第四十四話 こんな訳の分からない

《草間町 東門付近》




「はぁ、はぁ……。ったく、なんなのよ!」


 銀髪に青い衣をまとった者は駆けていた。


 耳は尖っており、普通の人間ではないのが分かる。

 気の強そうな顔つきから放たれたセリフは、

 所感に誤りがないことを教えてくれた。


 いわずもがな、ペルである。


 真反対に向かっていたペルは、

 後ろから逃げてくる町人を見て

 自身が反対へ行っていることに気付いた。


 冒頭の言葉はそれに気づいて

 自分に腹立って出た言葉である。


「いいわ。結果オーライよ。気づいたのだから問題ないわ。むしろ良く気付いたって私をほめてやりたいところよ。まったく、私って天才だわ!」


 どこかの誰かと同じ考えにたどり着いたペルは

 そうして東門へと向かっていくのであった。



 ────倒壊した東門。

 なだれ込んでくる『剛鬼』


 草間町の民がすでに戦っていたが、

 刃が通らぬゆえ苦戦を強いられている。


 ペルもすかさず助太刀に入ろうとする。


 が、ペルは町の外で戦う気配を感じたようだ。

 目を向けるとその者は多数の『剛鬼』に囲まれていた。

 

 ……それだけじゃない。

 ペルに何か嫌な予感がよぎった。

 

 ペルはすぐにそちらの援護に入ることにした。




 ─────の窮地に。





──────────────────────

《草間町 東門:朔夜》




「やばい、やばい、やばい、やばい!!」



 まわりの『剛鬼』が私に迫る。

 足がない奴は匍匐前進までして近寄る。


「やめろ! 私が可愛いからって!!」


 表情も変えず近づく奴ら。


「マジで! ほんとに!! ごめんって!!!」


 そして奴らは動きを止める。

 そのまま、奴らの体の内側から何か光が走り……。


「あぁおわた これはおそらく 爆発だ 最後にたらふく 米食べたかた……」




 ……はからずとも口から出た辞世の句。


 どうなったかはわからないが、

 私は冷たいような何処かで浮遊感を感じていた。 


 あの世ってこんな感じなのか。

 なんか水の中に浮いているような感覚だな……。


 と思って息を吸おうとしたら、

 大量の水が口の中へと押し寄せる。


「んばばぼ、んばばばばばばば」


 私は訳の分からない言葉を言いながら

 じたばたする。


 やばいって!

 何ここ地獄!?

 私ほど良い奴が地獄!?!?


 ってかまた死んでしまう!!


 と思ったのもつかの間、

 水がパシャリと引いていき、

 私は固い地面に尻餅をついた。


「ゲホッゲホッゲホッ」


 肺に水が入ったかの如く私は咳をした。

 肺には入ってないだろうけどさ?


「ふふん! 一つ貸しね?」


 私の背筋はビクッと跳ねる。


 待ってくれ。

 それだけは勘弁してくれ。


「ほら、何か言いなさいよ。あ り が と う ご ざ い ま す。でしょ?」


 声の主は振り向かなくてもわかる。

 こんな奴に救われたとか恥もいいところだ!!


 振り返るとどや顔のペルがいた。


 ぐぬぬぬぬぬー!

 くそ~、くそ~~。


「……ざーす」


 ペルと目を合わさず

 なんか足元をみながらとりあえず感謝。

 以上。感謝したから終わり。


「まっ! いいわよ。命の恩人にそんな態度でも、私は寛大だから許してやるわ?」

「ざーすざーす」


 末代までの恥!

 私、多分末代だけど!!!


 そうこうしているうちに

 周りにはまた『剛鬼』が集まってきた。


 それもさっきと同じで私狙いのようだ。

 ……人数が三倍ほどになっていたけれど。


 それに気づいたペルが口走る。


「なに。みんなして私を見てるの? きもっ!!」

「いや、私狙いだ。おそらくな」

「アンタ、あんなのがファンで嬉しいの? いいわよあげるわよ」

「お前は馬鹿か。馬鹿かお前は」

「二度も言わないでよ!!」


 どうでもいいところでかみついてくる馬鹿ペル


「構えろ! こいつらまた囲んで爆発するつもりだぞ!!」

「はぁ? 本気で言ってるの!?」

大本気おおまじだ。さっきと流れが一緒だからな。まぁ、次も爆発のタイミングで水の奴たのむな」

「……簡単に言わないでくれる?」

「は?」

「さっきの規模ならまだしもこの人数だったら守れる自信ないわよ!!」

「……ならお前だけでも守ったらどうだ。それかお前だけで逃げろ。どうせお前に助けられた命だからな。渋々だし、頼んでないけど。だから貸し無し!」

「いやよ。アンタを置いていけるわけないでしょ!!」

「何言ってんだお前」

「えーと、ほらあれよ! せっかく貸したんだから回収しなきゃでしょ?」

「いや、お前も死ぬかもなんだろ? いいから逃げろ」

「ふざけんじゃないわよ!」


 そう言ってペルの身体から

 私でもわかるくらいの仙力がわいてくるのが分かった。


「ここでアンタと死ぬつもりはないわ。ちょっと集中するから時間を稼ぎなさい! 出来るだけ均等に周りに集めながら捕まらないようにするのよ!」

「造作もない! 私は成功するけど、お前が失敗したら一生笑うからな」

「黙ってさっさと行きなさい!!!!」



 コイツいつも切れてるなぁ……。

 さぁて、じゃあかき乱すとするか!!!



──────────────────────

《草間町 東門:ペル》



 朔夜はことの重要さをわかってないのか、

 なぜか笑いながら走っていった。


「アイツ、どれだけ馬鹿なのよ……。訳の分からない奴だわ……」


 朔夜が死んじゃうと思ってとっさに唱えた魔法。

 さっきの爆発はものすごく運が良かった。


 四方に囲まれてたからこそ

 水の逃げ場が上にしかなかった。

 だからとどめることに集中できた。


 ただ、早ければ朔夜に負担がかかったし、

 遅ければ爆発は朔夜を木っ端みじんにしたはず。


 狙ったわけじゃない。

 本当にだけに過ぎない。


 今回はさっきの三倍ほどの威力がある。

 その分タイミングはシビア。

 

 水を固めることに注力しすぎると、

 水圧でつぶされる。

 弱めると水は吹き飛んでしまう。


 水圧が強い分、要求されるタイミングも変わる。


 ……正直、自信がない。

 ティナなら多分卒なく守ることが出来る。

 でも、私はうまくいく自信がない。


 もし、私が失敗したら二人とも死ぬ。

 こんなところで死ぬつもりはない。


 こんな訳の分からない所で、

 こんな訳の分からない奴らに、

 こんな訳の分からない状況で。

 死んでしまうなんてまっぴらよ。


 アイツの言う通り、私だけでも逃げれば

 ……死ぬのはアイツだけになる。


 それだけは、イヤよ。


 それで私だけ生き延びても、

 誰も私を責めることはないでしょうけど。


 だけれど、私が私を責め続けるわ。



 ……だめよ。集中しなきゃ。



 自分で自分に言い聞かせた時、

 一陣の風が頬を撫でる。


「おい、ヒトデマン! これいつまでやればいいんだ?」


 気づけば時間稼ぎのために、

 多くの鬼が脚を切り落とされて

 這いつくばりながら迫ってくる景色が広がっていた。


 朔夜は平気そうな顔をしているけれど

 肩で息をしているのが分かる。


「なに。もう疲れてるの? だっさ! こんなのに苦戦するようじゃ朔夜はまだまだね!」

「あれ、デジャヴ?」

「何の話よ! いま私は余裕ないのよ!!」

「だろうな~」

「何よむかつくわね!!」


 私はそう言って気が付いた。


 朔夜の頭部にはもう角がない。

 足も震えている。


 それに私からは見えないけれど、

 朔夜の足元には血が勢いよくこぼれているのが分かる。


「アンタ、まさかどこかやられたの!?」

「いや、うん。まぁ……ちょっとかすり傷」

「嘘おっしゃい!」


 私は反対側に回って朔夜の左腕を見る。

 そこにあったはずの腕はひじの辺りから無くなっていた。


「アンタ……それ……」

「安いもんさ、腕の一本くらい。(私が)無事でよかった」

「何悠長なこと言ってるのよ!」

「いや、言ってみたかったんだよね。この名台詞」

「アンタそれどうしたの!?」

「多分あの辺に落ちてる!」


 そう言って呑気に指をさす。


「……アンタと私、まだ決着ついてないのよ?」

「この前のはノーカンだし、大食い対決は私が勝ったしお前の負けだ!」

「……ッ! 馬鹿な事を!!」

「まぁまぁ、おちつけよ。生えてくるから大丈夫」

「は!?」

「だから、一日くらい治療に鬼力回せば生えてくる! 少し感覚が鈍るがすぐ戻す! それよりもお前こそ大丈夫なんだろうな?」


 そう言って朔夜は私の目を見る。


 そうだ。

 私が失敗すればどちらにせよ……。


「なぁ、ペル」

「……なによ」

「私はお前に助けられたんだ。不本意だがな。だからお前が失敗して死ぬことになっても憎むことはない。恨むこともない。笑ったりもしない」


 朔夜は私から視線を外してそう言った。


「難しいことは考えなくていい。これは私がお前を巻き込んだ戦いだ」


 そして私に視線を戻して言う。


「だからお前はお前が助かることを考えてがんばれ」

「朔夜……」


 何よ。

 いつキャラ変したのよ。


 朔夜らしくないじゃない。


「まぁ、つまりだ。お前の少ない脳のリソースを余計なことに使うなということだ。ただえさえヒトデは単細胞からやっと進化したばかりのへんちょこりんなんだから」

「誰がへんちょこりんよ!」

「ヒトデの話だが?? あれ? ペルってヒトデだったんですか? ん? ん?」

「あ”~~~!! うざったいわね! やっぱりアンタはアンタね!!」

「私は私だが?? 私以外私じゃないの~。当たり前なのだが??」

「だがだがうっさい!!!」


 何よ。

 ちょっといい奴じゃないのって思ったのに!


「ふっ。お前もお前らしくなったところで……。来るぞ、奴らが」

「ふんっ! 勝手に来ればいいわ!! やったろうじゃないのよ! あたしが意地でもアンタを守ってやろうじゃないの!」

「そうだな。決着付けなきゃだしお前に任せる」

「あら、やっとこの前の負けを認めたの?」

「んーん。さっき助けられて一敗。ここで守ってもらって一敗。それでノーカンと大食いはチャラ!」

「それでいいわよ。覚悟しなさい! ここを無事に乗り切ったらアンタなんかギッタンギッタンにしてやるんだから!!」


 そうよ。

 

 こんな訳の分からない所で、

 こんな訳の分からない奴らに、

 こんな訳の分からない状況で。


 こんな……、

 こんな奴と死ぬつもりはないわ!!



 辺りの鬼たちが光る。



「わぁ~~~来るぞ来るぞ~~!!」

「アンタはどんと構えときなさい。行くわよ!! 湧き出る城壁カスケードキャッスル!!」






 轟音が鳴り響く。 






──────────────────────




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