第三十五話 早く切ればいいだけ

《義経の屋敷:桃太郎》




 僕たちは義経さんの屋敷へと着て、

 一つの広間に案内された。


 ここは屋敷の中心部らしく、

 この場所に来るのも特殊な手順で来なければならない

 最深部にあるらしい。

 それでいて望遠の小窓というものを使えば

 周りの状況も見れるというすごい部屋だった。


 確かに途中、部屋の中を通ったり、

 掛け軸の裏を通ったり、

 階段を上ったのに下りたりと

 ちょっと二回目来ようと思っても

 もう来れないほど複雑だった。


 要人を匿うときなどに使われる部屋らしい。


 別邸だからこそ、

 街の外から攻め込まれたときにここを使うようだ。


「ここなら安全だ。この部屋に来れる奴も限られてるしな!」


 弁慶さんはどや顔で僕に言った。


「万が一の場合はそこの壺あんだろ?」


 そう言って弁慶さんは立ち上がり壺をずらす。

 するとそこにはぽっかりと穴が開いていた。


「ここから地下につながってて、西門近くの宿屋に出られる。そこの主人は源家に嫁いだとこの家系でな。だからこんなことも出来んだ」

「へぇ~。すごいんだね!」


 ティナさんが両手を合わせて感心していた。


「だけどよ、実際何が起きてんだろうな」

「そうじゃの。いくら腕利きがいるとはいえ、こうも状況が分からず混乱していると被害はでるじゃろうな」

「そうなんだよな。草間町は西側にあるから鬼の襲撃も滅多にねえ。大きな争いともなればそれこそ源平合戦以来じゃねえか」

「そもそもこの時代じゃと鬼と戦ったことある者すら少ないじゃろう。六芒鬼はおろか、『霊鬼』などが出ただけでも対応できんかもしれぬ」

「……だな。言っちゃ悪いが俺たちは平和ボケしてたからな」


 弁慶さんと栗太郎がそんなやり取りをしていた。

 前から思っていたけど栗太郎って物知りだよなぁ。


「ねえねえ。私たち、鬼のこと良くまだわかんないんだけど教えてくれないかな?」


 ティナさんが二人に尋ねる。


「ふむ。鬼について何を知っておるかの?」

「えーと、朔夜さんが『霊鬼』って奴で、『霊鬼』は動物さんの力を使えるみたいなのを朔夜さんに聞いたってペルちゃんが言ってたくらいかな」

「んむ」

「他はあんまり……」

「わかった。ティナがペルより強いと仮定して上の三つの鬼の位と敵の幹部である『六芒鬼』の話をしておこう」


 そう言って栗太郎がティナさんについて話し出した。


 僕たちはティナさん達に言ってないことがある。

 それは、僕が鬼の頭首であるということだ。


 信用していないわけじゃないけれど、

 鬼の頭首であることが世間にわかると

 僕の力が利用されるかもしれないって

 栗太郎が決めた。


 このことは義経さんや弁慶さんにも言ってある。


 周りの皆は僕の為にいろいろしてくれている。


 僕も早く頭首らしくならなきゃと強く思った。




──────────────────────

《草間町 東門:朔夜》




「ッハァ……ハァ……」



 『剛鬼』とやらの戦い始めておよそ二十分。

 二十体ちょっとは倒したと思う。

 数えてはいないけど。


 瞬脚をこんなに乱用したのは初めてだった。

 ……体力の消耗が激しいのは知っていたが

 こんなにも早くガス欠するとは思わなかった。


 それもこれもこいつらがおかしいのが悪い。


 バカでかい身体がその辺に転がっていて、

 倒せば倒すほど瞬脚の使えるスペースがなくなる。


 しかも切り落としたのは脚だけだから、

 腕は健在。近づくと脚を掴もうとしてくる。


 一体、倒れている奴の首を飛ばしたが、

 消えることもなく、なんとそれでも動いた。


 おかげで時間がかかって仕方がない。


「ぐぬ~。あんなにカッコつけたのになんかはずいな……」


 なぜかふとペルが脳内に出てきた。


『なに。もう疲れてるの? だっさ! こんなのに苦戦するようじゃ朔夜はまだまだね!』


 ……なんか腹が立ってきたな。


 アイツにこんなところを見られたら、

 一言一句そのまま言ってきそうだ。



 そう思ったらなんか元気が出てきた。

 私はまた『月閃げっせん』を駆使して戦う。 


 かっこ悪い話だが数百体いた『剛鬼』。

 私が相手出来たのはせいぜい数十体。


 倒壊した東門からは、

 どんどん『剛鬼』が入っていっている。


 東門に来るときに

 恐らく大会出場者と思われる奴が

 相手取ってはいたが……。


 私がこんなに苦戦してるんだ。

 アイツらも苦戦してるに違いない。


 そんなこと思いながら、

 数体倒したとき、それは起きた。


 周りにいた『剛鬼』の顔が一斉に私に向く。


「なんだ?」


 奇妙としか言いようがない。


 倒れてるやつも、

 街へ行こうと背を向けた奴も、

 全て首だけを動かしてこちらを見ている。


「きもい」


 私の素直な感想だ。


 そして私の方を向いている『剛鬼』どもが

 私めがけて前進を始めた。


 さっきまではせいぜい五体くらいしか

 反応していなかったがこの数はまずい。


 どんどんスペースがなくなっていく。

 瞬脚を使う隙間がない!!





「……これ詰むくない?」






──────────────────────

《草間町 東門から少し北》




 東門から少し北。


 そこでは二つの脅威が街を蹂躙していた。



「くそっ! なんだこの小鬼!」

「東側で出たって言われてたやつじゃねえか!?」

「こんなんどうやって倒すんだよ!」


 数体の『剛鬼』が流れ着いていたのである。

 

 朔夜の予想通り、腕に自信のある参加者が、

 街の者を助けようとしていたが、

 全くもって力が及ばなかった。



 しかし、問題はそれだけじゃない。



「タノシー! タクシー! ビタミンC!」


 そこでは『槍の霊鬼』が猛威を振るっていた。


「こいつ強いぞ!」

「いや、槍術だけならある程度できる奴なら渡り合える」

「だが……なんなんだこいつは!?」


 東門と同じ光景が広がる。


 つまり、『霊鬼』の無数の腕や脚が散らばっているのだ。


「切っても切っても死にやしねぇ」

「こちとら生身だぜ。こんなのにどうやって勝つんだ」

「諦めんな! どんなにすごかろうがいつか鬼力が尽きるはずだ!」


 そう言って一人の男が切りかかる。


 男の一閃は肩口から大きく胸部へめり込んだ。


「イタイ! ウザイ! キライ!!」


 切られた『槍の霊鬼』の傷口はみるみると再生する。

 

 そして男の刀は『槍の霊鬼』の中にめり込む形となる。


「くそっ抜けねえ! 一体何なんだ!!どうかしてるぜ!!」

「ハハッ! 同化シテルゼ!!」


 『槍の霊鬼』はあざ笑いながら男の腹部へと、

 その槍を伸ばした。



 とその時、一閃が槍の穂先をはじいた。



「いや~。間一髪たいね~」


 長い黒髪を後頭部でくくり、

 水色の羽織を着ている男だ。


 その手には一本の釣り竿。


「見てたけど、めちゃくちゃ再生するやん。すごかね~」


 周りの者はその男たちを見て安堵する。

 

 もう一人、共に来た

 女性かと見間違うような男は

 釣り竿の男に言った。


「では浦島さん。そちらを任せましたよ。あちらの『剛鬼』は私が相手をしてきます」

「あぁ、それがよかろうね。相性ってもんは大事ばい」

「御武運を」

「時貞も気ぃつけるんよ~」


 時貞は緊迫感のない浦島を見てため息をつく。



 だが、


 時貞は『浦島太郎』

 という男の実力を知っているからだ。



「キミ誰~? 胡麻ダレ~?」

「あぁ、覚えんでいいばい。どうせすぐ終わるけん」


 そう言って浦島の顔から笑みは消える。


「お前らみたいなもんが人ば襲うけん、鬼は迫害されるとたい。戦いたい奴は戦いたい奴だけで決闘でもすればええとに」


 『槍の霊鬼』は浦島の言葉に応えず槍を向け突撃する。


 戦いを見守る男は誰も浦島に何も言わない。


 危ない! とも。

 切っても意味がない! とも。

 

 それどころか



 武器はどうするんですか! とも。



 槍の穂先を半身をそらすだけでかわす浦島。

 動きに合わせてたわむ釣り竿。


 そのまま浦島は釣り竿を振るう。


 ──シュパッ。

 ────ゴトッ。


 『槍の霊鬼』の腕が落ちる。


「驚キ! 桃ノ木 山椒ノ……!」


 まさか釣り竿で腕を落とされるとは思っていなかった

 『槍の霊鬼』は驚いた。


 が、それは『釣り竿』で切られたからである。

 腕が落ちたことには気を止めていなかった。


 その瞬間だけは。


 ──シュパッ。

 ──シュパパッ。

 ──シュパパパパパパパパッ。


 腕、脚、胴、肩、腰、腹。


 次々と色んな箇所が切られていく。


「エッ! エッ!!」

「確かにすごい再生やなーとはおもうけどくさ。それより早く切ればいいだけの話やん?」


 まるで「のどが乾いたら水を飲めばいい」と

 井戸を指差して言うほどの気軽さで言う浦島。


 それが出来ないからみんなは困っているわけで。


 切る箇所は無くなり千切りのような

 切り方をされる『槍の霊鬼』。


「フザケルナーーーー!」


 『槍の霊鬼』は鬼力を開放して全てを治療に回す。


「人間ナンカニ、負ケルカー!!」


 その言葉に浦島は答える。


「人間? なん勘違いしとーと?」


 フッと笑って浦島は鬼化をする。

 浦島の頭にはがあった。


「俺も鬼ばい。別に覚えんでいいけどね」


 ただえさえ速かった浦島の高速の斬撃が、

 超速の斬撃へと変わる。


「マ、マイッ……」


 『槍の霊鬼』が何かを口にしたときには、

 塵のように消えてしまっていた。


「あ~、すまん。聞こえんかったたい」


 浦島はペロっと舌を出して

 顔の前に片手を出して謝る。


「あとは時貞の仕事たいね~」


 そう言ってその辺の瓦礫に腰かける。


「ばってん、桃ちゃんたちはどこおるとやろ~」






 浦島もまた、時貞の心配をしていなかった。






 浦島 vs 槍の霊鬼

 勝者 浦島






──────────────────────



読んでいただけてありがとうございます(˘•̥⧿•̥˘ )


朔夜さんピンチ!

はやすぎない!?わら


にしても浦島くんつおい。

大体へらへらしてる人は強いんよ。

栗太郎くんはそれをわかってたんですねぇ……。


というわけで!

また次話にてお会いいたしましょう!!


ありがとうございました!!!






 

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