私の推理を聞いてくれる?
俺は生粋の帰宅部である。
中学校三年間はひたすら家と学校を往復していたし、何パターンかある下校道のどの経路が一番早く家に着けるかをひたすらタイムアタックしていたこともある。
それくらい、どうしようもない帰宅部。
ただ、俺のいた中学は部活も盛んではなくそんなやつはゴロゴロいたから気にならなかったけど。
今は違う。
俺のいる高校は文武両道を掲げ、原則部活動には所属という厳しい校則がある。
もちろん家庭の事情等のやむを得ない理由がある場合はその限りではないが、俺にはこれといった理由もなく、入学してからこの数ヶ月の間にも、何度か担任に呼び出されて部活動を選ぶよう促されたことがある。
つまり何が言いたいかと言えば、俺が帰宅部であるとバレたらあの日のももにゃんが俺だった可能性をグッと高めてしまう恐れがあるということ。
それだけは避けなければと、頭を巡らせながら俺は紫すみれに連れられて入ったファミレスのテーブル席で、彼女の向かいに座ってオレンジジュースを飲んでいる。
「ねえ、そういえば滝沢君は何部?」
恐れていた質問が早速きた。
「ええと、俺は……あ、そういえば紫さんは何部なの?」
質問に対して質問で返すという無礼な対応だが、今はこれしかない。
先に質問に答えろと怒られる予感もあったが、紫すみれは嬉しそうに答えてくれた。
「私? 私は今は部活入ってないんだあ」
「え、そうなの? でもうちの学校って」
「そ。部活動は原則所属だもんね。最初はね、弓道部に所属だけしてたんだけど、昨日辞めてきちゃったの」
「そうなんだ。合わなかった、とか?」
「んー、それもあるけど。でもね、私を救ってくれたあの人と、同じ部活動に入りたいなあって」
「……なるほど」
メンヘラは好きな相手と常に行動を共にしたがる。
紫すみれもまた、例外ではないようだ。
しかも行動力があるというのが厄介。
やはりバレたくない。
でも、放課後にバイトできるやつなんて帰宅部くらいのものだという彼女の推理は当たっているし。
……そうだ。
「で、滝沢君は?」
「ああ、俺も実はまだ部活動入ってないんだ」
「え、それってつまり」
「いやあ、ここ最近ずっと、毎日図書館にいてさ。ほら、うちって文芸部とか読書部とかないでしょ? でも俺、本を読むのが好きで。先生にも一応、そういう理由で入りたい部活がないから個人的に活動しますって説明してるんだ」
半分嘘だが半分はほんと。
先生に部活に入るように言われた時に、「読書部があれば入りますけど」と言い訳したことがあるって話を少し盛った。
それに図書館には週一くらいで行くからこれも全く嘘じゃない。
そしてあの日。
俺がももにゃんだったあの日もまた、図書館にいたことにすればアリバイは成立する。
「へえ、読書かあ。私も読書は好きだから確かにそういう部活があればいいよね」
「まあ、うちって運動系が強いから文化部は少ないもんね」
「ねー。でも、読書部かあ、ふむふむ」
何か思いついたように一人で勝手に頷いて納得する紫。
何を考えているんだろうと不思議そうに彼女を見ていると、チラッと流し目でこちらを見る彼女と目が合う。
「ねえ、滝沢君」
「な、何?」
「私が探してる人のことだけどね、私なりの推理を聞いてくれる?」
「べ、別にいいけど俺にそんな話して何かある?」
「まあ、心当たりがないかなって」
「まあ、そういうことならいいけど」
「うん、じゃあ言うね」
彼女は小さな手帳を取り出した。
そして、その手帳を見つめながら頬を緩め、目尻を下げ、そして目を虚にしながら語り始める。
「身長166センチ体重53キロ、猫背でガニ股気味で運動神経は多分あんまりよくなくて帰宅部で性格は控えめで多分この辺りに住んでる高校生で趣味は読書とかで彼女はもちろんいなくて、自分の正体を明かすことを躊躇うような謙虚で無欲なとても素敵な人なんだけど、あなたはこんな人、知らないかなあ?」
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