第十話 大馬鹿者
《
「おーい、龍馬~! お前に客がきとるばい!!」
浦ちゃんの大声は小屋に響くが、返事はない。
「おると~? おらんと~?」
返事はない。
「ふむ。出かけておるのかの」
「え~、こんな所で待つのか?」
朔夜さんが不満そうな顔をしたのもつかの間、
浦ちゃんは堂々とした振舞いで言った。
「おるかわからんけどあがるばい!」
勝手に入る浦ちゃん。
そんなことある?
「龍馬どこさおるとや~。ここや?」
そう言って壺の蓋だったり、
棚を開けたりする浦ちゃん。
「わかった! ここやろ!!」
そう言ってタンスを開けようとする。
確かにタンスを開けようとする浦ちゃんを見ると、
かなり重そうだ。だがしかし、そんなはずはない。
「いやいや浦ちゃん。流石にそんなところには……」
やっとこさ開けたタンスの中を覗きながら
浦ちゃんは言った。
「お前、そんなところで何ばしよーと」
「うぅ~。朝日がまぶしいぜよ~」
居たんですね、龍馬さん。
「なんばいいようとね。もう正午まわっとるばい!」
「そんなはずはないぜよ。俺が寝たのは寅の刻(3時)ぜよ。まだ眠たい」
「外見てみんね」
「結構。俺はまだ寝る」
自由奔放なふるまい。
確かに変わっているのかもしれない。
何故すぐそこに布団があるのにタンスで寝るのか。
どうやって閉めたのか。謎は尽きない。
「お前に客が来とるばってん。俺の幼馴染やから話を聞いちゃらんね」
「無理ぜよ。いったん帰ってくれって伝えてくれ」
十分の十で僕たちにも全部聞こえてるよ龍馬さん。
龍馬さんはモゾモゾしながら、
こちらをちらりとも見ようとしない。
これはだめかもしれないと思った時、
朔夜さんは踏み出して言った。
「おい、船馬鹿! 私たちを鬼ヶ島に連れていけ!」
おおよそ交渉する人のやることではない。
だが、何を言われても反応が薄かった龍馬さんが、
初めて振り返り、いや、寝返りを打って。
僕たちの方を向いて言った。
「ほほう? 鬼ヶ島に連れて行けとは、一体どこの大馬鹿者だ?」
「私たちだ。今すぐではないが、私たちは鬼ヶ島に行かねばならん。あそこまで船を操縦できる奴なんてそうそういないからな。お前なら出来るんだろう?」
「まぁ、それくらい容易なことぜよ。だが、俺は人の自殺に付き合うほど、酔狂な生き方をするつもりはない」
「死ぬつもりはない」
「では観光にでも? 悪いがおすすめはできないぜよ」
「百も承知。私は鬼ヶ島出身だからな」
「なれば鬼か。鬼ならば満月の日に歩いていけばいいだろう」
興味を失ってきたのか、また寝返りを打つ。
この話は終わりだ。と
背中で語っているように見えた。
「それは出来んな。私たちは鬼ヶ島に討ち入りに入る」
「討ち入り……だと?」
龍馬さんの声質が変わった。
「あぁ、ここにいる奴が本当の鬼の頭首だ」
「そりゃぁ信じがたい話ぜよ」
そうは言ったが、
龍馬さんはタンスから出て僕を見る。
「お前さんが頭首って話、本当か?」
その鋭い眼は
先ほどまでのただの変わり者ではなかった。
感じる圧で言えば、
とげとげしさは無いが般若って人にも負けてない。
「……はい。僕が頭首です」
僕は左手の手甲を外す。
証明する方法を他に知らないから。
「
そう言って、
龍馬さんは六芒主印から僕に視線を移す。
いや、僕を通して何かを見ているようにも見えた。
「お前さんは今の鬼ヶ島に行って戦えるのか?」
「今行けば、勝てないと思います」
「ならば、なぜ行く?」
「頭首になるためです」
「なりたいって言えばなれるほど世間は甘くないぜよ」
確かに龍馬さんの言う通りだ。
「でも、なります」
その言葉を聞いて龍馬さんは黙った。
そして何かに気付いたようなそぶりを見せて
少し笑う。
「お前さん、父の名前は
「ええと、会ったことはないですがそう聞いてます」
「がっはっは! 通りで通りで!!」
大声で笑いだす龍馬さん。
もしかしてお父さんの知り合いだったのかな?
ずっと笑っている龍馬さんに朔夜さんが続けた。
「というわけだ。鬼ヶ島に連れて行け!」
「鬼ヶ島に行くっていうからどこの馬鹿かと思えば……そうかそうか。」
「そんなお前は船馬鹿なんだろう?」
「それは否定できんぜよ。一つだけ確認しよう。お前さん達に協力するとして、俺に見返りはあるか?」
「私たちが異国に行くとき
「ふっふっふ……。あーっはっはっは! わかったぜよ、それでいい!!」
何が面白かったのか、
龍馬さんはずっと笑っている。
「さてはお前さん、
「母を知ってるのか?」
「知ってる知ってる。いや~、こうも似るもんか……。よし、お前さんらを鬼ヶ島に連れてってやるぜよ。だが、船はどうする? そんじょそこらの船じゃ、あの渦潮は乗り越えられないぜよ」
「……それは考えてない!!」
「ひー! もうお前さん喋るな! はっはっは」
「こいつ何がそんなに面白いんだ」
珍しく朔夜さんが困っていた。
「なら、お前さんらが船を持ってくるのを俺は待っておくとしよう。そうだ、お前さんちょっとそこで待っておけ」
そう言って、龍馬さんは奥に行く。
戻ってきたときに、一振りの刀を持っていた。
「鬼ヶ島に行くってのに木剣じゃ話にならないぜよ。これは俺が昔使っていた刀だ。値打ちモノではないがお前さんにやるぜよ」
そう言って、
龍馬さんは年期の入った刀を差しだした。
柄の部分が黒くにじんで変色している。
「いいんですか?」
「あぁ。俺にとって大事なもんだが、お前さんの手にある方が良いぜよ」
「それなら!」
「いいから持っていきな。俺が持ってても飾るだけで、刀は泣いてるぜよ」
「……ありがとうございます」
「桃、そればっちぃ刀だな」
うん、朔夜さんは
とりあえず人に嫌われるタイプだと再認識した。
「うまく話がまとまったようで良かったたい」
「浦島も鬼の頭首が来たならば最初に言うぜよ」
「龍馬が眠いしか言わんけんが言えんかったとたい!」
「龍馬さんぜよ。お前さんの方が年下じゃか」
「今更なんばいいようと。もうよかやん」
龍馬さんと浦ちゃんが仲良さそうに話していた時、
ゴンゴンと入口の戸を強くたたく音が聞こえた。
「ごめん申す! 龍馬殿、浦島殿は来ておられぬか!!」
小屋の外から凛とした声が聞こえる。
「やっべ、忘れちょった!!」
「……今の声! 龍馬殿、お邪魔いたす!!」
入口の戸が開く音がして、
力強い足音が近づいてくる。
「浦島殿!! とっくに時間は過ぎております!!」
現れたのは、雪のように白い肌で
眉目の整った、美しい人だった。
「悪い、
浦ちゃんは片手を顔の前に立てて謝る。
これは本気で悪いと思ってる時の浦ちゃんの癖だ。
「これは、龍馬殿の客人もご一緒でしたか。騒がしくして申し訳ございません」
そう言って深々と頭を下げる
一拍間を置き、頭を上げて浦ちゃんに言った。
「浦島殿、間もなく船が港に来ます。早くまいりましょう!」
「今すぐいくけん怒らんでくれ」
部屋を出ようとする浦ちゃんに朔夜さんが問う。
「おい浦島、いったい誰が来るんだ?」
「それは機密情報ですので」
と時貞さんが言いかけたところで
あっさりと浦ちゃんは答えた。
「あぁ、なんか異国の使者がくるっちゃん」
朔夜さんがニヤリと笑う。
──────────────────────
読んでいただけてありがとうございます(˘•̥⧿•̥˘ )
龍馬さん、やべー奴でしたね(〇_〇)
さて、新キャラの時貞くん。
この名前を見てピンときた方。
あってますよぉぉぉぉぉ!(大声)
さて、異国の使者たぁ誰のことなんでしょうかねぇ(すっとぼけ)
というわけで!
また次話にてお会いいたしましょう!
ありがとうございました!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます