第四十一話 不死鳥に勝てる乙女は乙女ではない
《草間町 西門付近:桃太郎》
僕たちは弁慶さんの言っていた地下通路から、
西門近くの宿屋まで逃げて来た。
「癪ではあるがこのまま一度西門から出ようかのう」
「どうして?」
僕は栗太郎の提案の理由を聞く。
「敵の狙いがわからんからじゃ。お主が狙いの場合、町を出た方が迎え撃ちやすいのもある。……勝てるかどうかはわからんがの」
「……大丈夫。二人とも私が守るから」
苦い顔をする栗太郎にティナさんがほほ笑む。
「戦わぬことに越したことはない。あくまでも最終手段として考えてくれ」
「うん、わかった♪」
「でも、僕を探しているなら僕がいないと草間町が大変なことになるんじゃ?」
「その可能性はある。じゃがこの町の心配はいらぬじゃろう」
「どうして?」
「鬼と互角の戦いが出来る者の庇護にあるからじゃ」
「鬼と……互角?」
「さよう」
それってもしかして……。
「ここは妖怪の本拠地『冥桜山』の近くじゃ。ゆえにこの騒ぎを聞きつけ奴らが来るじゃろう。鬼の六芒鬼に対する戦力を持つ大妖怪『
『
何度か耳にしたことがある気がする。
僕は何故か感じる懐かしさを胸に、
栗太郎たちと正門へと向かって走った──。
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《義経の屋敷》
「で、一応聞くがお前は誰の差し金でここに来てんだ?」
弁慶は構えを崩さず、
『素手の霊鬼』に問いただしていた。
「さて……ね。俺がそれに答えると思っているのか?」
「答えろよ」
「答えたところでお前さんは信じやしないだろう。だったらこの問答に意味があるとは思えないのだが」
「仙樹か?」
弁慶は変わらず問い続ける。
「くっくっく。時間稼ぎにこれ以上付き合ってやる義理はない」
『素手の霊鬼』はそう言って弁慶のもとへと走り出す。
「その獲物、室内じゃさぞかし不便だろう」
「そうでもねえよ」
弁慶はそう言って岩融を横に薙ぎ払う。
大振りで振るわれたそれを
『素手の霊鬼』は低くくぐりこむように前進してかわす。
空を切った薙ぎ払いは、
止まることを知らない。
「ほら、隙だらけだぞ」
『素手の霊鬼』の鋭くなった手刀が弁慶へと延びる。
だが、弁慶は岩融をあえて畳へと斜めに打ち付ける。
大きな反動が弁慶の身体へと流れた。
それを狙って弁慶は打ち付ける際に少し飛んでいた。
反動は弁慶の身体を前へと動かす。
動けないと思っていた弁慶が反動で
前に出たことで『素手の霊鬼』は間合いを計り違える。
その上、弁慶は勢いをそのまま使って回し蹴りを放った。
『素手の霊鬼』はすんでのところで
その身へ届く蹴りを両の腕で防ぐが
大きく蹴り飛ばされた。
「ハッ。お前はもう少し相手の言葉を信じた方が良いぜ。言ったろ? そうでもねえってよ」
「確かに言う通りだ……。お前さんの攻撃はそうでもない」
『素手の霊鬼』は口元に微笑みを浮かべ言う。
「お前さん、『超鬼』だろう? 武術の技量は確かに優れるかもしれないが所詮は『超鬼』。『霊鬼』とは土台からして違うのだよ」
「ハッ! だからどうしたってんだ? 俺が知ってる話で最下級が最上位に勝ったって話だって知ってるからな。そんなこと言われても屁でもねえぜ」
「ほう? 面白い話じゃないか。興味があるなあその話」
「じゃあ聞かせてやろうか? なんでも『
「……そもそもそいつらがどんな強さを知らんからどうも言えないな」
「『
「そんな奴らが存在するのか!?」
驚く『素手の霊鬼』。
「らしいぜ。しかもその上に『
「この星が崩壊する規模じゃないか。眉唾物だな。一体それはどんな奴なんだ?」
「えーと、確か『
「それはそうだろう」
「は?」
「逆に不死鳥に勝てる乙女は乙女ではない」
「……確かに!!」
「いったい誰にその話を聞いたんだ」
「朔夜っていう奴だ」
「一つだけ教えといてやろう。多分そいつ馬鹿だぞ」
「あぁ、確かにアイツは馬鹿だ」
「うんうん」と頷く弁慶。
「いかんな。俺としたことがこんな与太話に付き合ってしまった」
「いいじゃねえかあと少しくらい」
「俺も俺の仕事があるんでね。それと一つだけお前さんに伝えておこうか」
「あぁ? なんだ」
「駿河は無事だ。南の民家で眠ってもらっている。俺は無駄な殺しは好きじゃないからな」
「本当だろうな?」
「嘘だったら殺したことにするさ。その方がお前さんは動揺するだろうからな」
「わかんねぇな。じゃあなんでこんなことしているんだ」
「……話はここで終わりにしようか。最後の警告だが、俺とやるつもりか?」
「あぁ。アイツらには指一本触れさせねえ!」
「……残念だ」
『素手の霊鬼』はそう言って懐からクナイを取り出す。
弁慶がそれを目で認めるよりも先に投げられ
弁慶の顔をめがけてクナイは駆ける。
それを弁慶はすんでのところで交わしたが、
クナイに何かが付けられているのに気付いた。
「クソっ!」
ドカンと大きな音を立てて爆ぜたそれは、
防御に回した弁慶の腕を焦がした。
だが『素手の霊鬼』の手は休むことを知らない。
致命傷ではないと判断した『素手の霊鬼』は、
畳を踏み付け高く飛び、ひるがえっては天井を地として
天井の梁を蹴ることで弁慶の頭上へと接近する。
爆発で埃や塵が舞い上がり、
弁慶にそれは見えていなかった。
だが、踏みつけた音で
何かが頭上にあることを認識した弁慶は、
感覚だけで岩融を振り回した。
────カンッ!
金属と金属が奏でる甲高い音が、
岩融の攻撃を受け止めたことを告げた。
人を一人打ち付けた衝撃にしてはいささか軽い。
一瞬の違和感が次なる危機を察知させた。
伸びるクナイの切っ先が、
後ろから弁慶の首元へと近づいた時、
弁慶は紙一重でそれを躱した。
「あっぶねぇ……」
「よくぞかわせたな弁慶よ」
「あぁ、お前の正体に気付けなかったら無理だったかもしれねえ。……もっと早く気付くべきだったぜ」
『素手の霊鬼』は黙る。
「瓜二つに変装する技術。そして、クナイと起爆札。さらには空蝉の術……。これだけやられて気付かねぇほうが馬鹿か」
爆風による埃がはれる。
「なぁ? 賀真郷の忍者さんよぉ!!」
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