第二十八話 どこかで鐘が鳴りだした

草間町くさまちょう:桃太郎》




 僕たちは会場近くの大きな武具屋さんにいた。

 どこかの誰かさんがどうしてもというからだ。


「ふふふ。私もミコトグニの色々なものを見てみたかったから丁度良かったな♪」

「そうじゃろうそうじゃろう? ティナはよくわかっておる」

「栗太郎、世の中には社交辞令っていうものがあるんだよ?」

「見よ! なぜこれがこんな安値なのじゃ!!」

「全然聞いてないし……」


 栗太郎はそう言って嬉しそうに

 よくわからない古びた小手を見ていた。


 「へぇ~!」とか「すごいね♪」って

 ティナさんはずっと相槌をしている。

 本当に心が広い。お姉さんって偉大なんだなぁ。


 僕は栗太郎をほったらかして店の奥へ行く。


 見覚えのある赤髪の人が

 何やら小刀を振り回している。

 あれは弁慶さんだ。


「おはようございます! 昨日はありがとうございました!」

「おぅ、辰夜か。よく眠れたか?」

「おかげさまでぐっすりです!」


 僕は昨日の話以来、弁慶さんのことが好きだ。


「んで、お前はこんなところで何してんだ?」

「栗太郎が武具を見たいっていうので付き合ってます」

「そうかそうか。早速連れダチを大切にしてるようで良かったぜ」


 僕の頭をポンポンとなでながら弁慶さんは笑う。

 僕はそれが無性に嬉しかった。


 その時、何か大きな音が聞こえた。


「あれ、今の音なんですかね」

「さぁな。花火でも一個打ち上げたんじゃねぇか? 間もなく開会式だろ?」

「なるほど。毎年時間になると花火を上げるんですね!」

「いや、いつもはそんなことねぇが。まぁ、今年はティナ達がいるから張り切ってるんだろうよ」

「そういうことかぁ」

「そろそろ俺も向かうとするかな。っとその前に……」


 そういって振り回していた小刀をもっていく


「親父、これくれ」

「ほぉ~。てっきり冷やかしかと思っていたが本当に買うつもりか」

「あぁ。ちょっとした隠し種ってやつでな」

「そうかそうか。俺はお前を応援してるからなぁ。隠すつもりならこれも持ってけ」


 そういって店主さんは奥から何かを持ってくる。


「ちっと古いがすねももにあてる防具だ。ここにその小刀をしまえるだろう」

「おぉ! まじでいいのかよ! あんがとな!」


 そういって弁慶さんはすぐにそれらを付ける。

 大きさはちょうどいいみたいだ。


「なんだこれ、ぴったしじゃねぇか」

「そりゃー良かったぜ! 俺はお前を応援してんだ。お前はずっと頑張ってきたしな。今更こんなことしてもあれかもだが」

「何言ってんだ。素直に感謝してるぜ!」


 そういって弁慶さんと入口の方へ向かった。


 途中で、


「こ、これは『正義のそろばん』じゃ!!」

「ミコトグニはそろばんで戦うの!?」


 という会話が聞こえた。放置しておこう。



 入口で賑やかな通りを一瞥して弁慶さんは言った。


「そういやよ。牛若見てねえか?」

「え? いや、そういえば見てないですね」

「だよなぁ。昨日の夜から見てねえんだよなぁ」

「どこ行ったんですかね」

「アイツのことだからしれっと鍛錬に行ってるかもしれねえが……。それにしてももう少しで開会式始まっちまうぜ」

「んー。前もこういうことあったんですか?」

「いや、ねえな。今までは大体一緒に会場向かってたもんな」


 首をかしげる弁慶さん。




 その時、どこかで鐘が鳴りだした。


 ごぉーん。ごぉーーーーーん……。



「あっ、これ開始の合図じゃないですか?」

「いや、そんなことはないはずだ。鐘なんてならさねぇ! だってこの鐘は……」


 弁慶さんが見てわかるほどに取り乱している。


「辰夜!!」


 さっきまで僕たちがいた武具屋の中から

 栗太郎が慌てて出てきた。


「もう、栗太郎君どうしたの? 店の皆も驚いていたし……。この鐘の音、何かあるの?」

「あぁ。鐘は非常事態にしか鳴らさねえ。だが、少なくともここ百年はこの鐘は鳴らされてねえはずだ。点検のために鳴らすとしてもあらかじめ告知がある。少なくともたかだか闘技大会なんかじゃ鳴らさねえ」

「闘技大会なんかって……。この大会、ミコトグニでも大きな祭りじゃなかったんですか?」


 ティナさんの問いに弁慶さんが答えた。

 その答えに疑問を持った僕はまた弁慶さんに投げかける。


「それが『なんか』で済まされるのがこの鐘の重要な所なんだよ。いいか? なにか街にでかい被害が起きると思われるとき鐘はならされる。例えば、数百年前の鎖国がされてなかった時に異国の奴らが責めてきた時はなったらしいぜ」

「そうなんですね……」


 つまりこの鐘が鳴ったってことは、

 多くの人の命が危険にさらされるときってことになる。


「どっちの鐘が鳴ったのじゃ?」

「東門の方だな」

「ってことは万が一にも異国の者が責めて来たとは言い難いの」

「あぁ。東から来たとなれば首都の『京安きょうあん』もやられてることになるからな」

「なら大火事なのかな? ペルちゃん呼ぶ?」

「いや、恐らくだがそれでもねぇ。火事だとすれば本当に街全てが燃えそうな大火事の時だけだ。今、町の中にはいろんな奴が来ている。水の仙術の使い手も少なくねえはずだ。それにこの時期は巡回の数も多い。そんな大事になる前に沈下できるだろう」


 火事でも異国の襲撃でもない。

 だったら……。


「参加者の誰かがめちゃくちゃ暴れたとか!!」

「その可能性はゼロじゃねえ。だが、これは非常事態にしなきゃいけないほどのものかって言われるとな。今、この街は腕自慢が集まってるんだぜ」


 確かに。

 僕の中に『もしかして』の恐怖がある。

 認めたくない。だってそれは……。


「可能性があるならば……」


 栗太郎が言ったその時だった。



『ドゴォォォォォォォォン!!』



 前、山で聞いた時とは

 比べ物にならないほど大きな爆音。

 

 あまりの音の大きさに一瞬めまいがした。

 

 耳がキーンと鳴る。頭がぼーっとする。


 視界がぼやけている。


 うっすら見える景色の中、皆慌てふためいている。


 徐々に聞こえる音。悲鳴、怒号、叫声。


 くらくらする。ぼーっとする。





 そう、これが。




 これが、僕にとって

 鬼との初めての戦であった。




────────────────────────

《草間町 東門》



 騒ぎに気付いた二人の強者。


暁尖ぎょうせんさん!!」

「言わんでもわかっとる。こりゃただ事じゃないのう」


 一人は、牙翔 暁尖がしょう ぎょうせん

 剣客の街 龍ヶ嶺りゅうがみねにて

 槍術の道場を開いている老人。


「おぉ、バンバンやられとるわい。相手方に腕の良いのがおるようだな」


 眼前には信じがたい光景が広がる。

 

 数百体を超える小鬼が

 固まって歩いているのである。


 先頭には数人の人。おそらく鬼だろう。

 

 あれが統率者なのかはわからないが、

 そのうちの一人が弓をひいている。


「相手さんは『霊鬼』のようじゃな。……めんどくさいことに『ひぃ』『ふぅ』『みぃ』……。んむ、少なくとも四人はおるみたいじゃな」


 ───ヒュッ。

 ───ブォン!!


 暁尖ぎょうせんは自分へ飛んできた矢を、

 軽々しく槍の風圧で退ける。


「カカカ。儂を狙うか。結構結構。このまま歩いて向かうのも良いが……」


 そういって暁尖ぎょうせんは後ろを振り向く。


「まぁそうもいかぬわな」

「お任せくださいでおじゃる!!」


 深緑の長い髪をキュッと結び、

 背中の矢を引き抜く妙齢の女性。


 矢を弓につがえたと思いきや、すぐに離した。


 速射。

 否、即射。


 狙ったとは思えない矢だが、

 数発、繰り返して放たれる矢。


 それらは真っすぐそれぞれへと狙いを定め、

 まるで吸い込まれていくかの様に飛んでいく。


「おぉ。なんとまぁ……」


 暁尖ぎょうせんは自分を狙っていた射手を見る。

 どうやら何かしらの方法で矢を凌いだようだ。


「おしいのう」

「一筋縄ではいかないようでおじゃるね。でもこれであと三人でおじゃる」


 言葉を受けて暁尖ぎょうせんはもう一度鬼たちを見る。


 暁尖ぎょうせんが二番目に数えていた、

 槍を持った『霊鬼』に三本の矢が

 深々と突き刺さっていた。


 残りの剣を持つ霊鬼、素手の霊鬼も

 弓の霊鬼と同様にそれぞれ矢を凌いだようだ。


「まだ油断は出来ませぬ。能力によっては致命でもないかもしれないでごじゃるから」

「ふむふむ。にしても流石は『尊國六弓師みことぐにろくきゅうし即弓そっきゅう鶴姫つるひめ殿。実に鮮やかじゃのう」

「よしてください。私は名を連ねさせてもらってるだけの末席でごじゃるよ」


 そういって次々と矢を放つ。


 後ろにはこのためだけに

 矢筒を運ぶものが並んでいた。


 その人数はゆうに十人を超える。


 その為、放てる矢は数百を超える。

 数百体の小鬼から先に仕留めようとする鶴姫だが。


「!?」

「ほほぅ。あれが噂の……」


 複数の小鬼に放たれた矢は、

 全てその肉体に弾かれる。


「『剛鬼ごうき』って奴じゃの……」

「話はよく聞いてたでおじゃるが、見るのは初めてでする」

「東側に出没したと聞いておったが、ワシも見たことなかったからのう」


 暁尖ぎょうせんは、

 自分のあごひげを触りながら考える。


「噂通りの小鬼ならば、『その身体、鉄の如く』と聞き及んでおる。鶴姫殿の矢では貫けまい」

「悔しいですがその通りでごじゃる。ですが、この街にはもう一人の六弓師がいるはずでごじゃるゆえ、彼ならば」

剛弓ごうきゅう為朝ためとも殿か。なれば期待で出来まい」

「どうしてでごじゃるか?」

「状況が状況じゃ。鬼の進撃。自分の身を第一に考える頼朝よりとも為朝ためとも殿をそばから離すまい」

「そんな! 街の窮地だというのに!」

「関係ないのじゃよあの男には。頼朝アレは源家のガンじゃ」

「……なれば私は私にできることをやるでおじゃる。霊鬼を一人でも! この距離だと威力が下がるでごじゃるから戦線へ向かいまする!」

「ふむ。儂は直接『剛鬼』を仕留めるとしよう」


 外壁から下へ通り、広がる平原へ向かう二人。


 その姿を見て多くの門番たちも剣を取り、

 平原へと飛び出す。



 鬼と人間の激戦。



 平和が打ち破られたとして、

 この戦いは歴史に残る戦いとなる。



 だが、しかし。




 





──────────────────────



読んで下さってありがとうございます!(˘•̥⧿•̥˘ )


出ました出ました!

尊國六弓師みことぐにろくきゅうし』!!


もうグループ名多すぎてわからなくなりますよね。

アイドルが多すぎてわからないのと同じですよね。

ごめんなさい。自重します。

あと五個くらいしか出ないので許してください(おい)


というわけで!

また次話にてお会いいたしましょう!!


ありがとうございました!!









 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る