第二十四話 眠れない夜
《
授賞式を終えて僕たちは、
義経さんの屋敷へと戻ってきていた。
明日は早速、闘技大会が始まる。
一回戦は多人数戦で、
い組、ろ組、は組、に組の四組内で
各八人しか残らないそうだ。
誰がどの組なのかは明日まで不明。
なので出場するみんなは、
各々最終調整に入っていた。
僕は出場をしない。
だから早く眠ることにしたんだけれど、
昼に義経さんと話してたことを思い出して
なかなか眠りにつけなかった。
僕は眠れない夜に考えを膨らませる。
妖怪の長とお父さんは仲が良かった。
だけど、お父さん達は死んだ。
朔夜さんのお母さんも死んだ。
妖怪の長は死んでなくて姿を消した。
義経さんは妖怪の長のことを信じてたけど、
僕はどうも信じられない。
だって、七百年近く鬼と戦ってるんだ。
急に鬼のことを信用できるんだろうか。
お父さんが強すぎたから、
騙して倒したんじゃないか。
僕はそんなことを考えていた。
「あぁ、ダメだ眠れないや」
僕は、布団から起き上がり、
屋敷の中を少し歩くことにした────
義経さんの屋敷は広い。
武門の家ともあって、
敷地内に立派な稽古場もある。
みんなが最終調整をしてるはずだし、
僕はそこに足を伸ばすことにする。
全部で三箇所あるって聞いている。
僕はそのうちの一箇所に訪れた。
何人かの人が鍛錬を行っている。
その中に一際目立つ人がいた。
身の丈よりも大きな薙刀を、
まるで自分の身体のように扱っている男だ。
その屈強な肉体は日に焼けて浅黒く、
身体の節々にある切り傷は、
これまでの戦いを物語っている。
ボサボサだが映える赤髪と
少し切れ長な目、そして頬の大きな傷跡。
そう、弁慶さんだ。
僕は少しの間、弁慶さんの動きに見惚れていた。
少しした頃、弁慶さんが声をかけてきた。
僕に気づいていたみたいだ。
「何してんだ、
「あ、邪魔してごめんなさい」
「別に邪魔になってねぇよ。こんなんで調子崩してたら明日何人観客いると思ってんだ」
「あ……たしかに」
「で、どうしたんだ?」
「ちょっと眠れなくて……」
「そうか。他の奴ら探してんだったら、朔夜とペルって奴はなんか外で戦ってるみたいだぜ? ティナって奴も一緒だ。ロミオとスノウって奴らはなんか卵冷やすって言ってたぞ」
「そうなんですね。教えてくれてありがとうございます」
「牛若はなんか気づいたら居ねぇからわかんねぇな。あと、栗太郎って奴も見ちゃいねぇなぁ」
確かに。
多分、武器を見て回ってるんだろうけど。
僕がどうしようか決めあぐねていたら
弁慶さんは話を続ける。
「まぁ、お前も色々思うところはあるだろうけどよ。まだガキンチョなんだ。深いこと考えすぎる必要はねぇと思うぜ」
「ありがとうございます」
そう言いながらも弁慶さんは
軽々と大きな薙刀を振り回し続けていた。
刃は長く、柄も長い。
僕だったら持ち上げることもできないだろう。
「弁慶さん、よくそんなの振り回せますね」
「あぁ? あー、コイツは
「いや、無理ですよ……。子供の頃からって何歳くらいからですか?」
「あー………。いつだろうな。お前の歳よりちょっと前くらいか?」
「そんな前から!?」
「まぁでも最初はここまで自由自在には勿論いかなかったさ。でも使えるようにならないと生きていけなかったんだ」
そう言って弁慶さんは僕の隣に座る。
弁慶さんは少しだけ間を置いて僕に言った。
「辰夜、俺も鬼なんだ」
「そうだったんですか??」
「あぁ。今はツノもないからぱっと見はわからねぇけどな」
「ツノがあるのとないのと何が違うんですかね」
「ツノは鬼の重要な器官らしいぞ。小鬼はツノがねぇ。だから弱ぇ。中鬼はツノがあるが使いこなせてねぇから弱ぇ。大鬼は見たことあるか?」
「いや、朔夜さんたちがいうには僕が見たことがあるのは小鬼と……後はツノがなかったのにツノが出た鬼です」
「じゃあそれは
「なるほど。じゃあ見たことないですね」
「超鬼からはツノの力を使いこなし出すから瞬間的な力の強弱とかが使える。この辺りになると普通の人間じゃ手がつけられなくなってくるんだ」
「僕は何鬼なんでしょうか」
「超鬼だろうな」
「ツノ、出せないですけど……」
「やり方を知らねぇだけだ。鬼の子は全員大鬼か超鬼から始まる。超鬼から始まったやつはその感覚を掴むまでは人間と変わらねえからな。ある意味ではお前は幸運だよ」
「幸運、ですか?」
「あぁ。俺は大鬼から始まったからな。ツノが隠せる様になるまで苦労したさ」
「苦労……?」
「お前は山の中で過ごしたんだっけか」
「はい」
「なら知らねえのも無理ねえか」
そう言って弁慶さんは空を見上げる。
「……義経さんも鬼なんですか?」
「ばかいえ。アイツはここで生まれた人間だ」
「そうなんですか?? 仲が良かったから幼馴染とかかと思ってました」
「アイツとつるむようになったのはここ十年くらいだ。そうだな、あの事件があった一年後くらいか」
「それって」
「あぁ。お前はあんまり聞きたくないかもしれないがその事件だ」
「弁慶さんはあの事件のこと……」
「俺も鬼ヶ島にいたからな。つってもお前と同じくらいの歳までだが」
「お父さんのことも?」
「もちろん知ってる。稽古もつけてもらったしな」
そうだったんだ。
「あの事件、お前の親父を殺した犯人は分かってない。妖怪の大将は消えた。ごく一部では大将が犯人ってことにはなってるが真相はわかってねぇ」
「その、妖怪の長が犯人ってことはないんですか?」
僕の問いを聞いて、
弁慶さんは視線を空から僕へと移す。
そしてまっすぐ僕の目を見ていった。
「あぁ、ぜってぇそれはねぇよ。鬼と和解することがずっとあの人の野望だったんだ。その思いはお前の親父と変わらない強さだった」
妖怪の長も平和を望んでいたってこと?
「ならなんでずっと鬼と妖怪は戦ってたんですか?」
「そりゃー、鬼側が戦闘馬鹿ばかりだから。朔夜みたいなのがいっぱいいるんだぞ」
「あぁ……、それはええと」
「嫌な感じだろ?」
「……はい」
僕たちはクスリと笑う。
「だがとりあえず、あの事件の犯人候補に大将が入ってるのは間違いない。でも妖怪の中には死んだあと消える奴もいる。だから大将は実はもう死んだのかもしれねえ。そうなってくると考えがガラリと変わってくる」
「どうかわるんですか?」
「とある鬼が妖怪を利用して共倒れを狙い、党首の座を奪おうとしたんじゃねぇかってのが一番世の中では信じられている」
「とある……鬼ですか?」
「その鬼の名は『
「仙樹さんが?」
僕の叔母さんの人だ。
「あぁ。事件の後も二〜三年は暴れ回ってたしな。あの事件を境目に鬼族は変わっちまった。牛若とつるみだしたのもそんときだ」
「その話、教えてくれませんか?」
僕は今、何でもいいから鬼の話を聞きたい。
知らないことが多すぎるんだ。
「あぁ。少し長くなるがいいか?」
「はい。聞きたいです」
「なら話すとするか」
そう言って弁慶さんは手を自分の真後ろに伸ばし
足を延ばしてまた空を見上げ、話を始めた。
「あの事件。そして事件後も仙樹は暴れに暴れ回った。鬼の中でも気に食わない奴はボッコボコだ。特に事件のことに触れたり、逆らったりする奴らは殺されたりもした。前から短気なところがあったが、あの頃の仙樹の様子は異常すぎた」
「異常?」
「あぁ。さっきも言ったが元から仙樹は切れやすい奴だった。が、言ってみたら『やんちゃなガキンちょ』が大きくなったようなもんだ。機嫌が直るのも早かった。だが、あの事件からは怒りの質が変わった。まるで別人が乗り移ったかのようにだ」
弁慶さんは苦い顔をして続ける。
「そっからのアイツは暴君のように鬼を仕切りだした。大半の鬼は仙樹の下につくか、鬼ヶ島から逃げるかを迫られた」
「お父さんの六芒鬼の人達は何もしなかったんですか?」
「あの人たちはそれぞれ自分の住む町があったから鬼ヶ島には居ねぇ。それにお前の親父がいなきゃそれこそ無関係な奴が多い。先代 六芒鬼は三人しか鬼がいなかったし、その中でも鬼ヶ島に住んでたのは朔夜のお袋だけだ」
「そうだったんですね……。それで弁慶さんは出て行ったんですか?」
「あぁ。そん時は俺もまだ、お前よりガキンちょだったからな。鬼ヶ島は地獄みたいだと思ってた。だけどな……」
弁慶さんは一息ついて、続けた。
「俺にとって地獄だったのは鬼ヶ島の外だった」
──────────────────────
読んで下さってありがとうございます(˘•̥⧿•̥˘ )
鬼について、あの事件について、
少しずつ分かってきだしましたのぅ……。
敵の親玉らしき名前も最近ちょこちょこ出てますね!
勘のいい人はあることに気づいたのではないでしょうか!
しれっと材料は撒いてたつもりです(にやり)
てなわけで!
また次話にてお会いいたしましょう!!
ありがとうございました!!
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