たくらみ

 どういう風の吹き回しでそうなったのかは不明だが、三船咲に関する議論はあっさり終わった。

 三船咲を入部させる。

 あまりにも意外な答えに俺は戸惑ったがこの話し合いが終わってから紫すみれは上機嫌だ。


「ふふっ、なんかスッキリ。ねえ、晩御飯はいつもおばさまの手料理を食べるの?」

「いや、母さんがいない日は適当に買ってきたりするけど」

「じゃあ今日は買いにいくの?」

「まあ、そのつもりだけど」

「じゃあじゃあ、もったいないしせっかくだから私が作ってあげるわよ」

「え?」

「遠慮しなくていいわよ。ほら、友達でしょ?」

「……」


 果たして友達とは。

 家に来て手料理を振る舞ってくれるのが友達、なのか?

 それはもう彼女のそれだと思うのは友達のいない俺の勝手な思い込みなのだろうか。


 それともやっぱりこいつがおかしいのか。

 それを確かめる術はなく、俺が返事に迷う間に紫すみれはさっさと奥のキッチンでなにやら準備を始めていた。


 声をかけようかと迷ったが、何を話せばいいのかもわからず俺はじっと彼女の後ろ姿を遠目で見ていたのだった。



「……ふふっ」


 彼のあの目、絶対何か隠してる。

 多分三船咲に何か言われたんだ。


 私、なんとなく予想ついちゃった。

 三船咲もあの日、事件現場でちゃんと目撃してた。

 で、なんらかの理由でももにゃんの中の人の正体を知った。

 知った上で、彼に近づいている。

 私と同じ理由。


 彼に惚れたから。


 まあ、気持ちはわからなくもないけどあの日の彼は絶対渡さない。

 かといって遠ざけようとしてもしつこく絡まれたら困るし。

 滝沢君も何らかの理由で正体を隠そうとしているのに彼女にそのことで強請られてるのかもって思うと可哀想だから。


 入れてあげる。

 読書部に参加させてあげる。


 でも、好きにはさせない。

 ていうか、ひどいことしちゃうから。


 ……そういえば滝沢君、どうして正体を隠すのかな?


 あっ、もしかして私以外の人にバレてモテモテになったら私がヤキモチ妬いちゃうって心配してくれてるの?


 ふふっ、嬉しい。

 きっとそうに違いないね。


 でも、そんな彼の気遣いを無駄にしたら悪いし、彼から名乗り出るまではもう少し様子見かな。

 それに、まだ証拠はない。


 絶対、間違いなく滝沢君があの人だとわかるためにも。


 三船咲には一仕事してもらおうかしら。

 

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