第十八話 誰が裏切ったんですか?
《
「まぁ、母は偉大だしすごいからな!」
「はい。私も何度か
「あ~。……地獄だったろ?」
「……はい」
僕が感傷に浸っている間、
それに気づいたからか話は他の話になっていた。
僕は涙をぬぐい、姿勢を正した。
義経さんは僕をちらりと見て、また話を続けた。
「話を戻しましょうか。私はその後、
『牛若はまだ子供だ。こんな狭い世界じゃなくて広い世界を自由に生きた方が良い。だが、もし牛若が大人になったときにもまだ同じことを言うようだったら、一つだけ頼みがある。俺の子供たちを、友人として支えてやってくれ。牛若がついてくれるんなら百人力だよ、この子たちは』
「と。私はその日、心に強く誓いました。憧れの方からの唯一の頼みです。応えないわけがありません。あれから十年ほど経った今でも、私の気持ちは変わっていない。だからこそ辰夜殿に仕えさせていただきたいのです」
義経さんの瞳は真剣だった。
濁りのない、真っすぐな瞳だった。
「気持ちは嬉しいです。ですけど、義経さんに仕えてもらおうと思えません」
僕の答えに義経さんの瞳が少し揺れた。
「……理由をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「よくわからないですけど、仕えるってなるとどっちが偉いみたいなのができますよね? 僕は偉くなりたいわけじゃないです」
こんな真っすぐな瞳をしている人だ。
絶対いい人だ。だから。
「えと、お父さんの言ってた通り、お友達にすごくなりたいです!!」
なんて言えばいいかわからないけれど、
僕は大きな声で言った。
「ぷぷっ」
朔夜さんの声だ。
「ぷぷぷぷぷーーーー!!」
「ぶわーっはっは」
弁慶さんまでも笑いだした。
「牛若振られてんじゃねぇか!!」
「オトモダチニスゴクナリタイデスー!」
二人はゲラゲラ笑っている。
「辰夜殿、私めを……」
「……まずはお友達からで」
「なっ、なぜですか……!?」
「パパに言われたからなのだ!」
「ぶわーっはっは!!」
「ぷぷぷぷぷーーーー!」
謎の小芝居を即興で始める朔夜さんと弁慶さん。
チームワークが良すぎる。仲良しじゃん!!
「こ、こほんっ!!」
義経さんは咳払いをする。
「牛若が照れてらぁ!!」
「コホンコホンピエン!!」
弁慶さんと朔夜さんは止まらない。
そんな時、ふすまの向こうから声が聞こえた。
「若! すみません!! 少しよろしいでしょうか!!」
「だっ、大五郎か。どうした?」
義経さんはしどろもどろに返事をした。
「はい! 失礼いたします!!」
ススッとふすまが開き大五郎さんは言った。
「余計な真似かもしれやせんが、調べたところお客人達は闘技大会に登録されてねぇ様子だったので……。締め切りは夕刻までですぜ!」
「何っ!?」
朔夜さんが慌てて立ち上がる。
「待て、闘技大会の受付は三日間の祭りまでだろ!?」
「例年はそうだが今年は異国の奴らがいるから早めるんだってよ」
慌てる朔夜さんに弁慶さんは答えた。
「まじか! ちょっと行ってくる!!」
朔夜さんは部屋から飛び出そうとする。
それを弁慶さんが呼び止めた。
「おい待てよ。お前場所わかってんのか?」
「いつものとこだろ?」
「今年はそれも変わってる。おい大五郎、案内してやれ!」
「へいっ!」
「行くぞタメ五郎!」
「大五郎だよ!!」
そうして駆けだした朔夜さんは、
座ってる弁慶さんの服を掴みに行った。
「お前もだ弁慶!」
「なんでだよ!!」
「馬鹿野郎! 『俺とお前と〜大五郎〜♪』を知らんのか」
「知らんわ!!」
「三人いなきゃいかんのだ! 良いから来い!」
「っ! 引っ張んなクソ!」
ドタバタと三人は駆けて行った。
「お二人はよろしいので?」
義経さんが尋ねてきた。
「んむ。別に興がわかんしのぅ」
「僕は……、実はすっごく弱くて……だから」
さっきのお父さんの話を聞いたら、
今の僕じゃ全然足元にも及ばない。
「そうですか。無理に出る必要はないでしょう」
「あの……僕、こんな弱いのに……いいんでしょうか」
「頭首であることにですか?」
「……はい」
「問題ないでしょう」
義経さんはサラッと言った。
「龍辰殿も幼き頃はとても弱かったとお聞きしております」
「ほんとに!?」
最強と呼ばれたお父さんでも?
「龍辰殿はとある事件で友人を亡くされ、それをきっかけに世界を変えるため、死に物狂いで鍛錬を積みあげて最強と呼ばれるに至ったと様々な方にお聞きいたしました。
「えぇ……。朔夜さんって……血筋なんだね」
「私の知る限りで良かったら
「ぜひお願いいたします!!」
それから僕はお父さんの話を聞いた。
栗太郎も横で静かに聞いていた。
お父さんたちが
六芒鬼の人たちがどんなだったか。
そして、お父さんが殺された和平条約の話を。
「じゃあ、妖怪の長はまだ見つかっていないんですか?」
「はい。あの日、龍辰殿や月夜殿を始めとして数々の遺体が見つかりましたが、長殿と思われるのは見つかってません。ですが、そもそも妖怪は死して塵となる者もいますゆえ」
「それと、朔夜さんのお母さんも亡くなってたんですね……。それ朔夜さんは知って……」
「はい。元々、朔夜殿と私は顔見知りでしたゆえ、闘技大会に初めてきた時に伝えております」
「そっか……。聞いたことなかったから」
「辰夜殿は最近まで鬼ということをご存知なかったのでしょう? そのためかもしれません。それに、朔夜殿は悲しみなどを見せない方ですから」
「朔夜さん強がりですもんね」
「ふふ、そうですね」
義経さんは笑った。
すこし空気が和やかになったけれど、
僕はどうしても聞きたいことがあった。
「あの……」
「はい」
「和平条約はなんでそんな事になったんですか?」
聞けば聞くほど、
僕はお父さんを好きになっていた。
「……まだわかってません」
ミコトグニの平和のために、
色んなことをして、やっと手が届きそうで
「誰が裏切ったんですか?」
それなのに、それなのに、どうして。
「それもわかってません……」
なぜお父さんが殺されなきゃいけなかったんだ。
「本当は妖怪の長が、お父さんを裏切ったんじゃないですか?」
「違う………と私は思ってます」
絶対に許さない。
「でもお父さんを倒せる人ってそんなにいなかったんでしょう?」
義経さんは何も言わない。
「それに、殺されたから消えたんじゃなくて、本当は行方を消したんじゃないんですか!?」
気づいてたら僕は、大きな声を出していた。
義経さんが悪いわけじゃないのに。
義経さんは少し息を吸い、
僕の目をしっかりと見て言った。
「長殿は、龍辰殿と並ぶ善良なお方でした」
義経さんの眼だ。
真っすぐな、眼だ。
「先ほど少しお話しいたしましたが、私は妖怪の方々に修行をつけてもらった時期があります。だから長殿と一年ほど一緒にいました」
僕は頷く。
「龍辰殿に私を紹介してくれたのも長殿です。あの二人は幼馴染のように仲が良く、また互いを尊重しておりました」
幼馴染のように。
僕はふと栗太郎の方を見た。
目が合った栗太郎は静かに頷く。
「私にはどうしても長殿が裏切ったとは思えないのです……」
「じゃあ一体誰が……」
僕も義経さんも何も言えなかった。
ただただ静かな空間が続いた。
その中で、栗太郎が口を開いた。
「牛若よ」
「……はい。どういたしましたか」
「話を変えてすまんが……」
少し貯めて、栗太郎は言った。
「今の鬼を束ねているのは誰じゃ」
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読んでいただけてありがとうございます(˘•̥⧿•̥˘ )
今回はすこーし重い話でしたね……。
本当はプロローグとして、
この事件の話が五百文字くらいで合ったのですが、
プロローグで離脱が多くて無くしたんですよね。。。
泣く泣くです。本当は復活させたいです……。
でも、読者の方々は
『すぐに始まってくれ!!』
と思ってるでしょうからみんなに読まれるまでは
復活させないでしょうね……。
私も早く始まれ! って思うタイプだしなぁ。
てなわけで!
また次話にてお会いいたしましょう!
ありがとうございました!!!
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