第三十九話 怒りん坊

《義経の屋敷:桃太郎》




「っはぁ、っはぁ、この部屋遠いよなぁ……」


 弁慶さんの名前を呼びまわってた人は

 肩で息をして汗だくでやってきた。


「で、駿河するが。要件はなんだ?」


 弁慶さんが駿河するがという人に問う。


「『剛鬼』って呼ばれてる鬼やら大鬼やらがいっぱい来て表じゃてんやわんやだ。中でも『剛鬼』は固すぎて誰も倒せねえから、悪ぃがこの場を逃げてくれ」

「なっさけねぇな」

「それだけじゃねえ。弁慶も加勢してほしい! お前がいれば百人力だ」

「んなこといってもこいつらどうすんだよ」

「客人は俺が案内するよ。情けねえ話だが俺は腕を負傷しちまってな」

「んー、どうする?」


 弁慶さんが僕に尋ねる。


「弁慶さんが加勢してみんなが助かるならそうした方が良いと思いますけど……」

「良かったら私も手伝う?」

「ありがてぇ!!」

「んじゃー、ちゃちゃっと終わらせてくるか」

「じゃぁ坊ちゃんらは俺と行きましょうか!」


 そう言って弁慶さん達が出ようとし、

 その人が近づこうとしたとき栗太郎が口を開いた。


「待つのじゃ。お主、駿河といったな」

「あぁ、そうだが?」

「ふむ。弁慶よ、駿河と最後にあったのはいつだ?」

「あ? 昨日の夕方くらいか」

「ワシらがここに来た時に会った時以来じゃな?」

「そうだな」


 栗太郎は少し黙る。


「悪いが坊ちゃん、あまり時間がないんだ。続きは後にしてくれないか?」

「坊ちゃんではない。ワシの名前がわからないか?」

「すまないが、失念したことは後で謝る。とにかく行こう」


 そう言って駿河さんは僕に手を伸ばそうとする。

 が、栗太郎は鞘から刀を抜いた。


「……これは何の真似だ?」


 怖い目をして睨む駿河さん。


「お主、牛若に仕えて十数年ほどじゃろう。そんなお主が牛若の性格を知らぬわけがない。あやつは礼節や義理と人情を欠いてはならぬとうるさい程にこだわる男じゃ。その最も近い家臣の一人であるお主が、客人の名前を憶えてないなんてことあるわけがなかろう」

「おい、待てよ。じゃあこの駿河のおっさんは……?

「弁慶よ。駿河という男は『鬼』なのか?」

「いや、そんなはずはねえが……」

「じゃろうな。こやつは鬼じゃぞ」


 変わっていく空気。


「それでは『駿河』を名乗るお主に最後の質問じゃ」


 刀を駿河さんの顔に突きつけ栗太郎は聞く


「お主は一体、誰じゃ?」


 栗太郎の問いに驚く弁慶さん。

 そして駿河さんを名乗る人は笑いだした。




「くっくっく……。これはこれは……

 



──────────────────────

《草間町:スノウ》





「貴方の言ってることは賛同しかねます」

「それはお前も強い側の人間だからだろう。結局強い奴は無自覚に自分が正しいと思ってんだよ。……今の俺様は強い。だから俺が正しいんだよ。自覚がある分俺はお前ら偽善者よりマシだぜ!!」


 『羽虫』さんは空へと飛び立つ。


 そして加速を付けて

 私の近くの町の方のところへと近づき……。


「やめるんです!!」


 私はとっさに声を上げましたが、

 止めることは叶いませんでした。


 町の方の身体は剣にて鋭く切断されました。


「どうだ! この全能感ッ!! き~もちいなぁ!!!」

「無抵抗な人を痛ぶるのは最低のやることです!!」

「結構なことだ!! お前が何を言おうと強い俺が正しい!!」


 そして、一人。

 また一人と町の方に手をかける『羽虫』さん。


「お前は恐らく強いんだろう。だがお前には見てることしかできねえ。俺様がお前に勝てるかはわからんが、怒りで冷静さを欠いたお前になら俺様には有利に働くだろうからな!!」

「そんなことの為に……。愚かなことです」

「愚か? これが戦略って奴だ!! 能力にかまけたお前には無縁かもしれんがな!!」


 次々と、次々と切られる町の方。


「いえ、愚かですよその行いは」


 私の我慢が限界へとなりました。


未来への氷旅行コールドスリープ


 私は大きな力を振り絞り、

 周り全ての方を氷漬けにしました。

 

 そらを跳ぶ『羽虫』さんは凍りませんでしたが、

 それでも構いません。


「なんだこれは!? こんなに広範囲で凍らせれるだと!?」

「貴方にはこれ以上一人たりとも手を出させません」

「……だが、これほどの力を使えばお前への負担もずいぶんな物なはずだ!」


 そう言って私のもとへと飛んでくる『羽虫』さん

 この速さでは私にはよけられません。

 私、体術には自信がありませんので。


「じゃあな! 雪女!!」


 『羽虫』さんの鋭い斬撃により私の身体は引き裂かれます。

 胴体が上下に綺麗に分かれて……私は倒れました。



「呆気ねえ。実に呆気ねえなァ。……にしてもこんなに凍らせやがって、恐ろしい奴だぜ全く」

「ですが、彼らは死んでいません。仮死状態。わかりやすく言えば冬眠でしょうか」


 私の返答に驚き振り向いた『羽虫』さん。


「お、おめぇなんでまだ生きてんだ!!」

「……? 死んでいないから生きているのですが?」

「お前、身体真っ二つになってんだぞ!!」

「えぇ。存じ上げておりますが」


 私はそう言って自身のを魔力で繋げていく。

 その様子を見て『羽虫』さんの開いた口がふさがりません。


「酸を浴びせられたときや鼓膜がやられてるはずだとか言ってた時点でおかしいとは思いませんでした? 私に物理的な攻撃は通りません。いえ、正確にいえば通りますが意味は成しません。こうやって戻せますから」


 私の身体は元通りに戻り、平然と立ち上がります。

 ……このお気に入りの服が戻らないのは不服ですが。


「この化け物め!!」

「化け物? あなたの身体もこの国では十分異形のようですが? まぁ世界にはさまざまな種族がいるので私には見慣れたものですが……。私もそういう特殊な存在ってだけの話です」

「くっ……。ここはいったん引くしかねぇ」

「逃がすとお思いですか? あなたは私を怒らせるのが『戦略』だったようですが、それは誤りです。貴方はその『怒り』によって死ぬのです」

「くそッ!!」


 空へ飛び、用いるスピード全てをもって、

 逃走する『羽虫』さん。


「ですから、無駄です」


 私の周りに七つの小さな鳥が舞いだしました。


『ハイホー、ハイホー』


 そう歌いながら一羽の鳥が『槍』へと変化する。


七人の氷鳥グラシアルセプト 怒りん坊グランピー


 どんどん遠くなる『羽虫』さん。

 ですが……、


「この程度なら仕留められますね? 怒りん坊グランピー


 青白く光り応える氷槍グランピーを、

 『羽虫』さんへと放り投げる。


 氷槍グランピーはぐんぐんと速度を上げて、

 『羽虫』さんへの距離を詰めていく。


「なんだこれは!? こんなの……くそっ! なんでついてくるんだ!!」


 怒りん坊グランピーは怒りを速度に変え、

 怒りの対象に当たるまで執拗に追いかける子です。


 たとえ間に物をはさんだとしても、

 対象に報復を行うまでは追い続ける執念深い子です。 


「人を傷つける貴方に、グランピーも大変ご立腹の様ですよ。彼、ですから」


 『羽虫』さんの速さじゃ、

 怒りを載せた氷槍グランピーには及ばない。


 『羽虫』さんへの怒りは、

 その辺のモノに当たったくらいじゃ収まらない。


 空に青白い光が炸裂したのを見て、

 私はつぶやきます。


「悔い改めるのです。『氷怒の穿孔グランピースラスト』」


 どこか遠くで、何かが落ちて割れる音がしました。

 そして、一羽の氷鳥が帰ってきました。


「ふふっ、満足そうですね。すっきりした顔をしています」


 氷鳥グランピーは「キュー!」と鳴いて、

 静かに消えていきました。


「あのあたりならきっと、街の外でしょう。誰かの上に氷塊が落ちるなんて事故は起きなさそうです」


 ……私は周りの人を見渡しました。


「治療術師が来るまではこのままにしておきましょう。解凍すると恐らく死んでしまいますし……」


 『霊鬼』

 相性もありそうですがこの程度なら安心です。


 問題はそれ以上の強さを持つ鬼。


 それこそバンダーデッケンをしとめうるクラスとなると

 そこそこ骨が折れそうですね。


「とりあえず、今はこの人たちを救いましょうか」

 

 町の方達を見て私はつぶやきました。


「あぁ、それと……」


 好きにはなれませんが、

 『羽虫さん』もつらい人生を送ったんでしょう。


「……来世では良い人生をお送りください」





 私は手を組み空へ向かって祈りを捧げました。





──────────────────────



読んでいただけてありがとうございます!(˘•̥⧿•̥˘ )


スノウさんつおい!!!


七人の氷鳥グラシアルセプト 怒りん坊グランピー


こういう必殺技の良いところって

こういうのがあと六個もあるんや!!

っていうワクワク感ですよね!


六芒鬼しかり伍妖傑しかり

尊國六弓師しかり八具仙しかり

数字が入ってるだけでワクワクします。


みんなもワクワクしてくれるといいなぁ。


というわけで!!

また次話にてお会いしましょう!!


ありがとうございました!!!









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