第六話 兎にも角にも
《天草街道:桃太郎》
ゆっくり、ゆっくりと。
それは朔夜さんの胸を貫いた。
はずだった。
貫かれたはずの朔夜さんの姿が一瞬で消える。
気づけばコマ送りの世界が普通に戻っていた。
ビュオンという風が、僕を、商人たちを、
サッと撫でていった。
ツノがある商人は「チッ」と舌打ちをする。
その刹那や、否や。
ツノがある商人の頭は吹き飛んだ。
そして、そのすぐ後ろで
八具仙を鞘に納める朔夜さんの後ろ姿が見えた。
僕は言葉が出ない。
あまりの出来事に
他の商人も叫び声をあげるまで数秒がかかった。
「なっなっ、何をされているんですかな!?」
「やはりあなたも鬼の仲間だったというわけですね!! 卑怯な真似を!!」
商人たちは武器を構え朔夜さんに向ける。
「はぁ。こいつの頭をよく見てみろ死亡フラグ職人」
そう言って朔夜さんは
今殺したばかりの商人の頭を蹴り転がす。
「ツ、ツノ!?」
「そんな! じゃあ、私たちは初めから!?」
「そういうことだろうな。お前達さっき『最近鬼が出ないと聞いた』と言ったが、コイツに言われたんじゃないのか?」
「そういえば……確かに!」
「それがコイツが描いたシナリオだったんだろう。商人を集め共に行動し、路面で部下の鬼に襲わせる。大鬼や中鬼は人間を食えるし、コイツは金が手に入る。鬼が人間に紛れて暮らすには金があった方が手っ取り早いからな」
商人たちは震えていた。
もし、一緒にいた人が実は、
自分たちを殺すために行動をしていると知ったら
誰だって驚くだろう。無理もないはずだ。
さっきまで僕も普通の商人だと思っていた。
普通の人間だと。
もはや、人間かどうかなんて
考えてすらいなかった。
……ん?
「どうして、朔夜さんはこの人が鬼だとわかったの?」
「あぁ。さっき桃はウサギさんなんて雑魚だって言ってたが」
「雑魚とは言ってないけど!」
朔夜さんは根に持ちやすい性格だ。
「ウサギさんの視野はほぼ全方位だ。こいつが私を刺そうとしたのも、桃がおろおろしていたのも全部見えていた。桃が心配してる姿は面白かったぞ」
「むっ! 本気で心配したんだよ!!」
「ふふふ、わかってるわかってる。でも言ってるだろ? 私は最強だぞ」
「ふんっ!」
本当に朔夜さんが殺されるって思ったのに!!
僕の頭を乱暴に撫でる朔夜さんの手を払った。
「それにしても急に消えた時はびっくりしましたよ」
「ですなぁ。気づいたら消えて、気づいたらこやつの首が飛んでいて。何が何やらでしたな」
「確かに! あれはどうしてなの?」
商人たちの言葉に僕は強くうなづいた。
「それこそウサギさんパワーその二だ。ウサギさんの脚力は一瞬で最高速に乗る。私はこれを『瞬脚』と名付けた! かっこいいだろ!!」
そう言って一瞬で遠くへと移動し、
ジグザグに瞬間移動を繰り返して戻ってきた。
「いいか? この技は『瞬身の術』『瞬歩』『縮地』に並ぶと私は思っている。今、特許出願中だ!」
「よくわからないけれどやめた方がいいよ」
朔夜さんのよくわからない知識は
本当によくわからない。
ただただ言わないで欲しい。なんとなく怖い。
「兎にも角にも、貴方は私たちの命の恩人です! 出来ることがあれば何でもおっしゃってください!」
「ウサギと鬼だけにってか」
「朔夜さんうるさい」
「桃いつまでいじけてるんだ~」
「ふん」
確かに朔夜さんにも少しムッとしたところはある。
だけど、もし朔夜さんが強くなかったら、
僕には何もできていなかった。
殺されるのを、ただ見てるだけだった。
僕に出来たのはただ名前を叫ぶことだけ。
僕は自分がいかに何もできないかを
思い知らされた気がする。
これで朔夜さんに怒りをぶつけるのは
ずるいかもしれないけど。
でも、素直になれなかった。
ただただ、悔しかった。
────────────────────────
《天草街道:朔夜》
大鬼と中鬼をはじめ、超鬼まで倒した私たちは、
牛車で天来港まで送ってもらえることになった。
何かあったら私たちから守ってもらえるわけだし、
俗にいうウィンウィンって奴だ。
「おーい、栗太郎~!」
「なんじゃその牛車は!? それより帰ってくるの遅かったのう。もう準備は出来ておるぞ」
そう言って栗が指すのは小屋。
「待て栗。お前なんで小屋建ててるんだ」
「何があるかわからんからの。朔夜が見張りやすいよう屋根の上には椅子と大きな傘も用意しておるぞ」
栗は小屋の横の大きな取っ手をギコギコと回す。
すると、屋根の下から椅子と日傘が出てきた。
「な、なんと!」
「このような技術を、このような子供が!?」
商人たちも驚き散らかしている。
なんだよ栗、お前設営マスターかよ。
小屋どうやって建てたんだよって
ツッコミどころの騒ぎじゃない。
「さっ、ゆうげにするとしようかの。お主ら食材は?」
「あ、えーっとそれなんだけど……」
鬼から守った礼で、天来港まで
送ってもらえることになったことを伝える。
「なんじゃ。じゃあこの小屋はもういらんのう……」
しょんぼりする栗。
いや、本当すごいんだけどなぁ……。
ちなみに商人たちは
内装をみてさらに震え上がっていた。
二人の商人が自分が買うと言い合いを重ねる。
どうやら私たちの路銀は
思わぬところから増えることになった。
街道沿いの民宿として使えるらしい。
土地代どうするつもりなんだろうなぁ……。
勝手に立てたんだぞ、この小屋。
まぁいっか。知ーらないっ!
天来港へと向かう牛車の中で私たちは
色々な噂話を商人から聞いていた。
「と言う訳でしてね。今年の闘技大会も近いこの時期に、異国からの使者も来るとか来ないとか。今西側は激アツという訳ですぞ!!」
「ほ〜ん? 私も今年から成人の部に出れるしなぁ。闘技大会出るしかないなぁ!」
「闘技大会? 昔、朔夜さんが優勝したってやつ?」
「そうだ。十八歳未満の少年の部で優勝したんだ。草間町に源家の
「なに、牛若じゃと?」
「あぁ、そうだ。あいつのせいで一回優勝逃したからな。今の私じゃ余裕だろうが、あいつはまぁまぁすごいぞ」
「朔夜さんが人を褒めるなんて珍しい。その人すごいんだね!」
「そこそこまあまあだ!!」
でも実際、あいつと戦うとなると
どっちが勝つかはわからん。
あいつも今年から成人の部に出れるし
絶対出てくるだろう。
くー! 楽しみで仕方がない!!
そんなことを考えていたら、
桃が商人達に声をかける。
「あのー! 異国の人が来るかもってのはどういう話なんですか?」
「それがまだ噂レベルでしてねぇ」
「眉唾物じゃねぇか」
「むっ! 商人の情報網を侮ってはなりませんぞ!」
「でも確たる話は持ってないんだろう?」
「むぅ……。しかし! 確証高い話が一つ」
「言ってみろ」
「ここだけの話ですぞ。実は今回の異国の使者は、大将軍殿が直々に、異国の一つ『クインピア』に何かを持ちかけ、その答えを使者が持ってきているとの話です」
なんだと?
「これは信用できる情報筋から得た話です」
「この国は鎖国中だろう?」
「え、朔夜さん鎖国って何?」
「そりゃーあれだよ。国が仲が悪くて……」
正直な話、知らん。
異国なんてやーだよ!
みたいな感じじゃないのか?
「簡単に言えば、国と国の外交を断つことじゃ。極力貿易も断ち、異国の技術を取り入れぬ代わりにこちらの技術も流れぬ。正直な話、ミコトグニは鬼のことで手いっぱいじゃからな。異国との付き合いにまで気は回せんという訳じゃ」
「そうです。それなのに大将軍である信長殿は『何かを持ちかけた』と。時代が動くときは大きな商機ですからね! 真相を確かめる為に私は天来港まで見に行くという訳ですぞ」
栗の答えに乗りこっちに来た理由を話す商人。
草間町の闘技大会に異国の使者。
面白そうなことがいっぱいだな……。
とはいえ、さっきのように
平気で超鬼が人に混じってたりもする。
油断はできない。
桃はまだ未熟だし、何より素直すぎる。
私と栗で目を光らせて
こいつを守ってやらなきゃいかん。
兎にも角にもまずは天来港!
私も初めてだし、まずは異国のご飯だ!!
──────────────────────
読んでいただけてありがとうございます(˘•̥⧿•̥˘ )
朔夜さん無事でよかったね!!
さてさてサラッと出てきた新キャラフラグ。
牛若 と言えば あの人 ですよね??
ミトクロは基本、偉人や童話、神話など
様々な所から名前や設定を貰っていて、
全部とは言いませんが元の話を参考に
話を作っていたりします!
名前に注目すると色々先読みできるかもです~!
全部とは言いませんが!!(二回目)
では、また次話にてお会いいたしましょう!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます