第十九話 ただの役割の一つ

源家本邸みなもとけ ほんてい:ティナ》




「はぁ〜。いつまで待たせるの? 早く屋台巡りしたいんだけど」

「ペルちゃん子供みたいなこと言わないの」


 私たちは今、

 草間町の一番偉い人のところに来てます。



「でもペルの言うことも一理あるよね。とても良い匂いだったよ」

「……焼き鳥」

「えっ? スノウ何か言った?」

「何も。また凍りますか?」

「なんで!?」


 ふふふ。

 スノウちゃんは焼き鳥を食べたいのかな?

 私はイカ焼き食べたいかなぁ……。


 そんなことを考えていたら、

 やっと地主さんが来たみたい。


 外から複数の足音が聞こえる。

 その音を聞いてか、使いの人は大きな声で叫んだ。


頼朝よりとも様が参られる!」


 その途端、何人かいた従者のような人や、

 時貞さんが頭を下げる。


「……浦島殿!!」

「んぁ?」

「頭を!!」


 時貞さんは半分寝かけてた浦島さんの頭を掴んで、

 無理矢理下げさせちゃった。

 ……あれ、浦島さんそのまま寝ちゃった?


「何これ。私たちもするの? いやよ?」

「んー、でも偉い人なんだよね? 僕は下げておくよ」


 一人だけみんなと同じように頭を下げるロミオ君。


 私は代表であるスノウちゃんに

 確認することにした。


「どーする? スノウちゃん」

「下げません」

「そうよね! さすがスノウ!」

「偉そうにするつもりはありませんが、私たちは依頼を頼まれた側ですので」


 そうなんだよねぇ。


「しっ! 来られますよ!」


 時貞さんの合図で私たちは黙る。

 流石に喋りながら待つなんてマナー違反だもんね。


 近づく足音、開くふすま。

 入ってきたのは、ええと、小柄な男の人。

 年齢は二十代後半くらいかな……?


「ようこそ、草間町へ」


 この人が、草間町とまとめていると言われる。

 源頼朝みなもとのよりともさんなんだ。


「はじめまして。クインピアから代表として参りましたスノウです」

「遠方よりはるばるよく来た。さて、お前とお前。もう下がって良いぞ。残りの道はこの頼朝の家来が案内するゆえ、お前らは荷物をまとめて天来港へと帰ると良い」


 頼朝さんは時貞さんと浦島さんに

 目と顎だけで指示を出した。


 それを見たペルちゃんの

 「なんでこいつこんな偉そうなの」って

 ブツブツ言ってる声を感じた。


「頼朝殿、僭越ながら申し上げますが、本件は大将軍殿より直々に賜りました任にございます。ゆえに、大将軍殿より任を解かれぬ限り投げ出すわけにはいきませぬ」


 時貞さんは頭を下げたまま頼朝さんに言った。


「良い。大将軍殿には私より申し伝えておく。下がれ」

「……出来ませぬ」

「お前、私に逆らうつもりか?」

「滅相もない。しかし、大将軍殿に逆らうわけにもいきませんゆえ」

「三つ数える。それまでに下がらねばお前のそっ首をはねてやろう」

「三、……二、……一」


 その時、ペルちゃんの我慢が限界に達した。


「待ちなさいよ。時貞の言う通りじゃないの? 手柄が欲しいのか知らないけど大将軍に頼まれたのは時貞たちなんでしょう?」

「お客人たちには関係の話だ。これはミコトグニの問題ゆえ」

「ミコトグニの問題に手を貸すために僕らは呼ばれてるんじゃなかったのかい?」


 頼朝さんの返す言葉にロミオ君も返す。


「私たちに案内人の選択権があるのなら、貴方ではなく時貞さんを私は選びます。おごり高ぶるあなたに比べ、時貞さんには愛と謙遜があります」

「世迷言を……。どうやらお前達は本当にこの国の問題を解決できると思っているようだな」


 続いたスノウちゃんの拒絶の言葉に、

 頼朝さんは怪しく笑いながら答えた。

 なにか、いびつな空気を感じる。

 

「話すり替えてんじゃないわよ。私たちが解決出来ようと出来まいと、使者として京安にいくのは当然でしょ。そして、その案内を頼まれてるのは時貞。アンタじゃないのよ。……つまんないわ、みんな帰りましょ」


 そう言ってペルちゃんは

 颯爽と入口の方へと歩いていく。

 その時、頼朝さんはとんでもないこと言った。


「はっはっは、なるほどなるほど。確かにそこの男は草間町にも名が届く美男子。異国の女どもはずいぶんと尻軽と見える」

「……なんですって?」

「なんなら今夜、私とどうだ? 金も名誉も、経験も豊富だぞ私は。顔だけのそこの男とは違うものを見せてやる。可愛くよがるのであれば先程の無礼も水に流してやろう」

「アンタ、もう黙りなさい!」


 ペルちゃんはそのまま水の剣を引き抜き

 頼朝に向けた。



 ……私たちよりも後に。



 スノウちゃんは氷の槍を。

 ロミオ君は魔銃の銃口を。

 そして、私は光で生成された剣先を向けている。


「勘違いされてるようですので、一つ伝えておきますね」


 スノウちゃんの殺気が言葉と冷気にのり

 部屋の中に充満していく。


「私はクインピアの代表として来たと言いました。これは言葉のままです。本件において、私の意志がクインピアの意志。私が断ればクインピアはミコトグニに手を貸すことは一切ありません」

「嘘をいえ。お前のような小娘がそこまでの権力を持つわけがあるまい」


 頼朝があざ笑う。


 その時、従者のうち何人かが武器を取り出した。

 刹那、従者たちの頬を何かが割いた。


「動かないでくれるかい? 悪いけど、僕は銃使いとしてはまだ未熟だと思っててね。次も同じようにしてあげられる自信はないよ」


 従者たちは大人しくなる。


「貴方はクインピアがどういう国か知っていますか?」


 スノウちゃんは話を続けた。


「クインピアは十三人の戦姫アンビションプリンセスが協力して治める国です。毎年その十三人には序列がつきます」

「だからどうした小娘が」

「私にそんな権力がないとおっしゃいましたが、私は序列二位の法爵戦姫プリムスプリンセス。まぁ正直、信じようが信じまいがどうでもいいのですが」


 そう、スノウちゃんはすごい人なの。

 毎年変わる序列の中でも不動の二位を守る

 とっても偉い人なの。


「お前の話が本当ならば、なぜお前が来た? そんなことは下のものにさせるものだろうが。私を騙そうったってそうはいかないぞ」

「簡単な話です」


 そう言って、スノウちゃんは一息置いて続けた。


「今のミコトグニが信用に足るかどうかを私が直接判断するためです。外交は一つ間違えば自国を危うくさせる要因の一つです。クインピア十三国の未来を左右するからこそ私が直接来たのです。それに……」


 スノウちゃんは睨みを強くして言う。


「主とは民を導くために、考えて、判断し、責任を取る。数あるの一つです。上も下もありませんよ、名ばかりの領主さん」


 頼朝の眉がひくついている。

 この人は喧嘩を売っちゃいけない人に

 喧嘩を売ってしまったのだ。


「……お前らこそ、この国のことを知っているのか?」

「いえ、この国は異国との交流を断っていますからほとんど何も存じ上げませんが?」

「この私はミコトグニの長、大将軍に次ぐ将軍にまもなく名を連ねる権力者だぞ」


 スノウちゃんの言葉に返す頼朝。

 大将軍に次ぐ将軍という存在。

 その存在くらいは私たちも知ってる。

 でも……。


 ふふっ、どうやら

 ペルちゃんも私と同じことを思ったみたいで、

 頼朝に言葉を返した。


? なら今は違うんじゃない。なってからいいなさいよ。本当ダサいわね。口だけの次期将軍さん?」


 ペルちゃんの容赦のない口撃に顔を真っ赤にする。

 だが、それも一瞬のことだった。


「まぁ良い。そこまで言うのならそこの者らに案内をしてもらえ」


 そう言って彼は部屋を後にしようとした。


 ……でも、おかしいよね?

 私は出来るだけ冷静に一声かける。


「ペルちゃんにまだ謝ってないよね? ひどいことを言ったことに対して、ちゃんと謝って」


 ちらりと彼は振り向いて言った。


「下げる頭を持ち合わせてない。戯言をほざくな」


 そうして彼は部屋の外へと消えていった。


「……残念ですね。今、私はミコトグニが嫌いになってきています」


 スノウちゃんは

 表情の怒りを隠さないままつぶやく。

 ロミオ君は「そうだねぇ」と静かに返した。


「ペルちゃん大丈夫?」


 こんなことで凹むような

 ペルちゃんではないけれど。


「えぇ、大丈夫よ。それより最後の聞いた?」

「えっ?」

「下げる頭を持ち合わせてないんだって。そりゃ考える頭もないわけよ」

「ふふふっ、そうね。なら仕方ないね♪」


 スノウちゃんとロミオ君も笑っている。

 ペルちゃんのこういうところ尊敬しちゃうなぁ。


「皆様、不快な思いをさせて大変申し訳ございませんでした」


 時貞さんは頃合いを見て私たちに頭を下げた。


「何言ってるのよ。時貞は悪くないわ! むしろカッコよかったわよ。アイツが首をはねると言ったのにピクリとも動かず頭を下げたままだったじゃない! 度胸あるわね!」

「確かに。僕なら『えっ?』ってなって相手の顔見るなりしちゃうかもしれないなぁ」

「私だったら凍らせてたかもしれません。時貞さんは立派です」

「いやいや、滅相もない!!」


 顔を真っ赤にして

 横に顔をぶんぶん振っている時貞さん。

 スノウちゃんの言ってた通り、本当に謙虚!


 照れてる時貞さんは話を変えるかのように、

 浦島さんをゆすった。


「浦島殿、いい加減起きてください! 何やってるんですか本当にもう!」

「んぁ? もう話は終わったと?」


 口角からたれたよだれをぬぐい、

 浦島さんは立ち上がる。


「貴方が寝てる間、大変だったんですからね!」

「そーよ! この街の領主だか何だか知らないけど、ホント最低な奴だったわ!」

「あ~。確かに評判は良くないけんね~」

「なんであんな人でも将軍に選ばれるなんて話になってるのが理解ができません」


 スノウちゃんは

 まだ怒りが収まってないのかもしれない。


「とにかく、お目通しは終わりました。皆さまが嫌でしたらこの街は今すぐにでも後に出来ますがいかがなさいますか?」


 私たちは目を見合わせる。


「私は闘技大会とやらに出るつもりだけれど?」

「そうだね。さっきの人は嫌いだけど、このお祭りは楽しんでいきたいかな」

「ミコトグニの大会ですからおおよその戦力も図れることでしょう」


 ペルちゃんもロミオ君も。

 そしてスノウちゃんもやる気満々だ。

 もちろん私も!


「桃太郎君たちもいるだろうし、闘技大会にいこっか♪」



 

 そうして私たちは時貞さん達とこの屋敷から出て

 大会の受付へと向かうことにした。





──────────────────────



読んでいただけてありがとうございます(˘•̥⧿•̥˘ )


出ましたよ!

口だけ達者な雑魚領主!!!


こういう腹立つ奴、大事ですよね~。

でも、嫌いなのでついつい物語から外しちゃう……。


さて、少しずつですがクインピアの話が出てきてますね!

十三人のお姫様。誰がいるんでしょうかねぇ。

大体がみんなが聞いたことあるメンバーですが、

みんな一癖も二癖もあるですます!


はやく二章かきたいな~。


てなわけで!

また次話にてお会いいたしましょう!


ありがとうございました!!!






 

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