第二十二話 只者ではない

草間町くさまちょう




 朔夜達が大食い勝負で熾烈を極める頃、

 草間町の片隅にて一人の少年が歩いていた。


「ここが草間町かぁ。強ぇ奴がいっぱい集まるって言うけどアイツらより強い奴なんてそうそう居ねぇだろうなぁ……」


 そう言って少年は気楽そうに歩く。

 

 見た目から察するに、

 年齢は桃太郎より少し上くらいだろうか。


 ただし、少年とはいいがたいほど

 屈強な身体をしており、

 服の上からでも鍛えられていることが分かる。


 短い袖から出ている腕にはいくつもの傷がある。

 齢十をいくつか超えただけの年齢にしては

 かなりの修羅場をくぐっているのだろう。


 古びて傷だらけの鞘を両側に差していることからも

 その様子は伺えた。


 だが、無邪気なその顔に、幼さは抜けていない。

 むしろその屈託のなさゆえに

 少年にしか見えないのである。


「それにしても……、大した奴は中々見つからねぇなぁ。本当にここで合ってんのか?」


 そうは言うものの、

 顔からにじみ出るワクワク感は途絶えていない。

 まるで新しいおもちゃを買いに行く

 子供のようなそれである。


 周りをキョロキョロとみる少年は、

 前方への注意を忘れているように見えた。


 一団の男たちにぶつかる。


「おおっ!? いてて。おいガキんちょ、どこ見て歩いてんだ?」


 先頭を歩いていた屈強な男は少年にすごむ。


「わりぃわりぃ、ちょっと物珍しさに浮かれてしまってた! お前も身体おっきいんだから気を付けて歩けよ~」


 そう言ってその場を立ち去ろうとする。


「あぁ!? 口の利き方がなってねぇガキだな。俺の足が折れちまった分の治療代出してもらおうか」

「何言ってんだ。俺は金とか持ってねぇぞ?」

「その腰につけてる刀でいいぜ? なかなか立派なもんぶらさげてんじゃねぇか」


 そういって男たちは下卑た笑みを浮かべる。

 気づけば数人が進路をふさぎ、

 半ば少年を囲う形となっていた。


「これはやれねぇよ。こっちは俺の相棒だし、こっちの大太刀も俺の命より大切なもんなんだよ」

「関係ねぇよ。さぁわたせ」

「そもそもお前、足なんか折れてねえだろ?」

「お前は医者か? 本人が折れてるって言えばそれは折れてんだよ!!」

「んだよ、めんどくせぇな……」


 少年はうんざりした様子でかぶりを振る。

 そして、少しだけ考えるそぶりを見せて少年は言う。


「なら……本当にへし折ってしまうか」


 一瞬放たれる気迫。


「君達、やめたまえ!!」


 そこに槍を背負った一人の男が現れる。

 男は少年と男たちの間に入り、手を伸ばして

 男達を静止しながら言った。


「その子はまだ子供じゃないか。恥ずかしいとは思わないのかい? そんなことで自分を生んで育ててくれたご両親や、お天道様に顔向けできるのかい!?」


 少年は、ケロッとした顔で男に礼を言う。


「いやぁ、助かったよ! 俺、もっと見たいところあるからさ! ここは任せたぜ!!」


 そう言って無邪気に少年は走りゆく。


「おいガキ! まちやがれ!!」

「君達こそまちたまえ!」


 追いかけようとする男たちを、静止する正義漢。

 自分たちを邪魔した正義漢に、

 男たちは次々と悪態を吐く。


「てめぇ、余計なことをしやがって!!」

「正義の味方のつもりか!?」

「どうなるかわかってんだろうなぁ!?」


 正義漢は、少し微笑んだ。


「そうだね。正義がどうとかは考えたことはないが、信念と誇りが僕をこうさせるのさ。僕は僕が守りたいものを守る。牙翔一穿流がしょういっせんりゅう、一の門下生として!!」


 そう言って正義漢は槍を抜く。


 その構えは素人目にもわかる、

 威風のある構えのように見える。


「が、牙翔一穿流だと!?」


 あるいは戸惑い、あるいは狼狽し、

 あるいは震えながらも戦おうとする男たち。

 

 だか、そこにもう一つの声が割って入った。


「お前さんはいつから一番の門下生になったのか。なぁ、尖昇せんしょうよ」

「し、師範!!」


 尖昇と呼ばれた正義漢は、

 唐突に表れた老人に頭を下げた。

 男達も狼狽している。


「ったく、お前さんが勇敢なのはわかるが、この御仁らの人数、そしてこの状況ではお前さんじゃまだ荷が勝ちすぎる。街の者に被害が出てはならんじゃろう? ……まぁ、それでも良くやったとは言っておこうかの」


 そう言って老人はギロリと男達を睨む。


「さて、御仁ら。儂も一連を見ておったが、どうやら儂は御仁らとは考え方が違うようでなぁ。良ければ儂が相手をするが如何かな?」


 睨まれた男達は、焦りながら答える。


「い、いやぁ、冗談はよしてくれ! 牙翔一穿流 師範の暁尖ぎょうせんに、喧嘩を売るわけないだろう!?」

「そうだそうだ! あのガキが良いもんぶら下げてたからつい……」


 どうやは、男達の戦意は既に喪失したようだ。


「ふむ、そうか。なれば良かろう。それにしても御仁らよ、命拾いしたな」

「あ、あぁ。アンタを怒らせることにならなくて良かったぜ」

「そうではない。が、まぁ良かろう」


 老人はそう言って

 遠くに駆けて見えなくなった少年を見た。


「師範??」

「なんでもない。行くとするか」

「はい! 師範!!」


 自称門下一の愛弟子を連れ老人は歩く。


「只者ではない、か」


 老人のつぶやきに、

 愛弟子はキョトンとした顔で応える。


 老人は、そんな愛弟子の未熟さに

 深いため息をついた。


 そのまま牙翔一穿流を名乗る二人は、

 街の賑やかな方へと歩いて行った。



─────────────────────

《草間町:桃太郎》




 大食い勝負は佳境に入っていた。


 一歩も引かぬ両者の食べっぷり。

 朔夜さんと互角なんてスノウさんは只者ではない。


「なんたる攻防! 一進一退の戦いではないない! まさに同時進行!!勝負が読めない目が離せないない!!」

「まぁ〜さか、大食い対決がこんなに〜も盛り上がぁ〜るなんて誰も思いもしなかったろぉ〜ね」


 司会の人たちの言う通り、

 気付けば僕らが来た時以上に熱気がすごい。

 見渡せばかなり多くの人たちが、

 この勝負の行方を見守っていた。


 途中棄権したみんなも、さっき観客側に来ていた。


「ほんっと、あのバカどういう胃袋してんのよ」

「ふふふ。それ、スノウちゃんにも言ってるのかな?」

「違うわよ! スノウはいいの!! でも、スノウもあれだけ食べれるなんて知らなかったわ」

「僕も知らなかったよ……」


 ティナさん達もスノウさんに驚いていた。


「やべぇ、マジ吐く。無理だわ……」

「あいつらどうかしてる……」


 弁慶さんと大五郎さんはうずくまっている。


「ねぇ、栗太郎。どっちが勝つと思う?」

「そうじゃのう。朔夜が負けるのは想像できんがなぁ」


 栗太郎は僕と同じ気持ちだった。

 食べ物に関して、

 朔夜さんが負けるとは思えない。


「残りは最後の一杯!!ここで両者が手を挙げ挙げた!!」

「何かを頼んでるようだぁ〜ねぇ」


 そして係の人が何かを運ぶ。

 

 朔夜さんには大量の水を。

 スノウさんには……アレはなんだろう。


「ほほぅ、大根おろしか」


 隣にいた知らないおじさんが言った。


「唐揚げの油っこさを打ち消し、その清涼な喉越しで食を促す作戦か。あの異国の嬢ちゃん、やるじゃねぇか。にしても良く異国の嬢ちゃんが大根おろしなんか知ってたな?」


 ……この人、誰?


「はん! 私たちの国にもミコトグニの料亭があるのよ! 私も大根おろし大好き!」


 解説おじさんの独り言に、

 ペルさんがドヤ顔で答える。


「ほぉ。お前さんは先ほど出てた嬢ちゃんだな? お前さんも中々頑張っていた。自信をなくさなくていい。アイツらが化け物なんだ」

「……別に気にしてないけど? ってかアンタ誰?」

「名乗るほどの名はないさ」

「そうでしょうね。アンタ、もう出番なさそうだし」


 ペルさんの無情な言葉とほぼ同時に、

 司会の人たちの声が上がる。


「それぞれが頼んだものが用意できたようだぁ〜ねぇ!」

「それでは泣いても笑っても最後の勝負勝負! いざ尋常に……」

「「始め!!」」


 二人は最後の一杯に手をかける。


 二人とも、顔には出ていないが、

 やはり調子は落ちているようだ。

 少しだけ時間がかかるようになっている。


 だが、戦況は変わる。


「おぉーっと!! ここで白雪の姫は準備していた大根おろしに箸をつけるつける! そこからどんどん箸が進む進む!!」

「大根おろしとから揚げの相性は抜群だかぁ~らねぇ。見てるこっちも食べたいくらいだぁ~よ」


 すこしずつ。

 だが、間違いなく開く差。


 心なしか朔夜さんの表情が

 暗くなっているように見える。


 そんな中、朔夜さんと目があった気がした。

 ……その眼は死んでいなかった。


「あぁーっと!?」


 司会の人が叫んだ。 

 スノウさんがせき込んだのだ。


「これは器官にはいったようだぁーねぇ。残り半分切ったとはいえ剣士ちゃんもまもなく半分ほど。これは痛い時間の損失だぁねぇ」


 朔夜さんはスノウさんの異変を気にも留めず、

 自分のペースで食べ進めていく。


 スノウさんも落ち着いてきてまた食べ始め出した。


 残るはお互い、五分の二ほど。


 勝負はあと少しで決まる。


 だがここで、朔夜さんが動き出す。

 貰ったのに一度も口を付けなかった大量の水。


 それで一気に流し込み始めたのだ。


「剣士ちゃん最後の一勝負! 流れる流れる!! 止められるものは誰も居ない居ない!」

「勝負あったようだぁ~ねぇ!!」


 朔夜さんの手が止まる。

 静まる会場。


 異様なほどの静かさの中、

 ゴトンッ。と器が置かれた音が響く。


 そして、朔夜さんが満面の笑みで宣言した。


「完食だ」


 朔夜さんの一言は大きくなかったが、

 会場全体に響き渡った気がした。


「……勝者はその見た目とはうらはらに異次元な胃袋を持った持った!!」

「まるぅ~で大食いとぉ~は縁が遠そうな美少~女剣士!!」


 司会の人が声をあげる。


「「朔夜!!」」


 会場は大きな歓声で包まれる。


「ふふふ。朔夜さんすごいんだね」

「化け物よあんなの。普通に怖いわ」

「でもスノウもよく頑張ったよね」

「ふむ。やはり朔夜は負けんのう」

「いやはや天晴でございます」

「朔夜は化け物だぜ……」

「うん、朔夜さんって改めてやばいよね。……ただ」


 みんなで顔を見合わせて僕たちは言った。


「「「何を見せられていたんだろう」」」


 大食いに縁のない僕たちは、

 なんとなく。ただなんとなくだけど。

 ……うん、とっても疲れた気がした。






──────────────────────



読んでいただけてありがとうございます(˘•̥⧿•̥˘ )


強キャラの爺さんキャラ!

出ました王道!!(自分で言ってくスタイル)


さて、スノウさん意外に食べます。

スノウさんも案外無茶しても許してくれるキャラなので

楽しいです。毒舌、冷静、癖キャラ。大好き。


どんどんスノウのキャラは壊れていくので

少し前までのスノウさんが好きな人、ごめんなさい。


もっとやれー!って人。

もっといくよぉぉぉぉぉぉ!(大声)


てなわけで!

また次話にてお会いいたしましょう!!



ありがとうございました!!





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