私は知っている

 気が重いまま迎えた放課後。

 俺は重い足取りで部室に向かった。

 そうしなければ自らの身が危険に晒されるとわかっているから。


 しかし。

 部室である家庭科準備室に入ると、俺はあり得ない光景を目にすることとなった。


「あなた誰なの?」

「私は三船咲。入部希望なんだけどダメなのかな?」

「これ以上の部員は募集してないからお引き取り願います」

「でも、文化部でも最低五名までは入部希望者は受け入れる義務があるって聞いたんだけど」

「そんなの知らないしうちの定員はもういっぱいだから」


 部室の真ん中で紫すみれと三船が言い争いをしていた。

 そして二人とも、俺が入ってきたことに気づくと揃ってこっちを見てきた。

 そしてまず紫すみれが俺のところに。


「滝沢君? ねえ、この女がしつこいんだけど追い出してくれない?」

「お、追い出すの?」

「あの子にいてほしいの?」

「そ、そうじゃないよ……でも、さっき三船さんが言ってたことは事実というか」


 うちの校則は案外細かいというか、ややこしいことで有名である。

 

 制服の着こなしや髪型なんかもうるさく、部活動の活動時間も細かい上に休日を必ず週一はとらないといけないとか、部員の増減なんかもいちいち報告しろとか、とにかく面倒くさい。


 今はそれなりの進学校になったものの昔はもっと偏差値が低かったそうで、その頃にいじめだったり部費の不正利用なんかがたくさんあったとかなんとか。

 その当時に厳しくされた校則がそのまま受け継がれていると聞いたことがある。


 まあ、そんな話は置いておいたとして。


「紫さん、一応彼女の話をもう少し聞いてみたらどうかな? ほら、うちの部活に入りたい理由とか」

「滝沢君は入ってほしいの?」

「そ、そうじゃないよ。でも、断るにしても順序立ててしないと、トラブルになったら困るなぁって」


 苦しい言い訳だが、それくらいしか言いようがなかった。

 頼むから納得してくれと願いながら紫の反応を待つと、彼女は少し間を置いてから「私、トイレ行ってくる」と。


 そしてそのまま部屋を出て行こうとするが、扉を閉める時に小さな声で「戻ってくるまでに話つけておいてね」なんて言って。

 

 ピシャリと扉を閉めた。


「……まずいな」


 紫が怒っているのは明白だが、それを俺にぶつけることなく我慢したのは三船がいたからだろうか。


 とにかく、紫が戻るまでに三船を説得して追い出さないと。


「あの、三船さん」


 気を取り直してすぐに三船さんの説得にうつろうと彼女の方を見る。

 すると、三船さんもまた俺の方をじっと見ていた。


「紫すみれの言いなりなんだ」

「い、言いなりってそんな……でも、彼女の機嫌を損ねたくはないんだ。だから部活のことは特別理由がないなら諦めてくれないかな?」

「ふーん、やっぱり紫すみれの味方なんだ」

「味方って……あの、なんで読書部なんかに入りたいの?」


 気まぐれか、それとも冷やかしか。

 はたまた紫すみれのことが嫌いで、彼女に対する嫌がらせのつもりとか。


 色々と想定したが、彼女から返ってきた言葉は別の意味で俺の予想を裏切った。


「私を拒否したら、正体バラしちゃうよももにゃん君」

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