第七話 少年よ、大志を抱け

天来港てんらいこう:朔夜》




「見て!! この家どうなってるの? 石!?」

「それはレンガというらしい。ほれぼれするのぅ」

「壁が白だし、屋根なんて青だよ青!!」

「そうじゃのう。空の色を写しているかのようじゃの~」


 私たちは天来港へとついた。

 件の商人とは入り口で別れを告げ、

 別行動をすることになった。


「今回のご恩は忘れませんぞ。いつかあずまに来ることがあればこれを。悪いようにはされませぬ」


 といわれて貰ったこのわけわからん手形。

 まぁ、これ見せたらたらふく食えるとか

 だったらいいなぁ……。


「朔夜さぁーん! 置いてくよ~!」

「おちつけ桃。新しい街に来たらやることがあるだろう!」

「そうなの?」

「あぁ。宿屋に行ってセーブだ」

「えと、なんて?」


 ちっ、これだから素人は……。


「いいか? この後、急なエンカウントで避けられないボス戦が始まるとする」

「ボス戦って何」

「大きい街で急に始まる戦いなんてのは碌なことがない。大抵が強い敵だ」

「ごめん、全然わかんないんだけど」

「そこで負けたら最後に眠ったところまで戻るんだぞ? お前最後に日記書いたのいつだ? 下手したらあの洞窟からやり直しだぞ?」

「栗太郎、どういうこと?」

「まぁワシはわからんことはないが……」

「桃みたいなのがゴールデンボールブリッジの謎の六人目にやられて目の前が真っ白になるんだ!」


 備えあれば憂いなし。

 私は間違っていない。


「とりあえずさ、どこ行くかをせーので言わない??」

「修学旅行の自由時間か!」

「じゃあ朔夜さんは言わないってことで」

「言う!!」


 そんなん一つしかないもん。


「「「せーの!」」」


「まずはご飯!」

「異国の武具を見に行くのじゃ!」

「港の船を見に行く?」


「「「えっ?」」」


「さっき飯は食べたじゃろう」

「ここ貿易ができないなら、異国の武器売ってないんじゃない??」

「船なんて一番奥じゃん! 最後に行けばいいだろ!!」

「そうじゃな。船は最後でいいじゃろう」

「その辺で何か色々あるし食べ物は買いながらで良くない?」

「武器なんかその辺歩いているやつの見れば十分だろ?」

「「「あーだこーだあーだこーだ」」」


 拉致があかないな……。

 こうなったらあれしかない!


「こうなったらアレで決めるぞ」

「アレか。望むところじゃな」

「アレだったら平等だしね!」


 私たちが揉めたときにするアレ。

 両拳を並べて突き出し、掛け声と共に

 上がった親指の数を当てに行くアレ!!!


「いくぞ?」

「かかってくるのじゃ」

「朔夜さんから時計回りね!」


「「「せーのっ──!!」」」





「船、船船、たーのしーみだー!」

「ご飯食べてからでいいじゃないかよー」


 わたしと栗は負けて、桃の案である船を見に行くことになった。


「ワシらは負けたのじゃ。文句を言うでない」

「ぶーぶー」

「そもそも手が四つしか残ってないのに自分はあげもせずに四! とか言う時点でお主の負けじゃ。一生勝つことはないじゃろう」


 まぁ、道すがら屋台とかいう露天商があったから

 その辺でいろいろな食べ物は買ったけどさ。


 桃もあんなこと言ってたくせに

 しっかり買ってやがった。


 しかもキビ団子。

 辰樹の作る奴が一番うまいのに買うか普通?


「見て! 港に着くよ!!」


 そんな中、

 桃の腹立つはしゃぎ声に反応して私は顔を上げた。


 そこには、何隻も連なる大きな船。


 そして、船と船の間から見える

 どこまでも広がる青い海。


「すげぇ……」

「雄大じゃなあ」

「海って本当にあったんだね!」


 思わず私も絶句してしまった。

 私は海は初めてではない。が、

 こんなに船が並ぶのを見るのは初めてだ。


「ねえねえ! どれか乗せてもらえないかな!」

「流石に無理だろ」

「そうじゃなぁ。難しいじゃろなぁ……。でもいつかは乗ることになるかもしれんのぅ」

「栗、なぜそう思う」

「辰夜次第では鬼ヶ島に向かうことになるじゃろう」

「鬼ヶ島?」


 そうか。桃は知らない。

 鬼が住む、鬼の本拠地。


 おそらく、今頭首を名乗っているやつだって

 鬼ヶ島にいるだろう。


「鬼ヶ島ってのは鬼の頭首が代々拠点にしてる島のことだ」

「まぁ、周りには特別な海流が流れていての。特別大きな船で行くか、満月の時だけ通れる道を通るしか行けない場所なのじゃ」

「鬼達はどうやってこっちにくるの?」

「それは代々鬼の頭首が受け継いでる天磐船あまのいわふねというものがあっての」

「あー、あれでっけー船だぞー。そうだなぁ、少なくともここに並んでる船よりデカい」

「そんなに!?」

「まぁ鬼が千人とか乗れる船だからなぁ」

「朔夜さん乗ったことあるの?」

「お前の父とかと乗ったなー」

「いーなー」


 まぁ、こそっと乗船したんだけどな。

 何回母に怒られたことか。


「そもそもその規模の船を運転できるものもそうそうおらんじゃろうしの」

「鬼ヶ島かー。じゃあ行くことになるんだろうなぁ」


 さらっと桃が言った。


「お前、正式な頭首になるつもりか? これはマジな質問だぞ」


 一応、私も六芒鬼だ。 

 こいつがやるって言うなら支えたい。

 桃は私の大切な家族だしな。


「うん、なるよ」


 思った以上に真剣な瞳で桃は言い切った。


「理由を聞いても良いかの?」

「まだ僕は全然世界を知らない。でも、父さんがやろうとしたことが間違いじゃないってことくらいはわかる」


 私たちは無言でうなづき、続きを待つ。


「ここに来るまでに商人さん達にあったでしょ? 朔夜さんがいなかったら、あの人たちは死んでいたんだ。食べる為に殺すならまだわかる。僕たちだって獣を殺して食べている。生きる為にどうしてもお金が必要で殺すのも……まだわかる」


 それは、本当にかろうじて

 わかるといった感じだった。


「でも……違うでしょ? 少なくとも商人に化けた人は最初の見た目は人間だった。だったら人間のように生きることもできるはずだよ。でも殺すほうが楽だから殺すことを選んだんだと思う。だから僕がそれを正す。殺さなくても一緒に生きていける道を示すんだ」


 実はそんな単純な話ではない。

 鬼がってのはある。


 でも、こいつにそれを言うのは多分まだ早い。

 まだその不条理さを知るには純粋すぎる。


 こいつが言っていることも

 間違ってるわけじゃない。


 栗がこっちをチラリとみた。

 多分、同じことを思っているんだろう。


「ワシらはお主の味方じゃよ、辰夜」

「あぁ、お前がやるってんならとことん付き合ってやろう」

「うん。僕はまだ弱いけど、強くなってこの国のみんなを守るんだ!」


 少年よ、大志を抱け。

 そんな言葉を聞いたことがある。


 誰しもが最初は何も知らずデカい夢を口にする。


 でも、現実を知り、自分を知り、

 叶わない夢だと諦める。


 いつか、それを知る日が来るかもしれない。

 だけど私たちがそれをわざわざ教える必要はない。


 可能性は誰にだってあるのだから。


「ふむ。それじゃあ次にやることは決まったのぅ?」

「なんだ、ご飯か?」

「それとも異国の武器??」

「違うわい。……操舵手じゃ。鬼ヶ島へいける者を探しておくのじゃ。次の街からは内陸。探すのなら今のうちじゃぞ」

「なるほど!」

「まぁ〜、そうだな。あずまあずまで探せばいいしな」

「んむ、なればいこうかの。まずはこの辺りで聞き込みでも始めるとしよう」

「わかった! ありがとう栗太郎! そして朔夜さんも!!」


 これから先、どんな奴が仲間になるかはわからん。

 みんながみんな桃の気持ちを汲むとは限らんし、

 裏切る奴もいるかもしれん。

 

 でも、私と栗さえいればなんとかなる。

 それに、あいつらがどこにいるかはわからんが、

 どこかであったら絶対に力になるはずだ。


 ……案外こんなことを言ってたらすぐ会いそうだ。

 何だか寒気がした。


「あれ? 朔夜さんちょっと震えてたけど大丈夫?」

「珍しく風邪でもひいたのかの?」

「わかった! お腹空いたんだ!!」

「朔夜にしては我慢しておるしの」


 違うけど。

 でも、まぁ!


「お腹空いた!」

「じゃあまずご飯行こっか!」

「じゃの!」


 あらゆる問題よかかってこい!

 私が相手だ!!




 だが、ご飯の後な!





──────────────────────



読んでいただけてありがとうございます(˘•̥⧿•̥˘ )


朔夜さん、すぐメタ発言するんだから←


ちなみに私は子供の頃、

レベルを上げずにぎりぎりの戦いをしまくっていたので

強制エンカウント系の敵出ると大体負けます。

そうして大人になっていったのでした。

朔夜、オデ、気持チワカル。


では、次話にてお会いいたしましょう!



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