第八話 異国

天来港てんらいこう:桃太郎》




「はぁ~、食べた食べた~」

「すっごくおいしかったね! 初めて食べたよ!」

「んむ。なかなかできぬ貴重な体験じゃったの」


 僕たちは天来港でクインピアの料理といわれる

 『はんばぁがぁ』というものを食べた。

 

 『ぱん』とか言われるものに

 肉やら『ちぃず』とか野菜を挟んだ

 美味しいものだった。


 朔夜さんは念のため二個余分に買ってる。

 後でまた食べるらしい。さっき五個食べたのに。


「あのジャガイモ揚げた奴もよかったな。あれくらいなら私でも作れそうだ」

「朔夜さん、あれは『ぽてぃと』っていうんだよ!」

「これ、自分たちで誰でも作れるようにレシピ化して、各地で人を雇ってめちゃくちゃ店舗を増やしたら成功しそうじゃないか? 私がオーナーだから各地で食べ放題だし……。よし! サクドナルドって名前で展開しよう!!!」

「やめよ。敵に回すな」

「え~。飽きないように朝はあっさりめでさっくり食べれる『朝サック』っていうメニュー作ったりとかアイディアめっちゃあるのにな~」

「もうあるんじゃよそれ……」


 僕にはよくわからない。


「朔夜の妄想はここまでにして聞き込みでも始めるかの?」

「今日の晩御飯の?」

「違うでしょ! 総舵手!」

「冗談~」


 朔夜さんが冗談と自分で言うときは、

 大体、機嫌がいい時なので悪いことじゃない。


 とにかく、

 僕たちは道行く人手当たり次第に声をかけた。


「何言ってんだ? 大丈夫か坊主」

「夢を見るのも悪くはねぇが、命あっての人生だぜ」

「俺も若けりゃ一緒に行ってやったがなぁ~」

「悪いことは言わねぇ。坊ちゃん、おうちに帰んな」


 帰ってくる言葉は、

 相違はあれど『無茶』の一言に尽きた。


「鬼ヶ島ァ? そんなとこに行きたがる馬鹿はいねぇよ!」

「やっぱりだめかぁ……」

「思った以上に難しいようじゃのう」

「まぁ、確かに観光地でもないしな」

「違う案でも考えねばならぬかもしれんの」


 ちょっと方針を変えようか

 という話をしようとした時だった。


「いや、待てよ? 龍馬りょうまの馬鹿なら行くかもしれねぇなぁ」

「龍馬……さん?」


 初めて手がかりをつかめそうになる。


「あぁ。あの馬鹿は船が大好きでな。大きな船に乗りたいって理由だけで将軍だまして乗り回したことがあるくらいの馬鹿だ。度胸も腕もアイツ以上はそうそういねぇだろうが……」

「何かあるのか?」

「その将軍の件であいつに船を貸す奴がいなくなってよ。アイツにかかわると目を付けられるからって誰もアイツに船がらみでは関わらなくなっちまった。それであいつはずっと家にいるって話だが」

「今、龍馬はどこに住んでおるのじゃ?」

「海沿いを西に行ったところの灯台の近くで、小さな小屋に住んでるって話だぜ。今も船が好きなんだろうな」

「教えてくれてありがとう!!」

「いいってことよ! でも坊主たち、鬼ヶ島だけはやめとけよ。前の頭首がいなくなって今は得体の知れない奴らが居るってんだ。触らぬ神にはなんとやらだぜ」

「あぁ、わかった。さんきゅーな」


 珍しくきちんと朔夜さんがお礼を言って、

 僕たちはおじさんと別れた。


「なれば龍馬の家に行ってみるかの」

「だな。船馬鹿か~」

「海沿いを歩いていけばいいんだよね?」


 おじさんが言うには

 海沿いを西に向かえばいいと言っていた。

 僕たちは街を出て海沿いを行くことにした。




──────────────────────

《海沿いの砂浜:桃太郎》





「海の砂ってすごいサラサラなんだね!」

「そうじゃのう。妖怪にはこの砂を投げる妖怪もおるぞ」

「えぇ? それって強いの??」

「目が見えなくなる。桃にもやってやろうか?」

「いや、やめて。ちょ! 朔夜さん!!」

「妖怪砂かけばばあだぞ~。がお~」

「がお~とはいわんじゃろ」


 初めて見る砂に多少浮かれながら、

 僕たちは海沿いを進む。


「それにしても、どこまで行っても水! 海って本当にすごいね」

「だがこの海にも果てはあるんだぞ桃」

「そこが異国?」

「そうじゃな。こっちの方面にはクインピアという国があるそうじゃ」

「大将軍って人が何かを頼んだっていう国? そもそも異国っていっぱいあるんだよね?」

「そうだな。聖剣に選ばれた者が国を治める『聖剣王国 バシレイア』。技巧カラクリを極めた近代国家『アトムポリス皇国』とかがあるらしい。私が行ってみたいのはこの世の美味いが全て集まると言われている美食国家『満漢帝国まんかんていこく』だなぁ~」

「また食べ物の話」

「他にも海賊国家だったり、連邦国だったり、無法領域というのもあるそうじゃ」


 ミコトグニだけでも広くてわくわくなのに、

 異国という国がいっぱいあるなんて。


 山の中しか知らなかった僕からすれば

 とんでもない話だ。


「いつか行ってみたいな、異国」

「だな~。満漢行きたいよな~」

「アトムポリスの技巧カラクリ武具を見てみたいのう」

「ついでに龍馬って奴に異国まで連れてってもらうか」

「船を用意しなきゃじゃがの~」

「そんなの天磐船あまのいわふね取り返したら余裕だろ!」

「勝手に使っていいの?」

「あれは一応頭首のモノだからな! 正式には今でも桃のだ!」

「まぁ、言えばワシらは今、取り返すための船を探しているのじゃがの」


 と、思い思いに話してた時のこと。

 遠くに大きな人影が三つ見えた。


「あれって!?」

「そうだな。ここからだと小鬼か中鬼かはわからんが」

「中鬼もあのサイズなの?」

「あのサイズでツノがあれば中鬼、なければ小鬼だ」

「ふーむ。あれは小鬼じゃな。ツノはないようじゃ」

「さすが視力マサイ族!」

「なんじゃそれ」

「ねぇ! 鬼たちが誰かを足蹴にしてない?」

「そのようじゃな」

「助けなきゃ!!」


 僕は走る。


「どうする朔夜」

「三人くらいならやれるだろう。いざというときは私が瞬脚で駆けつける」

「ふむ。任せよう」


 後ろで栗太郎たちが何か言ってたみたいだけど

 僕はそれに耳を傾けず走った。


 僕が戦ったことがあるのは一対一だけだ。

 多人数戦は模擬戦でも久しくやっていない。

 みんながいたころだからもう三~四年前くらいだ。


「でもそんなこと言ってられない!」


 だが、半分くらい走りすぎた頃、

 沖から小舟が近づいているのに気付いた。


 小舟には一人乗っている。


 走る。小舟は近づく。

 走る。小舟は近づく。


 そして小舟の方が早くついた。


 小舟から降りた人はフッと何かを振るい、

 あっという間に小鬼たちは消えてゆく。


 顔が見える距離にまで近づいた僕は、

 知ってる顔を見て驚いた。

 

 だって、そこに立っていたのは……。


「う、浦ちゃん!?」

「おぉー!! 桃ちゃんやないね! こげんとこでなんばしよっとー!」




 数年前まで山に一緒に暮らしていた幼馴染の一人。


 ちーむ五太郎の浦ちゃんこと

 浦島太郎だったのだから。




──────────────────────



読んでいただけてありがとうございます(˘•̥⧿•̥˘ )


ちーむ五太郎!!

名付け親は朔夜さんです(にっこり)


桃太郎、栗太郎、浦島太郎


さて、残りは誰でしょうか……。

ふへへへへへ


というわけで!

また次話にてお会いいたしましょう!!






 

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