「どう、おいしかった?」

「う、うん」


 ちょうどシチューを完食した頃に、見計ったかのように紫すみれは戻ってきた。


 少し長かった気もするが、聞くわけにもいかないと、俺は会話を続ける。


「お、おいしかったよ。ご馳走様」

「ううん、お口に合ったみたいでよかった。それより、三船咲さんが明日入部するとして、どういう活動にしていく? 三人になるわけだし」

「確かにどうしたらいいかな? 読書部なんて、本読んでその内容について話し合うくらいしか思いつかないけど」

「話し合う……それいいんじゃない? お互いに読んだ本の内容を話していって、相手が興味を持てるような紹介をするとか」

「あ、なんかそれいいね。部活っぽい」

「でしょ? じゃあ、早速それでいってみましょ。三船咲は……まあ、明日部室に来たら私から説明しておくわ」


 三船咲の名前を出す時の彼女はやはり機嫌が悪そうに話す。

 単純な嫉妬か、それとも嫌悪感か。

 なんにせよ、三船咲を読書部に入部させることに対しては納得はしていない様子。

 なのに受け入れると決めたのには、やっぱり理由があるのだろう。


 でも、それを聞くだけ野暮というか。

 聞けばボヤが起こりそうだからやめた。


 こんなメンヘラの腹の内なんて知ろうとしても火傷するだけだし、言われたところで理解なんてできやしない。


 今は成り行きを見守ることと、俺の正体を隠すことにのみ集中するのがベターな選択だろう。


「じゃあお願いするよ。俺、三船さんみたいな人はちょっと苦手だから」

「そうなの?」

「うん、まあ。気が強い人って怖いというか、あんまり得意じゃないかな」

「ふーん。でもそうよね、あの子はちょっとわがままそうだもんね」


 私は違うけど、とでも言いたそうな口ぶりで得意げにそう話して紫すみれは食器を片付け始めた。


 台所に立つ彼女の後ろ姿を俺はまたじっと見つめる。


 実に手際がいい。

 まるで台所のどの棚に何が入っているのかも全て把握しているかのように淀みなく片付けを進める紫すみれ。


 そんな姿を見せられたせいで、きっと邪推しているに違いない。

 ただの偶然だ。

 よくある柄なんだろう。


 彼女がつけているエプロン。


 俺が中学校の時に家庭科の授業で縫ったものとそっくりなんだけど。


 あんなチェック柄のものはよくあるのだろう。


 だってあれは俺の部屋の押し入れの奥にしまってあるはずなんだから。

 

 

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