第二十話 申し込み《エントリー》

草間町くさまちょう:朔夜》



「ちょ、ちょっと待ってくれ。こんな急がなくたって……」

「お前が急げって言ったんだろタメ五郎!」

「大五郎だよ!! しかも夕刻までとは言ったが急げとは言ってねぇよ!」

「ってか弁慶も急げよ! この泣き虫!!」

「誰が泣き虫だ誰が!!」


 私たちは今、

 闘技大会への出場登録の為走っている。


 弁慶が鈍足なのは知っていたが

 タメ五郎はもっと遅い。

 このパワータイプ馬鹿どもめ。


 なんで案内役の二人が私より遅いのか。

 気づけば私が先頭を走っていた。

 

 目の前には十字路。

 道は知らんが、あっちの方角って言ってたよな?

 私は二人に確認もせず左へ曲がろうとした。


「っておい! 朔夜、そっちじゃねぇぞ!!」

「それ先言え!」


 そう言って、緊急停止かつ一瞬振り返った私だが

 誰かに勢いよくぶつかった。


「痛った!! アンタどこに目をつけて走ってんのよ!」

「こっちの台詞だ! 十字路に出るときは左右確認しろ!」

「アンタが飛び出して来たんでしょうが!! ってよく見たら朔夜じゃないのよ!!」

「あ? なんだヒトデマンか」

「だ~れ~が~ヒトデマンよ!!」

「というかお前に構ってる暇はない! 私は闘技大会の申し込みに行くのだ!」


 ペルなんかに構ってる場合ではない。

 夕刻までなんだぞ。

 ってか時間の指定雑すぎないか?

 夕方って言っても振れ幅あるぞ?


 勢いよく走りだそうとした私だったが

 ティナに声をかけられた。


「朔夜さんも申し込みエントリーしにいくなら一緒に行かない?」


 え~、どうしようかなぁ……。

 ペルと一緒にいくのはいやだなぁ~。


 わたしがどうするか決めあぐねていると、

 弁慶がティナたちを見ていった。


「お前らが噂の異国人か」

「よろしくお願いします。ティナです♪」


 ティナを始めとして各々があいさつを交わし、

 改めて一緒に行かないかをティナが提案してくる。


「あぁ、そうした方が良い。こいつ一人にするとどこ行くかわからねぇ」

「黙れカメムシ」

「誰がカメムシだコラ!」

「カメのように遅い泣ムシ。わっ! 略したらカメムシじゃん! すごっ!!」

「なに『たまたまカメムシだ!』みたいな感じで言ってんだ! ぶっ飛ばすぞ!!」

「ヒトデマンもカメムシもうるさいなぁ。さっさと行くぞ!」

「「お前(アンタ)が余計なこと言ってるのに人のせいにするな(しないで)!!」」


 ちーむ雑魚虫が見事にハモって

 顔を見合わせている間に私は駆けだす。

 こんなの相手にしてられん。


 後ろから「アンタ(お前)の気持ちわかるわ(ぞ)」みたいな

 会話が聞こえたが知らん。



────────────────────────

《闘技大会受付所:朔夜》



「これで受付完了だな!」


 ようやく終わった。

 ったく、カメムシは遅いしヒトデマンはうるさいし

 大変な道のりだったなぁ……。


「っはぁ~。なんでこんな時間かかったんだ。ったくよぉ」

「私たちもです。ここ、将軍(仮)の屋敷の近くですのに」


 弁慶のため息に、

 少しだけ離れた大きな館に目をやって

 スノウが答える。


「なんだお前ら迷子になったのか」

「はぁ? 残念だけど私、迷子になったことなんかないわよ!」


 ティナ達に投げた質問に

 またペルがかみついてくる。

 こいつ、絶対私のこと好きだろ。私は嫌い。


「いえ、ペルさんのせいで遅くなりました」

「そっちじゃないって言ってるのにすぐペルは先走るからね……」

「ふふふ、でもおかげでいっぱい街を見学できたけどね?」

「ちょっと! 迷子とは違うでしょ!!」


 背後から仲間に撃たれたが、

 精一杯の否定をするペル。

 私も撃っとこ。


「この程度の街で迷子になるとはマップ能力皆無だな!。お前みたいなやつは新宿駅で反対側に出て戻ってこれなくなるんだ!」

「どこよそれ!!」

「ってか朔夜も人のこと言えねーだろ?」


 ぐっ、よせ弁慶!!


「ははーん? なんで朔夜は人のこと言えないのかしら?」


 ニヤニヤしだすペル。


「おい! 弁慶それ以上言ったらぶっ飛ばすぞ!!」

「そもそも俺たちだって数分で着くはずだったのにこの馬鹿が突っ走るせいで何度別の方向に行ったことやら。二回連続曲がって走り続けるとかアホしかやらねえよ」


 恥ずかしさで顔が一気に熱くなる。


「ふふ~んだ! アンタこそ迷子じゃないのよ!!」

「ペルちゃんって本当朔夜さんとそっくりなのね♪」

「確かに。ここまで似てるなんて面白いね」

「ティナ! ロミオ!! 何言ってるのよ!!」


 ペルも顔が真っ赤になる。


「「こんな奴と一緒にするな(しないで)!!」」


 ほとんど似た言葉で怒鳴って、

 ふと私とペルは目が合った。


「「真似するな(しないで)!!」」


 みんながくすくすと笑う。

 くそぅ、生き恥だ! こんな奴と一緒だなんて!!


 今すぐにでもここを離れたいと思ったその時、

 スノウがつぶやく。


「どうでもいいですけど、迷子を自覚して二度と前を行かないでください。みんなの迷惑です」


 スノウの冷めた目線と冷たい言葉をぶつけられ、

 私とペルは更に真っ赤で

 熱くなった顔を冷ます術も見つからぬまま

 ただただ、いたたまれなかった。




────────────────────────

《とある村》



 朔夜達が闘技大会へ申し込みを終えた頃。


 草間町から遠くはない、

 とある村にて起きた出来事である。


 夕日はすでに傾きを深め、数間先は良く見えない。


 およそ村とは思えない無数のナニカが点在する中、

 数人の声が聞こえる。


「この話は本当なんだろうな?」

「エェ、勿論デスとも」


 何か念を押して確認する数人の者たち。

 

 腰に刀を据える者。

 背に弓を背負う者。

 槍を携えし者。

 何の武器も持たぬ者。


 様々な者がいるが、

 一つだけ共通点を有していた。


 ……頭部にツノがあるという共通点だ。

 

「本当にその子供ガキを攫ってくるだけでこいつらを俺らにくれるんだな?」

「ハイ。たったソレダケのことデス」

「ずいぶんと簡単だが、何か裏でもあるんじゃねぇのか」

「簡単? ソンナコトは無イと思いマスガネ。今ノ草間町は闘技大会のセイデ、強者ガ集ってオリマスカラ」

「だとしても子供一人攫うくらいわけないことだ」


 下卑た笑みを見せる者ども。

 

「デハ、任せましタヨ皆さん」


 数人の足音がその場を離れていく。


 残ったのは一人の男と、

 決してなくなることのない生臭い血の匂い。


「サテ……、アマイズさん?」


 一人の男はつぶやいた。


「はい、ここに」


 誰もいなかったと村の真ん中、

 気づけば一人の者がそこにいた。


「ドウカ頼みますネ。彼ラはどうせ役に立ちまセンカラ」

「はい」

「せいぜい試金石にデモなれば良いのデスガ、マァそれも期待はできないデショウ」

「彼の者は私は必ず連れてまいります」

「ハイ。では行ってラッシャイ」

「承知いたしました。般若様」


 そう言うと、地に沈むようにその場を消えた。

 今度こそ一人になった般若は一人微笑む。


「随分と手間がかかりマシタガ……。やっと、見つけたんデス。もう逃がしまセンヨ」


 暗い暗い、異様なほどの静けさの村に、

 般若の笑い声が響いた。






──────────────────────



読んでいただけてありがとうございます(˘•̥⧿•̥˘ )


朔夜さんとペルさんは

実に書いてて楽しいキャラです!

頭の中で考えなくても勝手に台詞が出てきます!

「あ~、やっぱりこういうと思ったわ」

と思われた方がいらっしゃったら幸いです!

貴方の中にも朔夜さんとペルさんが根付いたということですもんね!!


さて、不穏な空気になってきましたねぇ。

敵方の六芒鬼が一人『般若』

私の好きな敵の一人でごじゃります。

彼の台詞は脳内では CV.石田 彰 で再生されています。

銀魂の桂小太郎 エヴァの渚カヲル君の人ですね!


てなわけで!

また次話にてお会いいたしましょう!


ありがとうございました!!!






 




 



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