第四十二話 『赤』と『黒』

《草間町 西門付近:桃太郎》




「あ、西門が見えて来たよ!」


 僕はティナさんが指さす方を見る。

 この町に来た時にも通った大きな門がそこにはあった。


「そこの突き当りを右に曲がれば大通りへと出る。ここを逃せば遠回りになるゆえ、多少目立ちはするが最後は大通りを突っ切ることにしようかの」


 栗太郎の案に僕とティナさんは頷いた。


 どちらにせよ僕はこの街の地理感はない。

 栗太郎に任せた方が無難だろう。


 そう考えていたら突き当りに差し掛かる。

 僕たちは右に曲がり、走り続けた。

 大通りまではすぐそこだった。僕は速度を上げる。


「……ねぇ、まって!」

「えっ! 脚捻ったりしました!?」

「いや、違うんだけど……。何か嫌な臭いしない?」


 ティナさんが怪訝そうな顔で僕に聞く。


「えっ!? 僕かな……」

「違うよ! えっとなんていうか……。あっ!ちょっと待って!!」


 僕はティナさんの方へ振り向いたまま、

 大通りへと足を踏み出していた。


 そして、ティナさんの警告で、

 僕は何かがあるからだと思って視線を戻そうとした。


 首と視線を前に戻そうとしたその経緯の中の『ある存在』が

 僕の取るに足らない思考力を完全に凍結させた。



 前には何もなかったのだろう。



 見てもないからわからない。



 僕が見ているのは『赤』



 数多くの『赤』



 そして『赤』の中に点在する山が人であることに気付く前に、

 大きな動く『黒』が目に入ってしまった。



 僕の見た景色はまさに地獄絵図だったと言える。



 腕や脚、腹部。

 ひどい人にいたっては頭部が欠けた人間を。

 現在進行形で血があふれている人間を

 多くの『黒』が運んで山を作っていた。


 そして、それらを食べる『黒』。

 

 ここには運ぶ『黒』と、

 食べる『黒』がいるみたいだ。


「桃太郎君、見ちゃダメ!!」


 ティナさんが僕を正面に引き寄せて抱きしめた。

 胸部に顔を押し付けられ視界がふさがる。


 だけど、鮮烈で鮮明な景色が。

 あの『赤』と『黒』が今も瞼の裏に映る。


「ちっ。これはまずいのう!」


 聞こえてくるのは栗太郎の声。

 その声はいつも余裕のある栗太郎から出る声色とは違った。


「引き返そう!!」

「そうじゃの」


 ティナさんは強く言い切った。


 だが、僕の第六感が告げる。


「栗太郎君!!」


 もう遅い。と。


「ぬっ。しまった!」


 僕の視界はティナさんの身体で真っ暗なままで

 何が起きているのかわからないままだ。


「お前ら、子供ガキは一人じゃない! そこの女といる奴も捕まえろ!!」


 誰か知らない女の人の声が聞こえる。


 ドクンッ。ドクンッ。


 鼓動の音が聞こえる。


 これはティナさんの?


 いや、違う。





 これは─────僕の鼓動の音だ。





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《義経の屋敷》



「バレたのならば仕方のない。この身体は動きつらくてしょうがない」


 そう言った『素手の霊鬼』は

 自分の顔に手を当てる。


 顔が沸騰するようにボコボコと波を打つ。


 そして出てきたのは青年。

 先ほどの壮年である駿河の面影はどこにもなかった。

 年のころは弁慶たちと変わらない。


「それがお前の本当の顔か」

「さて、ね。お前さんにいう必要はないと思うが?」

「はっ。俺も別に興味はねぇがよ」








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