第二十一話 大食い勝負
《
「今の鬼を束ねているのは誰じゃ」
栗太郎がそう義経さんに聞いた。
義経さんは少し、間をおいて答える。
「先代の頭首が殺されたあの事件、最も多くの者を殺した者が一人います。圧倒的な力で妖怪を。そして同族である鬼ですらも蹴散らしてまとめた剛の者」
妖怪だけではなく鬼も?
とんでもない鬼がいるんだ。
「彼の者の名前は『
お父さんの妹ってつまり……。
僕の叔母さんってこと?
「ふうむ。なるほどのぅ」
「事件後、二~三年鬼たちは暴れまわったのですが、その後嘘のように大人しかったのです。しかし、ここ数年でまた活動的になりました。大規模な襲撃はまだありませんが七街道で襲われることが増えています。西側ではまだ被害は多くはありませんが、東側では商人にいくつか被害が出始めています。この事態を重く見た大将軍殿は討伐を計画し、その為に異国からも力を借りるつもりの様です」
「それでスノウたちが呼ばれたというわけじゃの」
「おそらくは。そして、今年の闘技大会に西将軍の家康殿が来られて、実力者を誘うという噂も流れております」
「その噂は鬼の耳にも届いているじゃろうなぁ」
「否めません」
僕は、ふと左手の甲を見た。
六芒主印。鬼の頭首である証。
鬼化できる感じもしないし、
なにも実感がわかない。
「話は分かった」
そう言って栗太郎は立ち上がって僕に言った。
「暗い話を話してばかりしてても致し方ない。せっかく賑わっておるんじゃ。ワシらもお祭りとやらを楽しみに行くとしよう」
「であれば私が案内を」
「んむ、頼む牛若。なれば参ろうか」
栗太郎は僕の方を向いて言った。
まだ僕の中ではお父さんの話は気になる。
でも、義経さんを責めるのは間違いだった。
なあなあにしちゃいけない。謝らなきゃだめだ。
「義経さん、さっきはごめんなさい。義経さんが悪いわけじゃないのに」
「いえ、問題ございません。私もこの事件については詳しく調べ続けるつもりです。何かわかれば必ず辰夜殿にもお伝えいたしますゆえ」
「ありがとうございます」
義経さんは微笑みながら許してくれた。
本当に、いい人なんだなと思う。
僕たちの会話が終わったのを見計らい、
栗太郎は珍しく無邪気な声で言った。
「いろいろな屋台も出ておったが、とりあえずワシは焼き鳥を買うことにしようかのう! お主らはどうするつもりじゃ?」
「そうですね、私はトウモロコシを」
「トウモロコシって何ですか??」
「ふふふ、辰夜殿もきっと気に入りますよ。楽しみになさってください」
「楽しみじゃのう。どんな武具が見れるのやら」
「栗太郎は結局それなの!?」
しれっと武具の話にすり替わってた栗太郎に、
僕も義経さんも笑いながら僕たちは屋敷を出た。
────────────────────────
《草間町:桃太郎》
僕たちは三人でお祭りを楽しんでいた。
焼き鳥やイカ焼き、
そしていろいろなお饅頭を食べた。
義経さんがお勧めしていた
『トウモロコシ』は初めて見た物で
食べづらかったけどすごくおいしかった!
そして何より驚いたのは『綿菓子』!!
雲みたいな見た目で食べると口の中でなくなって
甘さだけが残るモノだった!!
どうやってできているかもわからないし、
この世の食べ物とは思えないものだった!!
そんなこんなで
いろいろなものを食べて回っていると、
人だかりを見つけた。
熱気が充満している。
ただことではないみたいだ。
「あれなんだろう?」
「ふむ、珍しい武具じゃろうか」
「だったらあんなに集まらないって。栗太郎みたいなのは少数派だよ?」
「おかしいのう」
栗太郎って本当にこういうとこ
思考力ポンコツなんだよね……。
「義経さんわかります?」
「いえ。今年は例年と違い異国の方々が来られるとあって、様々な趣向を凝らしたものが出ているようですので、なおのこと予想がつきません」
僕たちはその人だかりに向かって歩き出した。
その途中、走りながら
僕たちを抜く人たちの話が聞こえる。
「ホントかよ。華奢なかわいい子が二十人分平らげたとか」
「それだけじゃねぇ! 異国のめちゃくちゃ美人な子もすごいらしいぞ!!」
二十人も平らげる?
ってことは大食い??
まさか……。
「ねぇ、栗太郎」
「んむ、そうじゃのぅ」
「二人ともいかがなされました?」
「いや、あそこの人混みの原因が分かったかもしれないです」
「ほぅ。もしや?」
「十中八九、朔夜じゃの」
僕たちは人混みをかき分け中に入っていく。
案の定、話題になっていた華奢でかわいい?子は
我らが朔夜さんだった。
「すごいすごい! その細い体の中のどこに詰まっているのでしょうかでしょうか!? 異次元の胃袋を持つ、この美少女剣士の正体は如何に如何に?」
「驚き轟き桃の木だぁ~ね! 異国の雪のように白いこちらの姫君も負けじ~とすべてを平ら~げてしまって……言葉ぁ~もでないよ!」
あっちで大声で実況している人は
司会の人って奴だろう。
僕と同じくらいの少年が二人。
でも翼が生えていた。
あれが妖怪って奴なんだろうか。
そんなことはさておき、
大食い勝負には大勢の人が参加していたようだ。
でも、ほとんどの人が
もうギブアップしているみたい。
まだ食べているのは朔夜さんとスノウさん。
そしてかろうじてまだ箸から手を離していない
弁慶さんと……大五郎さん?
ペルさんとロミオさんは
もう目がバッテンになって伏せている。
「あっ、桃太郎君!」
「ティナさん!」
「こんにちわ。栗太郎君も一緒なんだね。ええと、そちらのお方は?」
「お初のお目にかかります。私の名前は義経。よろしくお頼み申す」
「はじめまして。ティナって言います」
義経さんとティナさんは
どちらも深々と頭を下げている。
二人共まじめな人だから。
でも、みててなんとなくほほえましい。
「ティナよ。お主は参加しなかったのか?」
「うん。私、あまりご飯食べないから。ペルちゃんもそうなんだけど朔夜さんが参加するからって。ほら、あの二人仲良しじゃない?」
「仲良し……なのかな?」
「うんうん! ペルちゃんがあんなにちょっかいかけることって全然ないんだよ?」
「そうなんですね……」
あれは煽り煽られの関係だけど、
お姉さんであるティナさんから見たら
仲が良い。なんだろうなぁ。
「でもロミオさんとスノウさんが出るのは意外でした!」
「ん~、スノウちゃんは一番になったらもらえるっていうあれの為みたいなの。ロミオ君はペルちゃんに巻き込まれただけかな?」
そういってティナさんは指をさす。
そこには『雪梟の卵』と書かれた紙がある。
雪梟ってなんだろう……。
「でもロミオは役に立たんかったみたいじゃの」
「ふふふ。ロミオ君もあんまり食べないからね♪」
それはもうただのかわいそうな人じゃん……。
「弁慶もかなり食べるほうと思っていたが、あの二人はそれ以上に食べると。いやはや、言葉も出ません」
「牛若よ、スノウは知らぬが朔夜は規格外じゃからの。考えても無駄じゃ」
「そうですよ。あの人食いしん坊妖怪だから」
僕がそう言い終えた瞬間、竹串が跳んできた。
「いたぁ!!」
飛んできた方を見ると、
怖い目で食べ続ける朔夜さん。
地獄耳が過ぎる!
その時、司会の人達が大きな声で言った。
「おぉーっと!? なんと規格外の二人の勝負の行方は意外な決着に!?!?」
そういっているとき、
誰かが耳打ちをもう一人の司会にしていた。
「えぇーっとだぁ~ね。今回、二百人以上の食材を用意していたが全部切れそうだぁ~ね。どうやら見たところは黒髪の剣士ちゃんと白雪の姫だけが余裕あるようだぁ~ね」
「ここからは二人の勝負と行きましょうかしょうか!! 残りの十杯ずつのから揚げ丼々! 先に食した方が勝者勝者!」
司会の二人がそう言って運び込まれてきたのは、
一杯で僕はギブアップになりそうな
大盛から揚げ丼。
気づけば弁慶さん達も目がバッテンだ。
「旨そうなからあげ丼じゃないか! スノウ、お前には負けないからな!」
「雪梟……。絶対可愛いですっ」
朔夜さんの言葉は全無視で、
かなりの熱意を持った眼をしているスノウさん。
そんなキャラだったっけ??
「さぁ~て、眼前に運ばれしは〜、泣く子も黙る鬼から揚げ丼! 勝利の女神はどちらに微笑む~のかな?」
「いざいざ決戦の時! 黒が勝つか! 白が勝つか!! 図らずも国と国との戦いへ!!」
「「それでは……」」
気づけば会場は静まっていた。
「「はじめ!!!」」
決戦の火ぶたは切られた。
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読んでいただけてありがとうございます(˘•̥⧿•̥˘ )
前回の不穏な空気の後に……、
大 食 い 対 決!!
始まる!と思ってた方、かたじけなひ。。。。。。
この話を書いた三日後くらいに
私、お祭りに行ったのですが
三品くらいしか買わなかったのですよ。
幼き頃、我が家のルールで『一人三つ』まで!
というルールがあったからなんですけれども、
それが根付いていて勝手に三品でおなか一杯になったのですねぇ。
子供の頃は大人になったら百個買う!と思ってたのに。。。
てなわけで!
また次話にてお会いいたしましょう!!
ありがとうございました!!
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