第二話 六芒鬼
《桃太郎の家》
桃太郎の家から。
いや、家だったモノから黒煙が上がっていた。
その中には、三つの人影。
「挨拶も無しにこの仕打ち。あんまりではございませんこと?」
人影の一つがそう言った。
輝くように美しく、透き通るような
燃えるように情熱的で、妖艶な紅き目と唇。
陶器を思わせるような、病的なほど白く滑らかな肌の女性だ。
「そうかそうか。それはすまんことをしたのう。いや、儂もべっぴんさん相手にこんなことはしたくないのじゃがな?」
悪びれもなく老人の男は言う。
「あなた?」
「ほら、儂には女房もおるしの!」
睨む老婆に応えるかのように老人は続けた。
「まぁ、良いですわ」
女性の身体を見るに傷ひとつできていない。
それだけではなく、土埃すらついていなかった。
それは、老夫婦たちも同様ではあったが。
「ならよかったわい。で、こんなところに何用じゃ? 見ての通りで、ここにはしがない老夫婦しかおらんでの」
「本当にあなた方だけですの? それにしては家の規模が大きいように見えますわ」
「前は息子や孫がいたからのう。みんな巣立ってしまって寂しい思いをしておるよ」
「ふふふ、それは寂しいかぎりですわね」
表面上のやり取りだ。
この山には結界が貼られている。
それを破って入った者。
そして、こんな辺境の山で
結界を張って過ごすということ。
会うや否や攻撃を加えてきたということ。
互いが只者ではないことを理解している。
「わたくし達は人を探しておりますの」
わたくし達という言葉に老婆は少し反応を示した。
「そう焦らなくても大丈夫ですわ?
「あなた、わたしたちのこと……。狙いはなんです?」
「ふふふ。わかっているでしょうに白々しいですわね」
老夫婦に冷や汗が流れる。
桃太郎達は三人とも山の中。
この口ぶりだけだと
相手が何人いるのかはわからない。
わからないが複数人であることは確実である。
そして、二人は気づいている。
おそらく相手の狙いは……。
「単刀直入に申し上げますわ。
「あの子に手は出させません!!」
今の今まで組み込んでいた術式を発動させた。
それは瞬時に女性の足元へ浮かび上がり、
足を地へと拘束させて身体を蝕み拘束していく。
「べっぴんさんを殺さねばならぬのは残念じゃのう!!」
老人は右手を前に突き出し、
その掌から大きな火炎弾が放たれた。
火炎弾は進むにつれ大きくなり、
やがて、女性の身の丈三倍ほどとなり
その身を焼き尽くそうとその身をぶつける。
それだけではない。
老人が続けて地面を踏み込むと、
けして軽度とは言えぬ地震が一瞬響いた。
地面は大きな口を開けたかのようにせりあがり
女性に噛みつくかのように土が叩き挟んだ。
圧倒的な熱量を帯びた火炎弾は
身を焼き尽くしただろう。
圧倒的な質量で挟み込まれた身体は
原型を残していないだろう。
せり上がった墓標のような土の塊が、
存在感を示すようにそこに残っている。
大量に染み出る血と共に。
「終わったようじゃの」
「あの子達を早く助けにいかないと」
「そうじゃの! 手分けして探すぞ」
「わかりました」
そう言って、二人は別れて別々の方へと走り出す。
老人が土の墓標の側を駆け抜けようとし、
流れる血を踏んだその時だった。
墓標の中から大きな赤黒い棘が無数に突き出され、
そのうちのいくつかが老人の身体を貫く。
「ぐあっ!!」
急いで踵を返した。
「あなた!!!」
駆け寄った
みるみると傷口が塞がっていく。
「へへ、油断したわい」
「まったく。いつもそうなんですから」
無数の穴が空いた墓標は崩れるように割れ、
中から女性が出てくる。
やはり、傷も汚れすらもない。
「身体に触れた後で。それでも身体を捻り急所をずらすなんて……素敵ですわ? 流石、
女性は称賛するかのようにパチパチと拍手をした。
「こりゃぁ随分と厄介な者が来たものじゃわい」
「申し遅れましたわ。私は
「六芒鬼か、笑わせおる。勝手に名乗っておるだけじゃろう」
「ええ。ですから
「あの子には指一本触れさせませんよ」
「その通り! あの子は争いのない平和な世界で暮らすのじゃ!!」
全身に血管が浮かんだ。
のたうち回るようにうごめく血管。
やがて二人の頭部からは一対のツノが生えてくる。
身体中が茶色の毛で埋め尽くされていく。
かたや、
足がそれぞれ四つに分かれていく。
「……これは一人では荷が勝ちすぎますわね」
曇り空は雨空へと変わる。
「オヤオヤ、良かったら力をオ貸シしましょうカ?」
狂気、合流す。
────────────────────────
《近辺の山:桃太郎》
はぁ、はぁ、はぁ……。
僕は一人、家へと走り続けた。
朔夜さんは獲物を探してたはずだから
どこにいるのか場所がわからない。
栗太郎は川にいるだろうけど、
川までは少し遠い上に、
上流か下流かもわからない。
みんなあの音を聞いて家に向かってると信じて。
僕は合流するよりも帰ることを選んだ。
……じっちゃんやばっちゃんは無事だろうか。
じっちゃんは薪割りをするだけで腰を痛めるし、
ばっちゃんなんか運動すらできない多分。
なんの爆音かはわからないけれど
絶対無事じゃすまない。
「僕が。僕が守ってみせる」
無我夢中で走り続ける。僕の中の最高速だ。
ここらの地形は僕たちの庭みたいなモノだ。
目を瞑ってたって走ることができる。
いや、それは言い過ぎかもだけれど。
だからこそ、僕は夢中で気づかなかった。
「待て!!」
僕の手を掴むその存在に。
とっさ、僕は相手の手を引くようにして
そのまま掌底を相手の鳩尾に入れた後、
しゃがみ込んで相手に足払いを仕掛けた。
相手はサッと跳ねてかわした後、
僕にげんこつをする。
……げんこつ?
「このばか! 私だ!! すっとこ桃!!」
「あっ、朔夜さん!? ごめんなさい!! さっき変な人にでくわしたばかりだったから」
「ほほう。ならば褒めてやる! 悪くない初手だったぞ。修行の成果だな!!」
「朔夜さん全然効いてないけどね……」
「当たり前だ、私は最強だぞ?」
「ってこんなことしてる場合じゃないよ! 爆発音聞いたでしょ?」
「あぁ、だからにげるぞ」
「何言ってるの!? じっちゃんとばっちゃんが危ないんだよ!」
「あいつらは覚悟の上だ」
「覚悟? なんの話!?」
「時間がない。後で説明するから行くぞ」
「今説明してよ!」
「お前が捕まったら意味がないんだ」
「僕が?」
朔夜さんのいう言葉の意味がわからなくて、
狼狽えている時のことだった。
「まぁ、そう急くな。
僕たちは同時に振り返る。
そこには見知らぬ男が立っていた。
外套で隠していて顔はわからない。
「余の質問に答えよ。貴様らの名はなんだ?」
「人に名を尋ねるときはまず自分が名乗るものだぞ」
「ふむ、生意気な小娘め。まぁ良い。余の名は」
「私は朔夜だ!! よぉく覚えとけ!!」
「朔夜さん、それはあんまりだよ」
両手を腰に手を当て謎のドヤ顔。
よく見る朔夜さんのポーズだ。
「……朔夜。ならばそっちの
「えっ、僕は桃太」
「チェストォォォ!!!」
謎の奇声をあげて朔夜さんは斬りかかる。
木刀じゃない。朔夜さん愛刀の
「貴様に用はない。寝てろ」
そう言って男は朔夜さんの眼前に掌を差し出す。
その瞬間、朔夜さんがふらつく。
「ほう、貴様も
「お前、何言って……」
「落ちろ。
フッと足場が崩れたかのように朔夜さんは倒れる。
「さて、
「朔夜さんに何をしたの!!」
「少し黙らせただけだ。命に別状はない」
「朔夜さんを元に戻せ!!」
僕は男に斬りかかる。
朔夜さんがああも一方的にやられたんだ。
模擬戦で朔夜さんに一度も勝てたことない僕が
勝てるはずなんて絶対ない。
だけど、勝手に身体が動く。
「面倒だ。貴様も落ちるといい」
剣線を軽くずらされて、僕は首を掴まれた。
眼前に映るは男の眼。
「
男の目が緑に光る。
遠くなっていく。男の顔が、意識が、全てが遠く。
あぁ、ちくしょう。
もっと、強くなっておけばよかった。
ちゃんと、今まで朔夜さん達と模擬戦をすれば。
そうしたら
深く。
深く。
深く。
僕の意識が落ちていった。
──────────────────────
読んでいただけてありがとうございます!
必要とされてないかもですが
毎回ここに何か書いていこうと思います。
平和な暮らしから急転直下、
大変なことになってる桃太郎くん。
果たして、どうなってしまうのであろうか(CV.界王さま)
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