第三十話 考えたことあんのか?
《草間町:東門》
「あ~ぁ、抜け駆けだ何だいっておきながら我先に行ってやられてんじゃ話にならないじゃん?」
『剣の霊鬼』は落ちていく『弓の霊鬼」を指さして笑う。
「あれ? ってことはもう止める奴いないじゃん?」
悪い笑みを浮かべて
『剣の霊鬼』は門へと向かう。
「御明察」
『素手の霊鬼』はそう言って
素早い身のこなしで門兵たちの間を
縫うようにして突き進む。
通る後には無数の血しぶき。
あっという間に草間町への侵入を果たした。
「ずっこいな~。なら俺様も!」
『剣の霊鬼』も街へ向かおうとした。
先ほどの『素手の霊鬼』の様子を見ていた門兵は、
二の足を踏んで止めることが出来ない。
だが、それでも止めようとする者がいた。
この門兵の心は折れていなかった。
平時は確かに吞気なことを言ってはいるが、
有事の際は自分たちが街を守ると。
固い決意を持っている仲間だと信じている。
数年前の源平合戦で、
その気持ちはさらに強固なモノとなっていた。
だからこそ、自分が先陣を切って
仲間を鼓舞しようとしたのだ。
「待て! 街にはいかせんぞ!!」
その門兵は、死に物狂いで
『剣の霊鬼』の脚へとしがみつく。
その男の脚は既に片方が負傷している。
それにこのような行為で
いつまでも足止めが出来るとは思っていない。
「話せよ雑魚が。俺様を止めようだなんて間違いもいいところだろ? ん?」
そう言ってもう片方の足で、
門兵の傷口を蹴る。
「ほらほら! いつまで我慢できるかな僕?」
「ぐっ! ぐぅっ!」
うめき声をあげる門兵。
だが、その眼は死んではいない。
「いつまでだって? この俺が死ぬまでに決まっているだろう! この街には家族も友も思い出も! そして未来を担う子供たちがいるんだ! この命が尽きるその時まで。お前は俺と共に話でもしてようじゃねぇか!!」
その気迫が本物だと気づく『剣の霊鬼』。
だが、その上であざ笑う。
「死ぬまでだって? あぁそう。じゃあ今死にな。じゃ~ね~!」
『剣の霊鬼』は剣を用いて
門兵の首元へと振り下ろした。
その時、鐘が鳴る。
ごぉーん。ごぉーーーーーん……。
音のする方を見る『剣の霊鬼』
そこには数人の門兵が登っていた。
「そうだった~。アイツがいないんだから止める奴がいないんだわな」
やっちまった。
といった表情で頭をかきむしる。
「さーてと、こうなると仕事がやりにくくなるな~。どうやらこんなところで遊んでる場合じゃないぜ」
そう言って『剣の霊鬼』は街へ向かおうとする。
そして脚にしがみついている羽虫を思い出した。
「あぁ、そうだったわ……。さよーなら」
「くっ…」
──ザシュ。
はねる血しぶき。
非情なるその一連の行動に、
周りの門兵たちの恐れつつも声を上げる。
「お前……! 何故そんな非情なことが出来るんだ!」
「は?」
「今お前が殺したそいつは! 妻も! 子どもも!! そいつを待っている奴がいるんだぞ!!!」
「で?」
「お前ッ!!」
「いやいや、じゃあ一つ聞くけどさ」
めんどくさそうに頭を掻きながら
『剣の剣鬼』が答える。
「お前らは殺したゴキブリの家族のこと考えたことあんのか?? アイツら見た目はキモイかもしんないけどさ、お前に何かしたことあんの? お前ら見かけただけで殺すだろ? 言っとくけど、他の奴はまだしも俺様はお前らが攻撃するまで誰にも攻撃してないよな?」
一瞬言葉に詰まる門兵達。
「攻撃されそうだから。進行を阻害してきたから。だから俺はこいつを殺した。お前らは何もしてないゴキブリを不快という理由で殺すくせに、なんで俺様には文句言うの? わっかんねえな~」
「に、人間とゴキブリは一緒じゃないだろ!!」
「はぁ~。なんで?」
「そりゃ人間は……」
「なんだ? 偉いってか?」
「いや……」
「な? お前らがただ傲慢なだけだろ? なんでそんな考えになったか知ってるか? お前らの方が強いからだよ。ゴキブリじゃ
「そんなこと……」
「そんで、最初の質問……なんだっけか。なんで非情なことが出来るんだ? だっけか? 俺に危害を加えたから殺した。二つ目は……こいつには家族がいるのにみたいな感じだっけか? もう一度言うぜ?」
そして邪悪な笑みを浮かべ続ける。
「お前らは殺したゴキブリの家族のこと考えたことあんのか??」
門兵達に悪寒が走る。
いや、そうじゃない。
……これは、死だ。
「さよーなら、
刹那、あたりの門兵たちは次々と倒れていく。
抗戦した様子はない。
『剣の霊鬼』はその場から動いてもいないのだ。
当然ではある。
そして、他で戦う周りの者は、
『剣の霊鬼』の方へと一斉に振り向いた。
少し離れていた物は倒れてはないものの、
耳を抑えてふらついている。
それ以上に離れていた者は無事だ。
『剣の霊鬼』はケタケタと笑って空へと飛ぶ。
銀色をほのかに帯びる透明色の羽をはためかせ、
そのまま草間町内部へと進んでいった。
────────────────────────
轟音がなった。
そこには倒れていく門兵達と、
空を飛んでいく『剣の霊鬼』の姿を
視認することが出来た。
「……一人足りぬ。一人は鶴姫殿が撃ち落としたようだが一人は逃したか」
暁尖が言ったのは『素手の霊鬼』のことだろう。
『素手の霊鬼』は好んで人が集まっているところを
すり抜けて通って行った。
ゆえに、暁尖をもってしても
動きが全く見えてなかったのだ。
「街に入ったとあらば、もうこのような所で戯れてる場合ではないのう」
そう言って完全に視覚から忍び寄る『剛鬼』を
振り返ることもせずに倒す暁尖。
だが、ここで戦況がまた変わる。
「……異様な」
おおよそ三十体ほどの『剛鬼』が戦闘不能に陥っている。
それが切っ掛けのなのだろうか。
もしくは今の轟音が?
理由は定かではないが、
周りにいた百人ほどの『剛鬼』が一斉に
暁尖の方へと顔を向けた。
その景色はまさに異様。
『剛鬼』によっては首を百八十度回転してみているのだ。
それだけではない。
倒したはずで頭部のない者や
腹部を喰われ胴体がちぎれた状態になった者。
腹部より下だけの脚の状態で立ち上がる者もいた。
そして、合図はなかった。
ない上で全ての『剛鬼』が暁尖を狙い、前進する。
「くくく、実践はやはり面白いのう!!」
暁尖の言葉は嘘ではない。
武芸者たるもの、どこでいつ死ぬかはわからない。
そのことに関してとっくの昔に覚悟は出来ている。
ゆえに、危機的状況でも何も揺るがない。
むしろ、絶体絶命のこんな状況でも、
暁尖はワクワクしていたのだ。
「まとめてかかってくるがよい!!」
飴に群がる蟻のように。
暁尖と『剛鬼』、相対す。
──────────────────────
読んで下さってありがとうございます(˘•̥⧿•̥˘ )
今回、ゴキブリの話が出ましたが、
これは私の永遠のテーマです←えっ
何かされたことないのに
なんであんなに嫌いになるんですかねー。
私なんか見ただけでオカンが走ります。
(」゚Д゚)」オカァァァァァン!!
ファンの方にはごめんなさいですけど
やってること調査兵団と一緒ですよ、ゴキブリ。
壁の中にいる人類(ゴキブリ)が
壁の外にいる巨人(ニンゲン)と戦う話です。
きゃつらも『自由』を求めてるのでしょう。
まぁ、見かけたら倒しますけどね!!!
というわけで!
また次話にてお会いいたしましょう!
ありがとうございました!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます