第二十七話 誰もが忘れている

《義経の屋敷:桃太郎》



 鳥の声が聞こえる。


 木々の隙間から揺れる木漏れ日が、

 僕の瞼をなでる。


「よく眠れた気がする……」


 僕はそう呟いて、布団をめくった。

 

 昨日弁慶さんの話を聞いた後、

 僕は自分に用意されていた布団に入った。


 布団での記憶は特に何も残ってないということは、

 あの後すぐに眠れたのだろう。


「よく眠れたのならよかったのぅ」

「あ、栗太郎。帰ってきてたんだね」

「勿論じゃ」


 昨日僕が戻ってきたときは、

 栗太郎も朔夜さんも部屋に戻っていなかった。


 弁慶さんが言ってた通り、

 朔夜さんはペルさんと戦っていて、

 栗太郎は……どうせ街で武具でも見てたんだろう。


「いい武具はあったの?」

「む? あぁ、そうじゃの。やはり七大都市は色んなものがあって良い。それに今は闘技大会中じゃからな。宝の山じゃの」

「よかったねぇ。……朔夜さんは帰ってこなかったの?」

「ついさっき『試合前だ!卵かけご飯を食べてくる!』と言って出ていったのう」

「相変わらずワクワクすると眠れないんだねあの人は」

「そこが朔夜の可愛いところじゃの」

「かわいいかな~。とりあえず僕達も食べに行こうか」

「そうじゃの。早めに行って闘技大会のいい席を取らねば……」

「近くで武具を見ることが出来ない。でしょ?」

「左様じゃ。なんか恥ずかしいのう」

「何を言うかなんてお見通しだよ!」


 そんなたわいもない話をしながら、

 僕らも朝食を取りに食堂へと向かうことにした。



 食堂はとんでもないことになっていた。



「おい! もう米がねぇぞ!!」

「卵もないじゃないか! どうなってんだ!」

「納豆は? 鮭の切り身は? 今日は大会当日だぞ!? なんでないんだ!!」


 色んな人が怒っていた。

 食堂の人がひたすら謝っている。


「かなり用意しておいたはずなんですが……」

「言い訳してんじゃねぇよ! 実際ここにねぇじゃんかよ!」

「すみませんすみません!!」


 心当たりしかない。


「ねぇ栗太郎」

「みなまで言うでない」

「「……はぁ」」


 僕たちは深くため息をついた。


 間違いなく朔夜さんのせいだ。

 当の本人はもう居やしない。


 僕たちは逃げるように食堂を出て外へと向かった。





「───あの人は遠慮ってものを知らなすぎる!」

「そうじゃのぅ。流石に今回のはやりすぎじゃな」


 僕たちは近くのお茶漬け屋さんで、

 朔夜さんのことをぼやきながら

 店の入り口の赤い長椅子に腰をかけて

 お茶漬けを待ってた。


 あーだこーだ言っていると

 お茶漬けが運ばれてくる。


 僕たちが頼んだのは鯛茶漬け。

 海のお魚はめったに食べれなかったから楽しみだ!


「あ、桃太郎君!」

「はふ?」


 一口目を口に入れた途端、

 誰かに声をかけられる。


 声の持ち主はすぐに分かった。


「ティナさん!」

「おはよう! 何食べてるの?」

「鯛茶漬けっていうお茶漬けです!」

「わぁ! 乙姫さんのところで食べたことあるかも。一緒してもいい?」

「どうぞどうぞ!」


 そう言って僕と栗太郎は少し詰める。


「ありがとう。あっ、店員さん! 私も二人と同じものを一つください!」


 ティナさんは僕たちと同じ鯛茶漬けを頼んだ。


「さっき言ってた乙姫さんのところって、異国にも鯛茶漬け食べれるところあるんですか?」

「うん! ミコトグニの料理は結構人気なんだよ? 乙姫さんってのは『竜宮』っていうお店があってね。乙姫さんはそこの女将さんなの」

「あれ? なんか聞いたことある気がする」

「あれじゃの。浦島に会った時の亀が言っておった奴じゃ」

「それだー! 確か、水中都市って街にあるみたいな」

「そうそう! 桃太郎君よく知ってるね♪」

「それって本当に水の中にあるんですか?」

「そうなの。海の中にあるんだよ!」

「すごい! 息はどうやってするんですか?」

「なんかね、そういう魔法があるの。街に入るときかけてもらえるんだけど、人によっては自分で使える人もいるよ♪ 私は出来ないけどペルちゃんは出来るし」

「異国ってすごいことばかり!!」

「私はミコトグニこそすごいな~って思うんだけどねぇ」


 話が盛り上がっていたところで、

 ティナさんの鯛茶漬けが運ばれてくる。


「ん~、おいしい! 幸せ~♪」

「そうじゃのぉ。やはり魚はうまい。釣りをしたくなってきたのぅ」

「栗太郎は海釣りも得意だもんね」

「二人は海の近くに住んでたの?」

「ん~。どちらかと言えば山かなぁ。僕は見たことなかったし」

「山を北に抜けたら海があったという感じじゃな」

「なるほど~。朔夜さんも一緒だったの?」

「はい、三人にじっちゃんとばっちゃんで五人で住んでました!」

「前はそこに浦島とかも一緒の住んでおったがの」

「そうなんだね♪」


 そういえば浦ちゃんと時貞さんをみてないなぁ。

 どこに行ったんだろう。


「ティナよ。お主一人じゃが、他の者はどうした?」

「ん~とねぇ、スノウちゃんとロミオ君はずっと卵を冷やしてて、ペルちゃんはこそっと練習する! って朝早く出て行ったの。だから私だけふらふらしてたの。そっちは朔夜さんいないけど……?」

「朔夜は牛若の屋敷のあさげを食べつくしてどこかへ消えたようじゃ」

「ふふふ。だから私たちの御飯なかったのね」

「……ワシらの仲間が面目ない」

「いいのいいの♪ おかげでこうやっておいしくて楽しい時間過ごせたんだから」


 ティナさんは心が広い。

 流石ペルさんのお姉さんだけある。


「そういえば、闘技大会は何時からだっけ?」

「後一刻半くらいかの。このまま直接向かうのか?」

「ん~。特にやることもないから、ふらふらしてから行こうかなぁと思ってたけど。桃太郎君たちはどうするの?」

「僕たちは出場しないから、多分その辺で時間をつぶして観客席に行くと思う!」

「そっか。なら一緒にふらふらしよ?」

「はい! 栗太郎もいいよね?」

「勿論じゃ。せっかくじゃから武具屋によっていこう」

「よらない!」

「ふふふ」


 こうして僕たちは街中を歩くことになった。



──────────────────────

《草間町 東門》



「ふぁぁ~あ。いやぁ、今年はすげえ規模だなぁ」


 闘技大会当日。

 開会まで後一刻といったところ。


 草間町の出入りに使う双門である、西門と東門。


 ミコトグニの首都である

 『京安きょうあん』へと伸びる『草殿街道そうでんかいどう』へと続く

 東に位置する東門。

 そこで、二人の門番があくびをしながら

 外壁の上で話していた。


「んだなぁ。異国の奴らが参加するんだろ?」

「うちの国で有名な異国の奴らと言えば『七宝隊しっぽうたい』くらいだもんなぁ。でもあいつらはミコトグニ育ちだしなぁ」

「本格的な異国の戦い方。みたかったなぁ!」

「仕方ねえよ。こうやって街を守るのも立派な仕事さ!」

「つっても、闘技大会中に襲ってくる奴らとかいねえだろ。優勝済みの奴らは来ないとはいえ、それなりに腕に覚えがある奴がわんさか来てんだからよぉ」

「はいはい、ぼやくなぼやくな。小鬼や中鬼のような能無しが来るかもしれねぇだろ?」

「そんなん来たところでなんも怖くねぇや。むしろあの二人がいれば俺らもいらないだろうに」


 そういって二人が目を向ける先にいたのは、

 槍を携えた一人の老人。

 そして、弓を携えた妙齢の女性だった。


「あの二人がいるなら百人力よ! 何十体でも何百体でも来やがれってんだ!」

「そんなバカなことあるかよ。あいつらは能無しなんだ。そんなことが起きるとするなら、六芒鬼以上の鬼が統率してることになる。そうなったら大問題だぞ」

「はっはっは。それもそうか!」

 

 元来、この時期に鬼が攻めてくることは少ない。


 先述の通り、知能のない鬼は

 何も考えていないという理由で

 草間町に来ることはある。 


 だがそれは脅威へとなりえない。


 鬼のさがゆえに、強者を求め

 草間町に来る珍しい鬼もいる。

 そういった大体が極鬼、もしくは霊鬼だ


 だから、その為に強者も護衛につく。

 先ほどの二人がそうだ。


 つまり、今の時期に、

 鬼の大群が草間町へ進行することはない。


 事実、闘技大会が初めて開催された年以来、

 大会中の鬼の被害は一度も起きていない。


 初年度は大量の鬼が来たが、

 返り討ちにしてしまっていた。


 だから、誰もが忘れている。


 特にここ数年鬼の被害が少ない

 ミコトグニ西側の街は、

 鬼がいない当たり前の日常に慣れている。



 誰もがと思っている。



 異変に気付いたのは冒頭の門番の一人だった。


「……んっ?」

「あっ? どうした?」

「いや、でも、あっ、ありえないよな」

「だからどうしたんだって」

「いやさ! ほら、あれ。ありえないよな!?!?」

「何言ってんだお前は」


 そういってもう一人の門番も双眼鏡を除く。


「わっ、わぁぁぁぁ!!」

「だよな! だよな! 嘘じゃないよな!!!」


 一人の門番は急いで鐘を鳴らしに行く。



 ────ヒュッ。



 「んるぁェ」


 バタンっと音がして門番は倒れた。

 倒れる門番を見て叫びをあげるもう一人の門番。

 

 無理もない。


 先ほどまでのんきに話していた相手のこめかみに、

 一本の矢が突き刺さり、絶命したのだ。


 辺りにいる者は叫びに気付いた。


 鐘を鳴らしに行くものは、

 次々と何者かに射貫かれる。

 

 



 そして、草間町の人々は思い出すこととなった。





 鬼の恐怖を。





──────────────────────



読んで下さってありがとうございます!(˘•̥⧿•̥˘ )


さぁ! ついにやってきました鬼!!


その日、人類は思い出した。的なラスト!!


ちなみに私の中で、矢で射抜かれるシーンは、

ロード・オブ・ザ・リングのレゴラスさんのシーンが

いつも頭の中にあります。


今のところあれ以上のインパクトのある

弓矢のシーンを知りません。

レゴラス最高!! 万歳!!!


というわけで!

また次話にてお会いいたしましょう!!


ありがとうございました!!






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