第十六話 草間町

《天草街道:桃太郎》




 草間町が燃えている!?


「大丈夫なのかい? あれ!」

「私がやるわ!」


 ロミオさんの驚く声とペルさんの声。

 それを浦ちゃんの一言がぴしゃりと止めた。


「あ~、大丈夫ばい。あれ、祭りが始まる合図やけん」

「「「「祭り!?」」」」

「ええ、あれは闘技大会が始まる合図です。異国の使者の方々が到着したのを見張り番が見て上げたのでしょう。今回の闘技大会は異国への良い宣伝にもなりますし」


 隣では一人だけプププと笑っている人がいた。

 言うまでもなく朔夜さんだ。


「ワタシガヤルワー! ワタシガヤルワー! ぷぷぷ」

「馬鹿にしてるのね? 上等よ!!」

「ワタシガヤルワー!」

「待ちなさい!!」


 ペルさんをおちょくりながら逃げる朔夜さん。


 そっか。

 朔夜さんは出場したことあるから知ってたんだ。


「ワタシガヤルワー!」

「噴射する水撃ハイドロジェット!」

「ワタシガヤルワー!」


 それにしても朔夜さんて本当に……。


「あやつは相変わらず性格悪いのぅ」

「まったくだよ……」


 幼馴染の僕たちですら擁護は出来なかった。



────────────────────────





「というわけで、一応みなさまも望めば参加が出来ます」


 時貞さんは異国の使者の皆も

 参加が出来ることを伝えた。


 滅多にない機会なので異国の力を見たいと、

 三将軍が認可を下したらしい。


「ふ~ん! じゃあ公式的に朔夜を叩きのめせるのね!」


 ペルさんがルンルンとしてる。


「ちなみにどんなルールなのでしょうか」


 スノウさんはサンドイッチという奴を

 優雅に食べながら聞いた。


「基本のルールは単純で敗北の条件だけ決まってます。戦闘不能になる、負けを認める、誰かを殺傷する。この三つだけです」

「なるほど。それは確かに単純だね」

「はい。武器の使用や仙術の使用も許可されています」


 時貞さんの答えにロミオさんが答えた。


「仙術ってあれでしょ? 魔術のことよね」

「ふふっ。そうだよペルちゃん」

「ってことは私たちめちゃくちゃ有利ってことね!」


 ペルさんのルンルン度が三上がった。


「もう一つ、前提として厳密に言えば参加条件というものはあります」

「私たち出れるんでしょ?」

「はい。ですが年齢によって参加できる大会が分かれているのです」

「どういうこと?」

「十八歳未満の青年の部、六十歳未満の成人の部、それ以上の達人の部とあります」


 へぇ。

 ってことは僕が出るとしたら

 青年の部になるのかぁ。


「私が優勝したのは青年の部だ。今年からは成人の部に出れる。暴れるぞ~!」


 朔夜さんのルンルン度もあがった。


「何よそれ! なんで年なんかで分けるのよ!」

「ん~。でもそれが決まりなら仕方ないね……」


 ペルさんとティナさんは落ち込んでいる。

 いや、ペルさんは怒ってる。


「二人共、なんで落ち込んでるんですか?」

「私たちの年齢だと達人の部になっちゃうから……」

「そーよ。朔夜ぶっ飛ばせないじゃない」

「……ええっ!?」


 二人の言葉に驚く僕。


「二人ともいくつ何ですか!?」

「うふふ。何歳に見えるかな?」

「出た。女が言うめんどくさい質問ランキング上位の質問だぞ。桃、逃げろ」


 朔夜さんの言葉は一回無視するとして。


「えーと。見た目的に朔夜さんと変わらないと思ってました。なので二十歳前後かと……」

「いいじゃない! 朔夜と同じくらいって表現はあれだけど!」


 上機嫌なペルさん。


「見た目はあってるんだけど、実は私たち二百歳くらいなんだよ♪」


 ティナさんはさらっと聞き逃せない年齢を言った。


「「「「二百歳!?」」」」


 これには朔夜さんはおろか、

 時貞さんでさえ驚いた。


「私たちは賢人族エルフェイムって言う長寿の種族なんだ♪」

「やべーな。辰樹たつきより婆さんじゃないか」

「ちょっと、だれが婆さんよ」

「いや、お前だけど」

「ぶっ飛ばす!!」


 朔夜さんたちの追いかけっこがまた始まった。

 本日九回目です。


賢人族エルフェイムは最初の十年以外は二十年に一歳くらいしか老けないから見た目的には二十歳くらいなの」

「なるほど……」


 世界ってすごすぎる。


「ふふふ。ミコトグニじゃ珍しいかもしれないけど、私たちの国じゃ結構普通なんだからね?」

「そうですね。竜人族ドラゴノイド造人族ギルドワーフを始めとして長寿種は数多くいますし」


 ティナさんの言葉にスノウさんが答えた。

 異国にはいろんな種族がいるみたいだ。


「ははは。世の中にはいろんな人がいるからねぇ。スノウだって四百歳超えてるし!」

「えっ」


 笑ってロミオさんはそう言った。

 途端、冷気のようなものを強く感じた。


「ロミオさん、どうして私の年齢の話を?」

「いや、ほら! べ、べつに隠すほどの話でもないかなーって」

「隠すほどの話ではないですが、さらす話でもないですよね?」

「だ、大丈夫だって! スノウだって見た目は二十代後半くら……」

「少し頭を冷やしてて下さい」


 スノウさんの手から冷たい風が吹きすさぶ。

 そしてあっという間にロミオさんは……。



 カチカチに凍った氷像となってしまった。



「おろか者め! 氷となり永遠の時を悔やむがよい!」

「いや、朔夜さん何もしてないじゃん」

「ついつい言いたくなったんだ」


 どうせ朔夜さんのことだから碌な言葉じゃない。

 緑の魔王なんて僕は知らない。


 僕たちはそのまま氷像と化したロミオさんと共に

 草間町へと向かった……。




────────────────────────

草間町くさまちょう:桃太郎》




 むせかえるほどの人、人、人。


 天来港の港もいっぱい人がいたけれど、

 草間町の人の数は想像以上だった。


「おい桃! 次はあっちの屋台だ!!」

「辰夜、あそこの者の腰を見よ! あれは名刀じゃぞ!!」


 左右から趣味丸出しの歓喜の声を浴び続け

 僕は疲れてしまった。


 ティナさんたちはこの街の領主と言われる

 源家ってとこに向かうため、

 僕たちとは別行動になった。


 夜になったら合流することになっている。


 だけど、この調子だと夜になるころには、

 僕の体力ゲージは真っ赤っかだろう。

 下手したら『しに』って書かれてるかもしれない。


「ねぇ、ちょっと僕疲れたよ」

「何を言ってるのだ! まだおいしい焼き鳥屋さんとイカ焼き屋さんが私たちを待っている!」


 そう言ってこっちを見たまま歩いていた朔夜さんは

 知らない女性の人にぶつかった。


「あいたたたでごじゃる……」

「大丈夫ですか!?」


 僕は倒れたその人に手を貸した。


「よそ見しててごめんなさいでおじゃるよ」

「いや、こっちこそ……。ちょっと、朔夜さん謝らなきゃ!」

「私悪くないもーん。そいつがどんくさいのだ!」

「朔夜さん!」

「あわわわ! 怪我もないから大丈夫でごじゃるよ~! 」


 その人は膝やお尻の砂を払った。

 そして落としてしまったいくつかの矢を拾い、

 弓を背負い直した。


「じゃぁ私、行かなきゃでごじゃるので!」


 そう言ってその人は走っていった。


「……何で睨んでるんだよ~」

「今のは完全に朔夜さんが悪かったじゃん」

「む~。悪かった~」

「僕じゃなくてさっきの人に謝るべきだった」

「次会ったら謝る~」

「てか栗太郎もなんで……」


 ふと栗太郎の方を振り返ると、

 知らない人と話をしていた。


 あぁ、あの感じ。

 多分あの人の刀の話だ。


「ちょっと栗太郎!!」


 栗太郎は「ハッ!」とした顔をして小走りで来た。


「辰夜すまんのぅ。……あと二十人くらいだけダメかのぅ」

「人数多すぎない!? はぁ、もう好きにして……。僕休むから」


 そう言って僕は近くの木の陰に座り込んだ。


「……これはすまんかった。ワシとしたことが浮かれておったようじゃ」


 栗太郎も隣に座った。


「桃は貧弱だな~」

「こんな人が多いの初めてだから疲れちゃったんだよ」

「まぁ確かに。おかげで珍しいものをいっぱいみれたのじゃ。例えばさっきの者が持ってた刀じゃが……」

「ねぇ、栗太郎。一回その話やめて」

「すまぬ……」

「それにしても、本当に人が多いよ……」


 老若男女問わず人がいる。


 山の中で暮らしていた僕だと

 想像もできないほどに。


「闘技大会はミコトグニの三大祭りじゃからのう」

「なるほどねぇ。強そうな人たちもいっぱいいるし参加者も多いんだろうな~」

「まー、ここにいる奴の大半が何故来たのかもわからないくらいただの雑魚だがな~」


 朔夜さんの不遜な発言に周りがぴりつく。


「ちょっと朔夜さん!」

「よく見てみろ。強そうなやつは一人としていない」

「おい待てや、お嬢ちゃん。誰が雑魚だって? 俺様を見てもそんなこと言えるのか?」


 朔夜さんの言葉に怒って大きな人がやってきた。

 筋肉もすごくて見るからに強そうだ。


「むしろお前みたいなやつに言ってんだぞ。見込みないから帰れ」

「なるほど。世間を知らないガキが……。俺様がお前に世の中を教えてやろう!!」

「やってみろ」


 大きな人は朔夜さんめがけて、

 朔夜さんの顔くらい大きな拳を振り下ろす。


 朔夜さんは冷めた目で八具仙に手を添え

 迎え撃とうとしていた。



 ガキンッっという金属音が鳴り響く。



 だけど、朔夜さんが殴られたわけでもない。

 大きな人が切られたわけでもない。


 赤髪の男の人が間で二人の攻撃を受け止めていた。

 

 大きな男の拳を片手で悠々と受け止め、

 朔夜さんの八具仙は身体よりも大きな薙刀で受けている。


「やめとけ大五郎。お前じゃこいつには勝てねぇよ」

「べ、弁慶……」


 弁慶と呼ばれた赤髪の男は「へっ」と言って

 朔夜さんの方に向き直る。


「久々じゃねぇか。相変わらずお転婆やってんな」

「お~、弁慶じゃねぇか。お久し~」


 どうやら朔夜さんの知り合いだったみたいだ。


「朔夜さん友達?」

「ん~、知り合いの雑魚。泣き虫弁慶だ」

「ってめぇ……。全然変わってねぇな」

「お前、相変わらず泣き虫なのか?」

「誰が泣き虫だ誰が!」

「弁慶ちゃまに決まってるだろ」

「ぶっ飛ばすぞ!」

「やってみろ!」


 え、なにこれデジャヴ?

 この人止めに来た人じゃなかったっけ。


 朔夜さんは弁慶さんが動く前に、

 迷わずすねを蹴った。


「いっだ!!!!!」

「ほら、べそかいた」

「かいてねぇよ!!」

「ほれほれ」


 朔夜さんは弁慶さんのすねを何度も蹴る。


「いって! くそが!!」

「ほれほれ~」


 なんて嬉しそうな顔。


 朔夜さんって普通の人から見たら

 本当にただの嫌な人だよなぁ……。

 

「弁慶よ、ここに居たか」


 第三者の声に僕は振り向いた。


 後ろで束ねた、少し藍色がかった黒の長髪。

 誰が見ても異論はないほどの整った凛々しい顔。

 けして着飾ってはいないのにもかかわらず

 見ただけで高貴な身分に見えた。


 何より、その人が現れただけで

 空気が変わったのが分かる。


「おっ、お前もいたか牛若うしわか

「これはこれは朔夜殿。三年ぶりほどでしょうか」

「だなー。前はお前に優勝を譲ったが今回は譲る気はないぞ」

「これは大変苦戦しそうですね。ですが、楽しみが増すというものです」


 朔夜さんが優勝を譲った……?

  

 そういえば確か、

 一度優勝を逃したとかいう話をしてたような……。


「あっ! そこそこまあまあの?」

「おぉ、そうだそうだ! そこそこまあまあの牛若だ!」

「お初にお目にかかります。今は元服をすませたゆえに義経よしつねと申します。お二人の名前をお伺いしても?」

「ワシは栗太郎じゃ。よろしく頼む、牛若よ」

「僕は桃太郎です。よろしくお願いします」

「栗太郎殿に、桃太郎殿。よろしくお願いいたします」


 義経さんはニコッと微笑みそう言った。

 爽やかだ。イケメンだ。すごくかっこいい。


「いや、桃太郎は仮の名でこやつの本当の名前は辰夜たつやじゃよ」


 えっ?

 まぁ、そうなんだけど……。


「栗太郎殿、今なんと?」

「まことの名は『辰夜たつや』じゃ」

「よもや……!」


 義経さんがとても驚いた顔で僕の方を見た。


「待てよ! じゃあこいつが!!」


 弁慶さんも驚く。

 

「こいつが龍辰りゅうしんさんの……」

「あぁ、弁慶。そういう事になるな」


 二人は顔を見合わせた。


 義経さんは僕の前に立ち、

 そしてひざまずいて言った。


辰夜たつや殿。貴殿の父君、龍辰りゅうしん殿への恩義を果たすべく、この源義経みなもとのよしつね、貴殿にお仕えさせていただきたく存じます」


 

 ……どういうこと??





──────────────────────



読んでいただけてありがとうございます(˘•̥⧿•̥˘ )


エルフは若くても年取ってる。

あるあるですねぇ~~。

それよりも年上のスノウさんは何者なのだろうか。


さて、出てきましたね!牛若くん!!

牛若丸こと義経くん!!


義経という名前で弱いわけがない!!


弁慶も強いはずなんよ。

すね蹴られたら泣くんだけれども。


第一節のメインステージ『草間町』

遂に始まるンゴ!!


てなわけで!

また次話にてお会いいたしましょう!


ありがとうございました!!!



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