第十七話 源平合戦

草間町くさまちょう 義経よしつねの屋敷:桃太郎》



 

「まわりの者の目もありますし、立ち話もなんですから」



 と義経さんに言われて僕たちは

 義経さんの屋敷へと来た。


 たどり着いた屋敷はとても広く、

 庭には演習場もある立派なお屋敷だ。


 僕たちが住んでいた家だと

 何十個も入りそうなほど。


「すごく大きな屋敷ですね」

「これでも源家の本邸には及ばないのですがね。いずれにしても私では持て余すような代物でございますが」


 なんと、もっと大きなお家があるらしい。

 源家ってすごい。


「では、こちらの間に」


 というわけで僕たちは客間の一つに案内された。


 皆がそれぞれ腰掛ける。


 メンバーは僕、栗太郎、朔夜さん、

 義経さん、弁慶さん。

 そして……。


「なんでお前もいるんだよ」

「お、俺様だってこの屋敷に仕える一人なんだぞ!!」


 朔夜さんに文句を言われたのは大五郎さん。


「すまない、大五郎。ここからはとても大切な話をすることになる。そなたを疑うわけではないが、極力広めたくない話だ。席を外してもらえるだろうか」

「へ、へい! 若が言うなら!!」


 そう言っていそいそと部屋を後にした。

 結局五人で話をすることになった。


「さて、と。辰夜たつや殿、何から話したらよいでしょうか」

「すみません。実は僕、自分が鬼だって知ったの最近で、お父さんのこともお母さんのことも知らないんです」

「なるほど」

「ってことはなんだ。鬼化は出来ねぇのか?」


 僕の言葉にうなづく義経さん。

 そして弁慶さんが尋ねてきた。


「はい。その、疑っているわけじゃないんですけど、正直、僕って本当に鬼なのかなって思うこともあるというか、実感がないというか……。僕が証明できるのはこれしかないみたいで」


 そう言って僕は手甲を外して六芒主印ろくぼうしゅいんを見せる。


「あー、確かに。六芒主印があるなら鬼だろうな。六芒鬼は鬼じゃなくてもなれるが、それは鬼じゃねぇと受け継げねぇ。……念のため聞くけど、これ朔夜が手書きでかいたとかじゃねぇよな?」

「弁慶、何を言っている。朔夜殿の画力では不可能ではないか。失礼なことを言ってはならない」

「おい牛若。お前が一番失礼だからな」


 朔夜は義経さんにプンスコと怒った。


「ってことは今代の頭首様は鬼化も出来ねぇのかぁ~」


 弁慶さんは足を延ばして、手を後ろにつき、

 天井を見上げるようにして言った。


「弁慶」

「つったってよぉ、牛若。お前本気でそいつにつくのか? 今の地位を捨ててまで?」

「言ったであろう。私は権力なんて必要としていない。人を束ねるのも、まつりごとも兄者に任せておいた方が良い。四人目の将軍に興味はない」

「おい、牛若! それ何の話だ?」


 弁慶さんたちの話に朔夜さんが食いついた。


「最近、牛若の活躍で源家が話題になっててな。活発化している鬼の制圧、そして民からの信望。後は……まぁ色々とあってな。大将軍に次ぐ秀吉と家康に並んで源家からも一人将軍をって話が来てんだ」

「まぁ、その話は良いでしょう。私は二人の恩人との誓いがあります。今の私があるのは師匠とその二人のおかげゆえ」

「そういえばお父さんに恩義があるって」


 僕は義経さんに尋ねた。


「はい。龍辰りゅうしん殿は私の、いや、この街にとっての恩人です」

「僕のお父さんがこの街の?」

「ちょうどお前が生まれたくらいの時だ。その時、この街にはまだ平家ってのもいたらしくてなぁ。平家と源家どちらが草間町をまとめるかってことで、でかいいくさになったらしいんだ。この街でな」


 義経さんの言葉を受け、弁慶さんが教えてくれた。

 義経さんが話を続ける。


「平につく者、源につく者。この街のみんなは自分が信じている方を勝たせるため、あの手この手で戦いました。同じ釜の飯食べた関係でも殺し合いをすることも珍しくありませんでした」


 義経さんはそう言った時、

 少し寂しそうな眼をしていた。


「多くの犠牲者が出ました。だからこそ、お互い引けなくなった。勝たないと、散った者達は何のために死んだのかとなりますから。みな、死んだ者に理由を付けるために戦っていたようなものです」


 僕は黙ってうなづく。


「みな自分が信じるモノのために戦いました。いくさというものは大体がそうです。互いが自分が正しいって思っております。間違いを認めたくないからやめられない。認めたくないんです。勝った方が正しい。だから勝たなくてはなりません」


 義経さんはそこで言葉を止めた。


 多分、義経さん自身の経験でも

 何かあったんだろうと僕は思った。


「そんな中、源家の義仲よしなかという、私が兄のように慕っていた方が、敵将を打ちとりました。それでいくさは終わると思っておりましたが、平家勢力は引かなかった。死なばもろともと言わんばかりに自暴自棄な突撃を繰り返し、互いの摩耗は更に激しくなりました」


 前、じっちゃんも言っていた。

 獣を狩るときに一番気を付けなきゃいけないのは、

 相手が死を覚悟したときだって。

 手負いは、その相手の一番強い状況と思えって。

 

「だが、その戦いを止めた方がいました。それが龍辰りゅうしん殿です」

「あれか? この戦争を終わらせに来たってか?」

「朔夜さんだまってて」


 今いいところだし、

 この話の流れでよく言えるもんだ。


「だぁーってよぉー。なんか話が重いもん~」


 ぶーぶー言ってる朔夜さん。

 ……隣の栗太郎は真剣な表情で話を聞いていた。

 義経さんはつづける。


「両家とも疲弊し、街の者もみな傷ついていました。一刻も早く戦いを終わらさねばならなかった。でも戦いは続いていました。そんな中、龍辰りゅうしん殿が来て言った言葉は、町の者どもに衝撃を与えました。『西の拠点が欲しいからこの街、俺らがもらうぜ!』と言ったのです」

「えっ、お父さんは平和にするために戦ってたって……」

「はい。私たちの認識もそうでした。しかし、龍辰殿やその六芒鬼の面々は次々と攻撃を始めました。街の者では歯が立ちません。当時の彼らと互角に戦えるものはミコトグニでもそうはいません。妖怪の長とその配下『伍妖傑ごようけつ』。もしくは当時の大将軍である義輝よしてる公や龍ヶ嶺りゅうがみねの何人かくらいでしょう」


 何故お父さんは草間町を襲ったのだろう。

 僕は続きが気になった。


「街の者は自分たちで争っている場合ではないと気付きました。源平の両勢力が力を合わせ、彼らを迎えうちました。その戦いは一晩中続きました。そして夜が明ける頃、私たちは気づいたのです」


「何にですか?」

「彼らは街の誰も殺していないことに」

「えっ。でも攻撃してたって」

「はい。間違いなく。しかし、私たちは剣を折られ、盾を打ち抜かれ、切り付けられはしているものの、重症を負った者はいなかった。それどころか街の者が源平の戦いで負った傷は、通常じゃ考えられないほどの速さで治っていました。そういうことが出来る者もまた、六芒鬼にいたのです」

「つまりそれって」

「はい、そういうことです。そのことに街の皆が気付きだした頃、龍辰殿は言いました。『こりゃー、この街は取れないな。源平が仲たがいしてるから取れると思ったのになぁ。仕方ない。皆、諦めて帰ろうぜ』と」


 僕は衝撃だった。


 いくら強かったとしても、

 それでも下手すれば自分たちが

 殺されていたかもしれないはずだ。


「彼らが去るとき、何人かは問いました。『俺たちの為なんだろう?』と。でも、彼らはそれを認めなかった。『そんなバカな話あるか。俺たちはそんな暇じゃないし。俺なんか最近子どもが生まれたばっかで大変なんだぞ』と。私たちは愚か者ではありましたが、馬鹿ではありません。彼らの意図に気付かなかった者はいません。彼らは戦いに意味を持たせてくれました」


 そして、義経さんは少しうれしそうな、

 しかし、悲しそうな顔をして言った。


「私はそんな龍辰りゅうしん殿に憧れました。本当に強い者の力の使い方はこれだと気づかされました。その後、私は妖怪の方々にもご指導を頂き、その後も龍辰りゅうしん殿みたいになれるよう必死に修行を続け、そして今に至ります」


 僕は何とも言えない気持ちになった。

 身体の底から何かが沸き立つような気持ちだった。


 こんな。


 こんなすごい人が。


 僕のお父さんだったんだ。






 気づけば僕の目から、少しだけ。

 涙が溢れていた。




 

──────────────────────



読んでいただけてありがとうございます(˘•̥⧿•̥˘ )


桃くんのお父さん!

私の文才では伝わらないかもだけれど

めたんこかっこいい人なんです!


そしてしれっと名前が出てきた『伍妖傑』

まーた厨二病満載の名前でごじゃる。


早く出したくてうずうずしてます!!

もう可能ならここで全部ぶちまけたい気持ち

だめよ! 落ち着くのよ私!!


というわけで!

また次話にてお会いいたしましょう!


ありがとうございました!!!



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