この後いいかな?

「い、今なんて?」


 俺は耳を疑った。

 今、俺に向かってももにゃんと。

 三船さんはそう言った、ように聞こえた。


「あら、紫すみれは誤魔化せても私に嘘は通用しないわよ。あの日、通り魔を捕まえたももにゃんはあなたでしょ?」

「……なんのこと、かな」

「私、あの場所にいたの。そして見てしまったのよ。駅の裏に逃げ込んで着ぐるみを脱ぎ捨てるあなたと、逃げていく着ぐるみ姿のあなたを羨望の眼差しで追いかける紫すみれを、ね」


 三船さんは、確信を持った様子で自信満々に俺に微笑みかける。

 その時、俺は瞬時に考えを巡らせた。

 バレている以上正直に白状するべきか、それとも意地でも言わないべきか。


 ただ、悩む俺に対してそんな余地を残させないように三船さんは言う。


「言わないなら、紫すみれが戻ってきた時に暴露するから」

「……俺がももにゃんの中の人です」

「あら、正直になれたんだ。えらいえらい」

「……」


 ここで突っぱねて本当に紫すみれに正体をバラされたらそれこそ終わりだ。

 三船咲の狙いはわからないが、とにかく今は紫すみれにバレたくないが最優先だ。

 だから仕方なく俺は自白した。

 すると、


「ただいま、話はついた?」

 

 ちょうど紫すみれが戻ってきた。

 振り向くと、不機嫌そうな紫すみれが俺をじっとみている。


「……話はしたんだけど、まだちょっと説得はできてなくて」

「ふうん。じゃあ楽しくお話してただけなんだ」

「ち、違うよ! ねえ三船さん」


 訴えるように三船咲を見る。

 すると、にやりと笑いながら窓の外を見ながら呟く。


「私を拒否したら後悔すると思うけどなあ」


 その言葉の意味を俺はなぜかすぐに理解できた。

 つまり、三船さんを拒めば正体をバラすと脅しているのだ。


 紫はポカンとしていたが、意味がわかった俺は慌てて取り繕う。


「紫さん、あの、三船さんを入部させるかどうかについてはこの後俺と紫さんで話し合うってことでどうかな? ほ、ほら、今後の部活動の方針とか活動内容とかの報告もあるし、ここで決めつけるのは早計かもだし」

「この女のことをかばってる?」

「ぜ、絶対そんなことないよ! 俺はただ、紫さんとせっかく部活ができて楽しいのに、こういういざこざで部活が無くなったら困るなあって」


 思ってもいないことをつらつらと。

 しかし、そんな咄嗟の嘘が何故かメンヘラには届いたようで。


「……そこまで言ってくれるなら、うん、わかった。じゃあ、今日のところはお引き取り願います、三船咲さん」

「ええ、わかったわ。じゃあ明日までに結論出しておいてね」


 互いに納得した様子を見せた彼女たち。

 そして三船さんは何も言わずに部屋を出て行った。


「ふう……」


 危機一髪。

 ただの延命でしかないが、しかし生き延びた。

 明日まで命がつながった。

 そしてタイムリミットは明日の放課後。

 それまでになんとかして三船さんの要望を受けれるように紫すみれを説得しないと俺の正体がバレる。


 今は三船咲の目的云々を探るよりそれが先決だと。


 今からどう紫すみれを説得しようかと悩んでいると、当の本人が俺に向かってサラッと言った。


「この後の相談なんだけど、滝沢君のおうちでいいかな?」


 

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