第四話 初めての世界

《近辺の平原:桃太郎》




「すっごい! 本当に全然木がないよ!!」

「やめろよ! 田舎者だってバレるだろ! 私は外ではシティっ子で売ってるんだぞ!」

「何のためにじゃ」

「だって恥ずいじゃん!」

「みて栗太郎! あっちどこまでいっても原っぱだよ!」

「そうじゃのぅ。辰夜たつや、寝転んでみるといい。空がまんまるじゃ」

「本当だ!! すごすぎる!!」

「お前ら地面に寝転がるなよ子供じゃあるまいし!!」

「僕らは子供だよ?」

「ワシらは子供じゃな」

「うっせ! なら私も子供だ! 十八だもん!」

「「もん」」

「うっせ!」


 僕たちは今、初めての山を降りた。

 

 とは言っても朔夜さんだけは、

 何回か出てるから僕たちの中では一番外に詳しい。



 今まで僕の中で

 ミコトグニと言うこの国の全ては

 僕らの過ごしていた山の中だけだった。


 だけど、これからは本当のミコトグニを見て回る。

 それが何よりの楽しみだ。


「ねぇねぇ朔夜さん! もう一回この国の街のこと教えて!」

「七大都市のことか? もう三回目だぞ〜」

「お願い!!」

「仕方がないな〜。渋々な!!」


 朔夜さんは頼られると弱いのだ。


「いいか〜、耳の穴ぽっかじってよく聞くんだぞ?」

「かっぽじるじゃ」

「うっせ!! とりあえず西からいくぞ?」



 外交都市『天来港てんらいこう

  唯一、異国からの上陸が許されている

  この国の最西の街だ。

  異国文化が漂う街並みが有名だな。

  異国飯がうまい。


 集落都市『草間町くさまちょう

  七大都市で一番人が住んでいて

  祭りとかも賑わってる。

  源家という大地主が居て闘技大会が有名だ。

  私ここで優勝した!


 神仏都市『殿宮院でんぐういん

  仏教や神道が盛んな街で

  国中からお偉いさんとかが毎年のように

  神頼みに来てたりする。

  和菓子がうまいらしい。


 中央都市『京莱きょうらい

  ミコトグニの首都だ!

  将軍がいる城があって街もでかい!

  国中の美味いものも集まるからまた行きたい!

  住みたい!!


 剣豪都市『龍ヶ嶺りゅうがみね

  剣術はもちろん、槍術、弓術など

  数々の道場がひしめく梁山泊。

  うまいものはないだろうけど

  強くなるならここだ!


 遊郭都市『雲晴街うんせいがい

  侠客が仕切る大人の街だ。桃にはまだ早い。

  うまいものも多分ない。絶対スルー案件だ。

  

 商売都市『あずま

  こっちはこっちで唯一貿易が許されてる港町だ。

  商人が多い都合上、傭兵の数も多い。

  ここで稼いで美味いもの食べよ!



「と、まぁこんな感じだ。後はそれらを結ぶ六つの大きな街道の間にちょこちょこと村があって……離れにも小さな村とかあるな。それがこの国『ミコトグニ』ってわけだ。どぅーゆーあんだすたーん?」

「ほとんど食べ物の話じゃったの」

「僕は龍ヶ嶺に行ってみたい!」

「奇遇じゃの。龍ヶ嶺りゅうがみねともあればいろんな武具がありそうじゃ。見たいのぅ……」


 出た! 栗太郎の武具マニア。

 栗太郎は武具のこととなると目がない。

 

 朔夜さんの持つ愛刀、

 『八具仙はちぐせん』について話し出した時、

 持ち主である朔夜さんがギブアップするレベルだ。


「辰夜はなぜ龍ヶ嶺りゅうがみねに行きたいのじゃ?」

「……僕、朔夜さんが倒れた時、何もできなかったんだ。その時、とっても悔しかった。六芒鬼ろくぼうきが揃った時、守りたいと思えるだけじゃダメなんだ。守れないと。だから僕は強くなりたい」

「そうじゃの。……良い心がけじゃ」


 栗太郎は懐かしいものを見る目で僕を見た。

 すごく嬉しそうな顔だ。


「なら、私との修行の時間を増やさなきゃだな桃!!」

「それは勘弁してください」

「なんでだ。言ってたことと違うじゃないか」

「朔夜さんのは修行じゃなくて朔夜さんのおもちゃになるだけじゃん」

「そうじゃの」

「うっせ!!」


 朔夜さんはむくれる。


「とりあえず、龍ヶ嶺に向かうとするかの~」

「ちなみに今どの辺りなの?」

「この辺りは天来港てんらいこうよりの天草街道あまくさかいどうの近くじゃな」

「天草街道?」

「左様。先ほど朔夜が言ってた六つの街道の一つじゃ。天来港てんらいこう草間町くさまちょうを結ぶ街道だから、初めの一文字である『天』と『草』を取って『天草街道あまくさかいどう』と呼ばれておる」

「へぇ~! じゃあ、今僕たちはミコトグニの西側にいるってこと?」

「そういうことになるのぅ」

「じゃあ、天来港てんらいこうに行きたい! せっかくだから西から全部の街を見てみたいよ」

「天来港には異国のうまい飯もあるしな!」


 むくれていた朔夜さんはご飯の話で復帰した。

 異国の武器も見れるしのぅ。

 という栗太郎の独り言は聞いてないふりをする。


「というわけでまずは天来港だ!」

「やった!」

「んむ。よかろう」


 僕たちは、満場一致で

 天来港を目指すことに決まる。

 

 まずは、天草街道を目指し、

 僕たちの旅は始まることになった。






 出発をして一刻が経つ頃。

 僕たちは奇妙な者に遭遇した。


「ふむ」

「おぉ~、あらわれたか~」

「えっ、何あれ……」


 身の丈八尺(約240cm)を超える筋骨隆々な風貌。

 目は切れ上がっており黒目がない。


「もしかしてあれが……?」

「そうだ。あれが鬼だ」

「でも、般若って人も僕たちを眠らせた人もあんなじゃなかったよ? そういえば、この鬼にもあの人たちにもツノがなかったけど……」

「ツノがあるから鬼ってわけじゃない。ちなみに六芒鬼は別に鬼じゃなくてもなれる。お前の父の六芒鬼だって鬼だったのは、私の母含めて三人だけだぞ」

「それに鬼にもいろいろ階級があるのじゃ。あれは一番下の階級『小鬼こおに』じゃ」

「あんなおっきいのに小鬼なの!?」

「マスタング大佐よりアームストロング少佐の方が大きいだろ? そういうことだ」

「どういうこと? その人たち誰?」

「国家錬金術師だ」

「その話はおいておけ。辰夜、あれを一人で相手してくるのじゃ」

「ええっ!?」

「そうだな! いい機会だ。小鬼は一番弱いからな。少し武道をかじっていれば一対一なら負けんだろう。ほれ」


 朔夜さんに背中を押され、

 いや、突き飛ばされて僕は小鬼の前に躍り出る。


 大きい。

 見上げるほどの大きさである。

 僕の身長は五尺(約150cm)とちょっと。

 つまり背丈で見れば僕の五割増し以上だ。

 これで弱いとか絶対に嘘だ。

 

「いいか桃~。小鬼は筋力や大きさに目が行きがちだが、ただの脳筋パワー馬鹿だ。落ち着いて戦えば問題ないぞ〜」

「それ本当!? 信じて大丈夫?」

「ほんとほんと~。後ろもう来てるから気を付けろよ~」 


 間の抜けた注意喚起に僕は振り返る。


 小鬼は僕に向かって腕を振り上げて、

 その強大な拳を振り下ろすところだった。


 ブォンと音を立てて振り下ろされた腕は、

 ゴォンというけたたましい音を立てて地面を砕く。


「全然弱そうに見えないんだけど!!」


 遠くで「がんばれ~ 」と

 無責任な応援が聞こえている。

 本気であの二人は戦う気がないようだ。

 僕一人でどうにかしなきゃいけない。


 まだよくわかってないけれど、僕は鬼の頭首。


 二人が言うように小鬼が一番弱いのなら、

 ここで勝てなきゃ話にならない。


 僕は木剣を正眼に構える。

 鬼も立ち上がり僕を正面に捉えた。


 一歩、二歩と踏み込んでくる小鬼。


 先ほどの不意を打つ攻撃は

 確かに避けれる速度ではあった。


 小鬼は右腕を振り上げる。

 さっきと一緒、ワンパターンのようだ。


 僕は降りかかる右腕と同時に右足を踏み出した。


 くぐるようにしてかわした腕の下を回転するように

 自分の左足を相手の右足の側面につける。


 そして、遠心力と身体の回転力を合わせ、

 思い切り腹部を木剣で打ち付けた。


 うめき声をあげてうずくまる小鬼。

 僕はその小鬼のひざと肩を足場にして

 高く飛び上がった。


 うずくまった鬼の頭部を守るものは何もない。

 僕はその後頭部をめがけて木剣を打ち下ろした。


 グゴォォォォォ。と声を上げて小鬼は倒れこむ。

 ……僕の勝ちだ。


「見事じゃったな」


 栗太郎が興奮冷めやらない僕の肩を

 ポンポンと叩いてほめてくれた。


 朔夜さんの方を見ると、

 とどめを刺すために小鬼の首を

 切り離しているところだった。


 首を斬られた小鬼は血を流すこともなく、

 光の塵となり空へと昇って行った。


「えっ、どうして消えたの……?」

「詳しいことはわかっておらん」

「どういうこと?」


 僕の疑問を朔夜さんが引き取る。


「『鬼』というのは大鬼までは死んでもこの世に残らない。今見たように塵となるように消える。私や桃のように大鬼を超えた鬼だけが死んだときにこの世に残るんだ」

「鬼ってなんなんだろうね」

「わからぬのう。殆どの妖怪たちも死ぬときは塵になると言うしの~」


 

 僕たち『鬼』の正体は誰にも

 わかっていないらしい。


 人にして人にあらず。

 だからこそ鬼は気味悪がられる。


 鬼たちは『力』をふるうことで

 自分たちの存在を証明しようと

 暴れだしたのかもしれない。と栗太郎は言う。



 そして、自覚はないけれど、

 僕もその『鬼』なんだ。

 


 僕はまだ何も知らない。わからない。

 この旅を通して僕はもっと鬼について知りたいと

 そう強く思った瞬間だった。





──────────────────────


読んでいただけてありがとうございます!(˘•̥⧿•̥˘ )


余談ですが、桃太郎くんはそこそこ頭いいです。

山の中は娯楽がないので考えることが多いのでしょう!(多分)


なのに朔夜さんは頭が悪いです。

ご飯のことばかり考えてます。。。

黒髪美少女(仮)で良かったなと思います。わら


初めての鬼を倒した桃太郎くん!

次回はどんな話になるのでしょうか~


また次話にてお会いいたしましょう!!








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る