教えてくれる?
「おい、紫すみれって結構性格キツそうだよな」
「ああ。でもまあ、前田でもフラれるんだから俺らには縁のない女ってことだよ」
「違いない。でも、あんなに紫に思われる男って誰なんだろ? 羨ましいよなあ」
前田がフラれた話は瞬く間に学年中に広まっていた。
そして、そのことによりももにゃんの正体に対する皆の感心は一層高まっていた。
紫すみれが推理した中の人の情報。
身長、体型、歩き方。
それに該当するやつは誰だと、ある意味の犯人探しみたいなイベントが学校で発生していた。
「……怖い」
俺の身長は166センチ。
非力で、そして少しガニ股。
目立たないタイプでこれといった友人もいないから今のところ俺に目星をつけている連中はいないけど。
いずれ俺じゃないかと言い始める連中も出てくるかもしれない。
そうなると、正体がバレる可能性だってある。
もちろんそうなってもシラをきるつもりだが、着ぐるみ姿を見ただけで中の人物像が透けていたかのようにわかる紫のプロファイリング能力なら、いずれ誤魔化せなくなる可能性は高い。
目をつけられたらおしまい。
いくら可愛くても、あんな強烈なメンヘラに付き纏われたんじゃ俺の高校生活は終わりだ。
人生が終わり、といっても過言ではない。
結婚は人生の墓場、なんて言葉がほんとであれば俺は正体がバレた瞬間墓場行きである。
「……とにかく、人目につかないようにしよう」
昼休み。
俺は弁当を持って屋上へ逃げた。
普段は教室の片隅でひっそりぼっち飯なのだが、それすら怖くて逃げた。
誰にも見られない場所へ。
極力自分という存在を皆の中から消そうと、背中を丸めて教室を出て奥の階段を登っていって。
屋上へ出た。
「はあ……なんでこんなことになったんだ」
屋上に吹く少し生ぬるい風を浴びながら、その場にしゃがんで弁当を食べる。
別にぼっちなのは気にしない。
けど、なんでいいことをしてこんな仕打ちを受けねばならないのか、そこについては不服だった。
助けた相手が病んでいた。
いくら可愛い子でも、あんな強烈なメンヘラに好かれるのははっきり言って怖い。
俺は、高校三年間を棒に振ってしまった気分だった。
「……ん? 誰かきた?」
普段屋上に出入りするような人間はいないはずなのに、重い鉄の扉が軋む音と同時に人影が見えた。
「あれ? 滝沢くん?」
「紫……すみれ、さん?」
紫すみれだ。
長い髪を鬱陶しそうにかきあげながら俺の方へ歩いてくる。
「何してるの?」
「い、いや……紫さんこそ、どうしてここに?」
「疲れたからちょっと屋上の空気を吸いたくて。やっぱり、見つからないよねすぐには」
はあ、とため息をつく紫。
今日も一日中、想い人を探していたようだ。
「……大変だね。早く見つかるといいけど」
「ほんと、そうだよね。今日みたいな嘘つきも出てくるしさー。ほんと、あんな嘘までついてモテたいって思う人気持ち悪い」
イライラする紫すみれの目つきが少し悪くなった。
やっぱりこの子はちょっと変だ。
好きなものはとことん好きで、だけど嫌いなものは徹底的に嫌う。
そんな極端な彼女からは危険な香りしかしない。
「そ、そうだね。ええと、俺は先に行くね」
これ以上ここで彼女と話をしていて、へんなボロが出るのもいけないと、さっさとこの場を去ろうとすると。
紫すみれが、「ねえ」と俺を呼び止めた後で、聞いてくる。
「滝沢君って、身長何センチだっけ?」
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