第三十六話 嫌いにならずに済みそう

《義経の屋敷:桃太郎》




 ティナさんへの栗太郎の話が終わった。


「んー。鬼ってすごいんだね」

「そうじゃな。異国では獣人族や魚人族など見た目で見分けがつくじゃろうが、鬼に関してはそれが分からん。ツノも隠せるゆえ鬼と人間の区別もつかんからのう」

「そうなんだ。じゃあ相手の顔もわかってないこの状況だともしすれ違ってもわからないってことだもんね」

「そうじゃ……。つまり、六芒鬼がすでに草間町に居てもわからんということじゃ」

「いや、栗太郎。流石にそれはねえだろ」


 栗太郎の言葉に応える弁慶さん。

 でも、僕も栗太郎と同じ意見だ。


「まぁ、考えすぎかもしれんってのは否定せん。じゃが、その可能性は片隅に置いておく必要がある」

「確かにそうだけどよ」

「それに、六芒鬼においては誰でもなれるからのう。先代の六芒鬼には異国人いる。異国の者でも六芒鬼となりうるのじゃ」

「そうだったの!? じゃあ本当に全く分からないってことか……」


 異国の人も六芒鬼にいたって初めて知った。

 今度教えてもらおう。


「今わかっている六芒鬼は二人。『般若』呼ばれる銀髪で肌が白くなまりの強い男。名前はわからぬが、一人称が『余』である男ってことじゃな」

「『余』!? 殿さまのつもりかよ」


 弁慶さんは笑う。


「じゃがその『余』に朔夜は手も足も出ず負けたのじゃ。侮ることは出来ぬ」

「……その話マジかよ」

「朔夜は絶対話したがらないじゃろうがまことじゃ」


 弁慶さんが黙る。

 みんな喋らなくなって沈黙が生まれた。


 そんな中、ティナさんが突然訪ねて来た。


「話したくないんだったらいいんだけどね?」


 そして僕を見つめる。


「実は、桃太郎君も鬼だったりする?」




────────────────────────

《草間町 東門から少し北》





「さて、これが噂の『剛鬼』ですか……」


 時貞は五人の『剛鬼』を視界にとらえる。


「グォォォォォォ」

「グゴォォォォォ」

「小鬼と同じく意思の疎通もできないようですね」


 時貞は細見の剣を鞘から引き抜く。

 その剣は金色こんじきの十字架を模しているように見える。


「苦しませるような真似は致しません。……参ります」


 『剛鬼』は次々と時貞を襲う。

 時貞は軽い動きでそれらを避ける。


 そしてなぞるようにその剣で

 『剛鬼』の脚や手を切る。

 剣は鉄の硬度以上である身体を突き抜けた。


 だが『剛鬼』の身体には一つも傷がついていない。


 それでも時貞はそれぞれの『剛鬼』に

 同じことをして剣を鞘に納めた。


 その速度は鮮やかで

 数秒もかからぬ早さであった。


「終わりです。無駄な殺生はするつもりはありませんのでご安心を」


 その言葉と共に『剛鬼』は次々と倒れる。


 倒れた『剛鬼』たちは生きている。

 倒れてもなお、あがる声から間違いはない。


 だが、時貞が切った部分より先が

 存在しないかのように動かないのだ。


「あいかわらず反則級に強かね~」

「いえ、この『慈愛の十字剣アモルクルーシス』のおかげです」

「でもそれ使いこなすには回避力が問われるけんね~。どちにしてもすごかよ」

「浦島殿こそただの釣り竿で良く戦えるなと感心しております」

「もうこれに慣れただけたい~」


 浦島の言う通り、

 相性の問題は確かにあっただろう。


 しかし、苦戦すると思われた戦いは、

 あっけなく終了した。


「にしても『霊鬼』まで入ってきてるとは……」

「そうねー。それにしても弱い『霊鬼』で良かったたい」

「浦島さんだから倒せたと思いますがね?」

「んー。多分あれは『イモリの霊鬼』やったけんね。手数を多くとれる奴か、一撃でガッツリ攻撃できる奴なら簡単よ。まぁ『霊鬼』の能力としては当たりやけど。ただ、その『切った者の魂を切る剣』みたいな武器でも簡単に倒せると思うばい」

「えぇ。この剣のおかげで私はうまく戦えております」

「でも結局、使い手次第やけどね。その剣は物質を遮ることが出来んけん、よける技量が無かったら一方的に負けるやん? まぁ俺も『イモリの霊鬼』が弱いけん簡単やったけど、もしあれで槍術も完璧やったら勝ててなかったろうけんね」

「なるほど」

「……あのくらいの『霊鬼』が一人で小鬼を従えてるとは思えんけん、他にも『霊鬼』がおるかもしれん。下手したら……」

「六芒鬼も来てるかもしれないですね」

「そしたら一大事ばい。今の六芒鬼がどれほどのもんかはわからんけどくさ」

「俺、桃ちゃんが心配やけんさがしてくる」

「……本来なら止めるのですが、珍しく浦島殿がまじめな顔ですので黙認しましょう」

「俺はいつも真面目ばい?」


 浦島はニカッと笑う。


「はぁ。とにかくまずは義経殿の屋敷へと参りましょうか」


 時貞の言葉に浦島は同意し、

 義経の屋敷へと駆けて行った。



────────────────────────

《草間町:スノウ》




 草間町の東門に向かった私は、

 とあるものを見つけてしまいました。


 大きな鬼が村の人々を襲っているところです。


「ギャアアアアア!!!」

「助けてぇ! 誰かぁ!!!!」


 戦えそうな方々が応戦するも、

 武器での攻撃が通用しないようです。


 以前、時貞さんが言っていた

 鉄の硬度より硬いと話をしていた者でしょうか。

 鬼の方の攻撃はみんなに当たらないようなので

 戦いに進展は見受けられません。


 ですが、体力の問題でしょう。

 人には寄りますが動きに精彩が見られません。


 攻撃を当てても意味がない という不安が、

 疲れを増させてもいるのでしょう。

 精神的問題は身体的問題に直結します。

 このままだとジリ貧で負けるでしょう。



 何故、逃げないのでしょうか。



 勝てない相手と戦う意味とは?

 自分の命を優先すればいいのでは?

 家族を連れて他の者に任せればいいのでは?


 自分が戦わなくたってこれだけいるのです。

 誰かがどうにかしてくれるでしょう。


 ですが、この人たちはそうはしないようです。


 意地がそうさせるのでしょうか。

 勝てると思ってるのでしょうか。

 

 それとも、ミコトグニの武士が持つという

 誇りがそうさせるのでしょうか。


 理屈的に考えると愚かです。

 

 ……ですが、私はそんな人が大好きです。

 人間のそういう心がとても愛おしいんです。

 これでミコトグニを嫌いにならずに済みそうです。


 ティナさんやペルさん達と同じく、

 愛しい心を持つこの国の人を救いたい。


 だから私はすぐに加勢することにします。


 私は手袋を外して、

 鬼の方が集まるところへと行きました。


「き、君! ここは危険だ! 今すぐ逃げたまえ!!」

「いいえ。私は加勢に来たのです」

「ありがとう。でもここは僕たちがいるから逃げて大丈夫だ!」

「ですがあなたは既にボロボロで、このままだと負けてしまうと判断しますが」

「何を言っているんだい。僕はあの『牙翔一尖流がしょういっせんりゅう』一番の弟子なのだよ?」

「残念ですが、存じ上げません」

「ええっ!?」


 私は鬼の方へと進みます。


「待ちたまえ! その鬼たちに攻撃は効かない! それに君は武器ももっていないじゃないか!!」

「えぇ。存じ上げてます」


 そう言って私は私に攻撃を加えようとする鬼の方の

 拳に向かって手を伸ばしました。


「逃げるんだ! そいつらの力は本物だぞ!!」


 迫りくる拳。

 私は伸ばした右手に魔力を集め、放ちます。


冬への誘いフォールウィンター


 私に拳が届くことはなく、

 拳の先から次々へと凍り付いていく鬼の方。


 そのまま、その隣にいる鬼の方にも

 その奥の鬼の方にも。


 次々と凍らせていきます。


「なんてこった……」

「こんなことが出来る雪女が六花りっか様以外にもいたとは」

「こ、これで助かるぞっ!!」


 皆々が声を上げて

 喜び、驚きの声をあげています。


 ですが今、誰か雪女って言いました?

 私は雪女じゃありませんが。


「ありがとう! 助かったよ!! いやぁ君は雪女だったんだね!」

「いいえ違います。私は雪女ではありません」

「えぇ? でもこんなことが出来るのにかい?まぁ、兎にも角にも助かったよ! いやぁ~、君が来てくれてよかった!!」


 一番の弟子さんからお礼を言われました。

 他の方も次々とお礼を言いに来る方々。


「ですが、安心はできません。まだ大きな鬼の方は十数名いるようです」

「よし! じゃあ僕たちはこのお嬢さんが一人ずつと戦えるように援護するぞ!!」

「了解! 俺らは雪女の援護をすればいいんだな!?」

「雪女ちゃん任せとけ! おい、デカブツ! 俺だ!俺が相手だ!!」


 ……私は雪女ではないと言っているのですが。


 まぁ、いいでしょう。

 後でまた言い聞かせればいいだけです。

 援護は正直助かります。

 手は二本しかないので。


 一気に凍らせるってなると、

 周りも巻き込んでしまいますしね。


 あとは残りの鬼の方々を凍らせたら

 ここは終わりでしょう。

 これくらいならこの戦い方で……。


 そう思っていましたが、 

 たった一人。


 一人鬼の方が増えたことで、

 戦況が変わることになりました。



 それは癇に障る声と共に現れたのです。



「おーいおい、どうなっちまってんだ? お前が噂の六花って雪女か?」


 はぁ。


「いいえ。私は雪女ではありませんが」





 スノウ vs 剣の霊鬼

 開幕




──────────────────────



読んで下さってありがとうございます!(˘•̥⧿•̥˘ )


個人的に草間町の戦いで一番おすすめなのが

スノウさんの戦いでござる!!


技はロミオさんに軍配が上がるのですが

展開が一番好きなのはスノウさんでござる!!

あれ、もはやスノウさんのこと好きなんじゃね?

って思うくらいスノウさんが好きです!!


此度のあとがきは

スノウ愛を叫ぶだけでした。敬具。


というわけで!!

また次話にてお会いしましょう!!


ありがとうございました!!!





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