見つけないとねえ
◇
「滝沢君、おまたせ」
手際良く、キッチンで調理をする紫すみれの姿はとても女子力が高くきっといいお嫁さんになるなと思わせるだけのものがあった。
まあ、勝手に人の家の台所を使い、しかも何がどこにあるかを聞くこともなくそれこそ慣れた様子で料理する姿は恐怖でしかないが。
「これは……ビーフシチュー?」
「そ。私の得意料理なの。食材もあったしちょうどよかったわ」
「へえ、いい匂い。食べていいの?」
「もちろん。器も熱いから気をつけてね」
ぐつぐつと沸いたシチューはトロトロでとてもいい匂いがする。
鍋つかみで器を持ってきた彼女はゆっくり俺の前にシチューを置く。
そして、そばに置かれたスプーンを使って俺はそっと口へ運んでみる。
「……ん? うまっ」
「ほんと? よかったあ」
「いやあこれ本当に美味しいよ。でも、こんな鉄の器が家にあったなんて知らなかったよ」
「ふふっ、シチューとかは普段作ってくれないの?」
「母さんはあんまり料理を凝らないからなあ。ハンバーグとかだって数えるほどしか」
「へえ」
満足そうに微笑む紫すみれはまだくつくつと煮えているシチューを自分の手に持ったスプーンでひと掬いしてパクリ。
そして「うん、バッチリ」と頷いてから俺に背を向けるとゆっくり廊下の方へ。
どこに行くつもりだと立ち上がって引き留めようとしたが、すぐに彼女が行こうとしているところがわかったので再び椅子に腰掛けた。
きっとトイレだ。
あまり女の子に野暮なことを聞くもんじゃあない。
最近はセクハラとかもうるさいし。
それより、せっかくだから熱いうちにビーフシチューを堪能させてもらおう。
◇
「ふふっ、滝沢君の部屋発見」
私の料理を食べてる間はきっと彼は動けない。
それくらい腕には自信がある。
今のうちに、彼の部屋にちょっとお邪魔します。
「わあ、なんか本がいっぱい。やっぱり私たち、趣味が合うね」
ぎっしり本が詰まった本棚、本が散乱した机、枕元に漫画が積まれたベッド。
その全てを堪能したいけど、今はそれが目的ではない。
彼がももにゃんのバイトをしていたという証拠を掴む。
きっと三船咲は何か知ってる。
滝沢君は何か隠してる。
もしかしたら二人がグルかもしれない。
そうだとしたら私……
「三船ちゃん、死刑だね。あと、滝沢君は一生私の奴隷かな」
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