第二十九話 手練れ

《草間町:東門》




「御仁らよ。儂と鶴姫殿が先鋒を切る。おそらく先頭の三人。いや、四人としておこう。あれらは『霊鬼れいき』と心得よ。後ろの小鬼は『剛鬼ごうき』。うわさで聞いたことがあればそれじゃ。聞いたことがなければ戦うな」


 暁尖ぎょうせんは出来るだけ簡潔に状況を伝える。


「良いか。儂らの優先すべきは街の防衛じゃ。いち早く街に危機を伝え備えねばならぬ。鐘はあの弓の『霊鬼』をしとめるまで使えまい。腕に覚えのない者は一部鐘の近くで待機。それ以外は足を使って先に会場へと告げに行け!!」


 大きな声で返事がひびく。

 暁尖ぎょうせんへの信頼の表れだろう。


「『剛鬼』だが何だか知らねぇが、鉄の硬さだろうが小鬼は小鬼! 俺らで足止めだ!!」


 十数人の門兵達が『剛鬼』へと向かう。

 だが、『素手の霊鬼』が立ちはだかる。


「お前が『霊鬼』だろうが何だろうが! 数には勝てねえぞ!!!」


 なだれ込む十数人の人々。


 するり、するするり。


 何が起きたかわからぬ門兵達。


 それもそうだろう。

 『素手の霊鬼』は人の流れを縫うように

 ただすり抜けただけだ。


「ま、まさか俺らの攻撃をすべて躱して……?」

「くっくっく。ご明察」


 最後の言葉を発した門兵たちから

 たちまち血しぶきが上がる。


「派手にやってんねぇ。ここはあいつらに任せてカリスマな俺様は先に行っちゃおうかなーん!」

「抜け駆けか? 街に入るまでは力を合わせる手筈だったはずだが?」


 勝手に進もうとする

 『剣の霊鬼』を睨む、『弓の霊鬼』。


「お前もいつまで寝てる」


 そしてそのまま『槍の霊鬼』を蹴る。


 むくりと起き上がる『槍の霊鬼』。

 彼はおもむろに自分に突き刺さる矢を

 次々と抜いていく。


「……死ななかった! ハッピー、ヤッピー、ミシシッピ!」

「黙れ。さっさとお前もあれを片付けろ」

「……んぁ! 了解、哨戒、みな崩壊!!」


 『槍の霊鬼』の先ほどまで穴の開いた身体は

 みるみるとふさがっていく。


 そして、『槍の霊鬼』は門兵へと突き進んでいく。


 その戦い方に恐ろしさはない。

 ただ無策で突き進んでいるだけのように見える。


「ほら法螺そらほら空それそろそろソロそれ」


 理解できぬ言葉をただただ繰り返す。

 

 『槍の霊鬼』の腕は切られ足は切られ……。

 倒れるのもおかしくなかった。


 だが、倒れない。


「どうして……。だって、腕や脚……!!」


 気づけば皆、身体に大きな穴が開いている。

 槍で一突きされたような大きな穴が。


 そして、そのあたりに散らばる

 『槍の霊鬼』の腕と脚。


 その数、合計にして二十を軽く超える。 


「生えた! 驚き、桃の木、山椒の木!!」


 切っても切っても生えてくる。


 理解不能の状態に門兵たちのそれは、

 阿鼻叫喚の地獄絵図だった。


────────────────────────


 その様子を見ていた暁尖ぎょうせん

 一人でつぶやく。


「まずいな。あれは手練れじゃ」


 『剛鬼』を相手取りながらも

 冷静に戦況を見極める暁尖ぎょうせん


「グォォォォォォぉぉ!!」

「少しは黙っとれ」


 そういって暁尖ぎょうせんは『剛鬼』へと槍を伸ばす。

 軽く突きだしたように見えるその矛先は、

 鉄の硬度以上と言われている剛鬼を軽く貫いた。


 上がる歓声。


「たかだが鉄も貫けんようなら看板を下ろすわい」


 そういって二人、三人。

 次々と『剛鬼』を討ち取っていく暁尖ぎょうせん


 しかし、数が数だ。


 見たところ他に『剛鬼』と

 わたりあえる者はいないだろう。


「『こちらを取ればあちらが立たず』といったところか。鶴姫殿だけではあの四人は討ち取れまい。せめてあと一人か二人……」


 そんな時、暁尖ぎょうせんはふとある男を思い出す。


「ふっ。こんな時にあの馬鹿息子たちを思い出すとは……。儂も焼きが回ったな」


 笑みを浮かべ槍を突き出し続ける。


「払いを使えぬのは面倒じゃな……、久々に使うかのぅ。老体を少しはいたわってほしいが……」


 暁尖ぎょうせんはそうぼやいて槍を縦に持ち、

 小さくつぶやいた。


「全てを喰らえ。『龍喰迦楼羅りゅうばみかるら』」


 途端、暁尖ぎょうせんの槍は光る。

 形を変え禍々しい気を放つ。


 穂先が黒く変色し、一か所が短く、

 三か所が多少長い。


 まるで鳥の手の足のような形状である。

 槍という特性を考えるとその形状は

 貫くのに適していない。

 

 だが、武芸に精通していない者だとしても

 それを見れば一目でわかるだろう。


 『この槍に触れてはいけない』と。


 止まった暁尖ぎょうせんを見て、

 複数の『剛鬼』は暁尖ぎょうせんを襲った。


「知能がない。というのはやはり憐れなものよ」


 鉄の硬度を持つというのに、

 暁尖ぎょうせんが放ったのは槍による薙ぎ払い。


 だが、穂先が『剛鬼』の触れた瞬間、

 触れた箇所はした。


 数体の『剛鬼』の身体に大きな穴が。


 いや、それは穴というには荒々しい。

 まるで餓えた何者かが食らいついたかのような跡。


「龍をも喰らう迦楼羅の手。捕まればどうなるかなぞ考えればわかるものだが。……やはり憐れというほかないのう」


 自身の身体が消失しているのにもかかわらず、

 なおも暁尖ぎょうせんへとかかる剛鬼たち。


「ふむ、よいじゃろう。飽くることない胃を、お主らで満たしてやることにしよう」


 


 暁尖ぎょうせんは『龍喰迦楼羅りゅうばみかるら』を構えなおした。




────────────────────────




 ──ヒュッ。


 ──ヒュッ。


 『弓の霊鬼』は近づく鶴姫に撃ち続けた。


「くっ。ここまで規格外とは」


 『弓の霊鬼』の矢は一度として

 鶴姫の身体に触れることは許されなかった。



 全ての矢を鶴姫は撃ち落としていたからだ。



「化け物め!!」


 走りながら自分への矢を全て撃ち落とす鶴姫。


「どうやら弓の腕は並み以上といったところでおじゃるね」


 相手の撃つ矢を見て、そう評する鶴姫。

 ……これは褒めてる言葉ではない。



 鶴姫の弓術はかなりの腕前である。



 『尊國六弓師みことぐにろくきゅうし』と呼ばれる、

 ミコトグニで最も優れた六人の弓使い。

 

 その中の一人が鶴姫である。

 腕前を疑う余地はない。



 だが、彼女はそんな自身を過信することがない。



 他の『尊國六弓師みことぐにろくきゅうし』と比べれば

 自分がどれほど足りぬ存在なのかと

 毎度思っているからである。


 鶴姫は真の弓使いを知っている。

 『上』以上を知っているどころか『最上』を知る。


 ゆえに、鶴姫にとって並み以上というのは、

 言葉の通り『並み以上』でしかないのだ。

 


「埒が明かんな」


 そう言って『弓の霊鬼』はすこしかがみ、

 足に力をこめ……、力強く地を蹴りだした。


 そのまま空へと向かう。


 上昇するその最中、

 『弓の霊鬼』の背からは大きな翼が生える。


「俺の目的はお前らと戦うことではないのでな」


 既に鶴姫には聞こえないほどの上空。

 あるいは自分に言い聞かせたのかもしれない。


 そのまま『弓の霊鬼』は草間町へと飛んで行った。


 ……だが、それをただ見逃すのであれば、

 『尊國六弓師みことぐにろくきゅうし』の称は与えられない。


「速さ、角度、高さ、風……。この辺でごじゃるね!」


 

 一つの矢が空を翔ける。



 撃ちだしたその時点であれば、

 素人目であれば少し笑ったかもしれない。


 この時、『弓の霊鬼』が過信せずに

 鶴姫の方を見ていれば結果は変わったかもしれない。


 前方だけを見て飛んでいた弓の『霊鬼』は、

 急に腹部への激痛を感じた。



 急ぎ、自分の手で痛みの中心を探る。


 ぬるりとした感触。

 それは生暖かい感触。


 そこには一本の矢があった。



「く……。どうかしてる……」


 鬼化は溶け、町の中へと落ちていく。



 それを見届けた鶴姫は喜ぶこともない。


 彼女は自分がしたことを

 『

 その程度にしか思っていないからだ。


「ん~。いつの間にやら『槍の霊鬼』が復活しているでごじゃるな。面倒でごじゃるなぁ」



 残りは『剣』『槍』『素手』。




 鶴姫は次の相手へと走り出した。





 ──────────────────────



読んで下さってありがとうございます!(˘•̥⧿•̥˘ )


卍ッ解ッッ!!

を思い出した人は多いはずです。


はい。逃げません。

私の中でもこれは卍解です。


ちなみに中学生の時、

自分の黒い傘に『主喰ぬしくい』と名付けてました。

使用者の生気を吸って強くなる剣(傘)です。


卍解すると『仇禍代あだのまがしろ』と言います。

切られた(叩かれた)相手は私のダメージを肩代わりする能力でした。

誰かを倒せたことはありません。陰キャだったので。


というわけで!

また次話にてお会いいたしましょう!!


ありがとうございました!!









 

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