第三十八話 悪いのは加害者

《義経の屋敷:桃太郎》




「桃太郎君が、鬼の頭首……なの?」

「そうじゃ」


 ティナさんはとても驚いた顔をしている。


「じゃあ、今ミコトグニで困っている鬼問題は?」

「それは偽の頭首が恐らくやっていることじゃろう」

「偽物さんが居るのね?」

「左様。現に頭首に刻印される『六芒主印』は辰夜に刻印されておる」


 そうしてちらりと栗太郎が僕を見る。


 僕はうなづいて左手の手甲を外し

 ティナさんへ手の甲を見せた。


「これが頭首の証らしいです。実は僕も最近知ってよくわかってないことが多くて」

「そうなんだね。……だからさっき不安な顔してたんだね」

「えっ?」

「わからないけど、私の中で話がつながった気がするの。子供三人だけで旅をしてること、不思議だなーって思ってたの。行くあては決まってないって言ったじゃない? それに草間町も初めてだって。それで七大都市全部回るって言ってたし」


 僕はうなずく。


「さっき般若って人に朔夜さんが負けたって言ってたし、金太郎君が言ってた話と合わせると……、桃太郎君は鬼って知らなくてどこかに隠れて住んでいた。それで頭首を探していた般若って人に見つかってそこを出たんじゃないかなって」

「お主の言う通りじゃな。よくわかったの」

「自慢じゃないけど共感性だけは高いのかも? ペルちゃんが素直じゃないから」

「確かにのう。辰夜も朔夜のせいでこの年にしては色々考えるしのう」


 栗太郎は少し苦笑いをした。

 確かに朔夜さんはめんどくさいからなぁ。


 そんなことよりも。


「その、僕が不安な顔してたのって」

「さっき爆音がした後すぐだよ。弁慶さんが声かけた時気づいてなかったでしょ?」

「あの時ですか……」

「桃太郎君のせいじゃないよ」

「えっ?」

「もしかしたら余計なこと言うかもしれないけど。でも、もし、仮に桃太郎君を探しに来たとしてもだよ? 悪いのは鬼さんなの。桃太郎君が何かしたわけじゃない。被害を受ける人は優しい人が多いから色々考えちゃうかもだけど、どんなときでも、なんだよ? だから気にしなくていいの」

「ティナさん……」


 確かに僕は僕のせいじゃないかって思っていた。

 自分の立場をわかっているのに

 何で呑気に国を回ってるのかとか自分を責めていた。


 今、手放しで僕は悪くないや! とは思えないけど、

 それでも。それでもティナさんの言葉は

 すごく嬉しかった。


「んむ。ティナの言う通りじゃな」

「なんだ辰夜、そんなこと思ってたのか?」


 栗太郎と弁慶さんもフォローしてくれた。

 ……僕は幸せ者だとおもった。


 そんな時、

 僕たちの状況を変える出来事がやってきた。


「弁慶! 弁慶!!!」


 そこかから声が聞こえる。


「あ?この声、駿河するがか?」

「駿河?」

「あぁ。伊勢と並ぶ牛若の部下だ。昨日お前達が初めてここに来た時に表に立ってたおっさんだ。さっき珍しく表にはいなかったから牛若と一緒なのかと思ったが……。どうした駿河!」

「急ぎの様があってな! 今どこにいる!?」

「状況考えろ! 一番奥の部屋に決まってんだろーが!!」



 弁慶さんは大声で怒鳴っていた。



──────────────────────

《草間町:スノウ》




 ……一瞬にして状況が変わりました。


 『羽虫』さんは予想通り、

 大きな音を上げました。


 それは音の爆弾となり、

 周り全ての人の鼓膜を破ったようです。


 多くの人がふらついて膝をつき、

 全ての人が耳に手を当てています。


「ハッハッハ。どーだ俺様の偉大さが分かったか!?」

「うかつでした。もっと早くセミであることに気付いていれば……」

「よくわかったな雪女。まぁ、わかったところで防げるものでもなかったがな。……って聞こえてないか。平衡感覚も狂ってるだろうな。後は余裕だなー。あぁ俺様ってなんて強いんだ!」


 そう言って誇らしげに胸を張る『羽虫』さん。

 

 ペルさんや朔夜さんもすぐに胸を張りますが、

 雲泥の差がありますね。

 

 あの二人はとてもかわいらしいですが、

 この方のはなんでしょうか。

 ……吐き気がします。


「勝利をご確信のところすみませんが、私は雪女ではないです」

「まーだ言ってんのかよ。……はっ?」

「……? いかがなさいました?」

「お、お前! なんで聞こえてるんだよ!」

「何言ってるかよくわかりません。そんな大声なのに聞こえないと思っているんですか?」

「いや! だってお前!! 鼓膜は!?」

「あぁ、なるほど。そんなことでしたか」


 となると『雪女』と呼ばれる方々と

 私は根本的に違うようですね。

 

「そんなことってなんだよ! お、お前雪女だろ!? アイツらだって人間と同様の器官はあるじゃねぇか!! ある程度治るにしても六花りっかが居なきゃ時間がかかるだろ!!」

「そうは言われましても事実、私は聞こえておりますので。それに再三申し上げますが、私、雪女じゃありません」

「うるせえぇぇぇぇぇ!!」


 そういって『羽虫』さんはまた大きく息を吸う。

 今それをされると周りの人にまた被害が!!


「ミ”ィィィィィィィィィィィン””!!!!」


 音の爆弾が再び鳴る。

 私は瞬時に可能な限りの氷の壁を展開する。

 ですがそれはすぐにヒビが入り、割れてしまいました。


「おぉ。すげえじゃねぇか。どうやらお前は六花と同じくらいの力があるらしいな」

「……なぜこのようなことをするのでしょうか」

「……ちっ。やっぱお前には効いてねえのか」

「見てください。貴方の迷惑行為によって皆さんが苦しんでいます」


 そう言って私は皆さんに向かって手を向けました。


 痛さのあまり耳を抑えてのたうち回る方。

 嗚咽を漏らしながら吐く方。

 気絶をされている方。


 様々な方がいらっしゃいますが、

 無事な人は一人もいません。


 なぜ、人を苦しめるのか。

 私には理解が出来ません。


「なぜって? そりゃ簡単な話だ。だよ」

「面白い……から?」

「あぁ。無力な奴を痛ぶったときの全能感、たまらねえだろ? 結局、本能で人は争いを求めてんだよ。俺が、偽善ぶった奴らが子供に言ってたぜ。『いじめはやめろ』ってな。でも本人たちは気づいてないだけで、そいつらに不当な扱いを受けてたやつはごまんといた。結局、力のある奴は知らねえだけで好き勝手生きて気持ちいい思いをしてるんだよ。人を傷つけてな」


 そういって悔しそうな顔をする『羽虫』さん。

 そうなんですね。この人もまた『被害者』だったのでしょう。


 ですが、自分がされて嫌だったことを、

 他人に施してもいい理由にはなりません。


「私にはその理論がわかりませんね」





 どうやらこの人にはお仕置きが必要なようです。





──────────────────────



読んでいただけてありがとうございます(っ ॑꒳ ॑c)


スノウさんの戦いだけ長い理由ですか?

えこひいきです(にっこり)


言わずもがなスノウさんは強キャラです。

さすが姫界隈で序列二位なだけありますね!

そろそろスノウさんも本気を出すみたいなので

次話に期待いたしましょう!!


というわけで!!

また次話にてお会いしましょう!!


ありがとうございました!!!






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