彼は私の運命の人
「おい見ろよ、紫すみれだぞ」
「可愛いよなあ。あー、まじでお近づきになれねえかな」
「それがよー、最近紫のやつ好きな男子がいるって噂だぜ。なんでも、通り魔をやっつけたやつだとか」
「ももにゃんの姿でってやつだろ? で、誰なんだそいつ」
「さあ。結構探してるやつ多いけど情報ないみたい」
「ふーん。じゃあ、実は俺でしたーって言ってもバレねえかな?」
「ばーか。本人出てきたらどうすんだよ」
「あはは、たしかに」
朝。
少し早めに登校した俺は、教室で一人ぼーっとしながら同じく早めに登校してきていた男子数人の雑談を席から聞いていた。
どうやら紫すみれが俺を探していることは、結構有名な話のようだ。
あちこちにももにゃんの正体を知らないかと聞きまくっている。
でも、さっきのやつらの会話じゃないけど、このまま正体不明のままだとそのうち、なりすましってのが起こる可能性はある。
紫すみれに好かれたくて、そんなことをするバカも出てくるんじゃないか。
そんなことを考えていると、早速そんなことが起きた。
「紫さん、実はあの日君を助けたのは俺なんだよ」
ちょうど俺のいる教室の前を通り過ぎようとする紫すみれに、一人の男子が近づいていってそう言った。
同級生の中でも有名なイケメン男子の前田。
バスケ部のホープだそうで、身長も高く爽やかでとにかくモテる噂ばかり聞く。
あいつも紫すみれ狙いだったのか。
「あなたが、ももにゃんの中の人?」
「ああ、だから俺と付き合えよ」
「……嘘つきは嫌い」
「え?」
「ごめんなさい。あなたに用はないので失礼します」
学年屈指のモテ男を秒でフッた紫は、そのまま自分の教室に行こうと通り過ぎていく。
前田の告白に注目していた周囲の連中も一気にどよめく。
そして当然前田も。
紫の前に回り込んでくらいつく。
「おい、なんで俺が嘘ついてるって決めつけてんだよ? 顔見てないんだろ?」
「だって、あの着ぐるみを着れる人の身長は165.2センチから166.7センチの間だもの。被り物のだぶつき加減からして、多分身長は間違いないわ。それにあなたの肩幅じゃそもそも着るのも無理だし。歩き方もちょっとガニ股気味で、動きを見る限り、多分筋力もそんなにない人だと思うの。そういう人、心当たりない?」
「な、なんだよそれ……いや、着ぐるみなんて誰でも着れるだろ」
「ううん、顔は見えなくても動きとかでどういう人が中にいたか、だいたい想像はつくの。それに私、本気で探してるの。私の運命の人。捕まえて、離さないって決めてるの」
ゴミを見るような目で前田を睨みながら、淡々と話す紫には異様な雰囲気が漂っていた。
誰もが静まり返るほど。
そして前田も、その様子に言葉を失っていた。
「じゃあ、そういうことだから。二度と近づかないで」
そのまま、紫は教室へ戻っていく。
と、その時。
彼女はチラッと俺の方を見た。
廊下から、教室にいる俺を見て少し立ち止まって。
また、歩き出して俺の視界から消えていった。
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