第四十三話 なんで強くなりたかったのか

《草間町 西門の大通り:桃太郎》






 ────ドクンッ。


 鳴りやまない鼓動の音が僕の脳を叩く。


「ティナよ! ワシのことは良い! 辰夜を連れて逃げよ!!」

「駄目よ! 二人を守るって言ったじゃない!」


 相変わらず周りの状況が分からない。

 ────でも、そんなことは


「ええい! 離すのじゃ!!」


 栗太郎の声と、何か固いものを叩いた音が聞こえた。

 さっき見た『黒』と戦っているのだろう。


 人を食べる大きな『黒』

 散らばる『赤』


 僕は、それが無性に気になって仕方がない。


 見るモノすべてがどうでもいい。

 聞くモノすべてがドウデモイイ。


 僕は……。

 今、無性に!!


「あ! 桃太郎君!!」




 ティナさんのもとを離れた僕は、

 そこで意識が途絶えた。




──────────────────────

《義経の屋敷:弁慶》




「ハナから全力で行かせてもらう!!」


 そう言い捨てて佐助は姿を消す。

 陰遁と呼ばれる佐助の得意な忍術だ。


 己の身を影に溶けるようにして姿を消す。

 文字通り無敵ともいえる術だ。


 だが。


「しゃらくせぇってんだ!!」


 俺はそう吠えて岩融を構えた。

 

 ……俺の仙術の適正は『火』

 だが、そもそもの資質はかなり低かった。


 それでも、簡単なモノくらいは昔から使えた。


 だがそれは戦いに使うようなモノじゃなかった。

 必死こいて火を出したところで殴った方が早ぇ。

 

 そう思っていたが、

 牛若が成長を重ねて雷の仙術を駆使しだしたときに

 仙術の有用さを見せつけられた。


 才能がねぇから仕方がねえ。


 そう思って切り捨てるには、

 仙術というものの力は強大過ぎた。


 だから、俺は考えて、そして会得した。


「これは牛若も知らねえとっておきだぜ!!」


 俺は、として

 わざわざ龍ヶ嶺の道場まで行って会得した必殺技を

 俺はここで初披露することとなる。


 岩融に仙力を流す。

 おのが身体の一部のように。


「もうあの頃と同じと思うなよ佐助!!」


 熱い。

 燃えるように熱い。


 そりゃそうだ。


 強い光源が出来たことにより、

 行き場を無くした影たちが消えていく。


 それに従って佐助も隠れる影を無くし姿を現して言った。


「弁慶、お前それは……」

「あぁ、見ての通りだ。俺は熱く燃えてるぜ」


 全身を発火させ、

 岩融をも発火させる『炎の衣』


「これで陰には隠れれねえな!!」


 俺は岩融をぶん回す。


 薙ぎ払いで生まれる風が高熱を運び、

 それだけで攻撃となる。


 武は元より俺の得手。

 そこに『火』を付与することで

 俺の仙術の非力さを打ち消すことにした!!


「室内じゃ逃げるところはねえぜ!!」

「小癪な。だが無駄だ!」


 佐助は戦いの影響でボロボロになっている畳を

 足で蹴り上げて無理やり影を作る。


 だが、それも俺は想定済みだ。


 今や俺自身が光源。


 近づいて畳ごと岩融で払いのける。


 畳をどかせば自然と姿を現すしかねえからな。


 だが、畳を払った先には

 

 俺の岩融を止めた佐助だが、

 放たれる熱気によって身体は爛れていく。


 それでも佐助は引かない。


「なっ!」

「相変わらず単純な奴だな弁慶。いまや俺はこの身体なぞ惜しくはない。全ては幸村さまの為に!!」

 

 自身の身を犠牲にし、

 反撃の機会を作るために影を作ったふりをして

 俺に攻撃をするつもりだったのだろう。


 霊鬼化しているとはいえ下手すれば自分が死ぬ。


 それでも。

 いや、そうだよな。


 こいつはそういう奴だったぜ。


 佐助はクナイを懐から取り出し、

 俺の胸元へと突き出す。


「悪いな弁慶。この詫びはあの世で待ってろ」



 近づく死の足音。


 

 全てがゆっくりと進む。


 

 子どもガキの頃の鬼ヶ島での思い出。

 牛若との思い出。僅かだが朔夜や辰夜達との思い出。


 過ぎては消えて過ぎては消える。

 走馬灯って奴か。

 

 全ての思い出が通り過ぎただろう後に

 俺を待っていたのは『疑問』


 俺はなぜ負けた?


 精進は重ねたはずだ。

 

 苦手な仙術にも取り組み、

 岩融の鍛錬も怠ったことはない。


 牛若と兵法も学び、

 毎日の模擬戦を重ね、

 ただただ強くなるために毎日を過ごした。



 ……なんで強くなりたかったのか?



 俺は何のために強くなろうとしたんだ?

 

 戦いの為?


 俺は……戦いたかったのか?


 なぜ、戦いたいのか。


 俺の中のナニカがそうしろって言うからか。


 何故だ?


 オレがオニだかラカ?


 鬼ノ血ガ。

 オレヲ鬼ニスルノカ?


 「タタカエ」

 「アラガエ」

 「コワセ」

 「ツクレ」

 「オレトイウソンザイヲ!!」


 ……違う。

 俺は壊すつもりはない。

 

 恩人は死んだ。


 多くの連れダチを失った。


 やっと、俺を認めてくれた町の皆が

 今もこの時、殺されているかもしれない。


 強くなりたい。

 いや、強くありたい。


 壊すためでなく、守るために。


 もう、何も失わないように。

 もう、誰も泣かせないように。


 俺が信じた奴を。

 そして、俺を信じてくれた奴を!!


 俺が憧れた恩人『龍辰』さんのように!



 ……何故戦うのか?

 何故、強くなりたかったのか?

 


 んなのわかりきってる話だよな。



『二度と連れダチを失わないため』



 ────グシュア。



 何かが終わったような音がした。


 刺されたときの音ってえげついんだな。

 何かが砕けたみたいな音がしてよ。


 ん?


 そんなことってあんのか?


 てか余韻すげぇな。


 今どうなってんだ俺は。


 ふと視界が。

 いや、意識が戻ったように世界が見える。


 目の前には《ひじの先がグチャグチャ》になっている佐助がいた。


「くっ、一本取られたぞ弁慶。まさかお前が『霊鬼』を出し惜しみしていたとは思わなかった」

「『霊鬼』……だと?」

「なんだ貴様。まさか、今覚醒したのか?」

「俺が『霊鬼』に……?」


 俺は刺されたと思った胸に手を当てた。


 硬い。


 これは……甲羅か?


 心なしか皮膚も強固になってる。

 質だけで言えば龍辰さんの『霊鬼』の時に似てる。


「はっはっは!」

「勝利を確信するには早いぞ。弁慶」

「ちげぇよ。どっかの馬鹿が言ってた通りになっちまったなと思ってな」

「?」

「どうやら俺は『亀の霊鬼』みたいだぜ」

「……そのようだな」

「それによくわかんねぇが、お前のそれ見る感じじゃただ硬いだけじゃねぇようだな」


 硬いものに手を出しただけじゃあんな腕にはならねぇ。

 受けた衝撃を倍加する能力か?


「腕の一本なんぞで……」

「やめとけや佐助。お前、今の一撃にかけるためにその身体犠牲にしてんだ。今回復に鬼力回せばまだ戻るだろう」

「馬鹿言え! 俺は幸村さまを!!!」

「わぁーってるって。俺も治す方法を探してやんよ。幸村は俺にとっても連れダチだからな」

「簡単に言うな! 俺がどれだけ……」

「簡単に言ってねえよ!!」


 佐助は驚いた眼で俺を見る。


「誰かを助けたいって気持ちって奴を、俺は知っている。そして、お前のことだってよく知っている。そしたらお前がどんな覚悟でそこに立っているかもわかる」

「弁慶……」

「それもひっくるめて俺は言ってんだ。一緒に幸村治そうぜ! ってな」

「……無責任な奴め」

「でも、心強いだろ?」

「もし、しくじったら代償はその命で払わすぞ」

「いいぜ?」

「ふんっ。口だけなら何でも言えるがな。……だが、ひとまずはお前の案に乗ってやろう。となればまずは……」

「お前の依頼人って奴に近づいてみる。だろ?」

「ふんっ。御明察だ」

「お前その言葉本当好きだな」

「黙れ。時間がない。行くぞ」


 佐助の横顔は笑っていた。


 さて、こんな馬鹿みたいなこと企てやがった

 クソ野郎のツラを見に行くとするか!


 んの前に。


「佐助、そう言えばどうしてこの部屋に来れたんだ?」

「依頼人からこれを貰っていた」


 佐助に渡された書簡を見てみると、

 この部屋までの方法や、草間町の戦力について

 こと細かく記されていた。


「ごく一部の奴しか知らないようなことまで書いてあんじゃねぇか」

「そのようだな。俺らですら知らないこともあった」

「お前ら忍人衆でもつかめてないはずの情報を……。一体依頼人って誰なんだよ」

「『般若』だ」


 そう言って佐助はこちらをみてもう一度言った。


「『仙樹』率いる六芒鬼が一人、『般若』だ。今、草間町襲撃の指揮をとっているのは奴だ」

「『般若』が何で草間町のことを知ってるんだ!?」

「その前に一つ聞きたい。お前、一部の者だけが知っているといったな?」

「あぁ」

「お前何か知ってるのか?」

「確証はない」


 佐助は険しい顔をしてつぶやき

 そして走りだした。


「……くそ! どうなってやがんだ!!!」


 俺も佐助の後を追った。




 弁慶vs佐助


 勝者 弁慶



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