📕ミトスクロニクル📕 ~桃太郎は鬼の頭首になる為、鬼ヶ島へ向かう。お供になったのは双子のエルフと白雪姫やロミオ達でした!?~
胤永 大樹
第一章 悪鬼退治編
第一話 オワリノハジマリ
《???》
揺れる身体。
頬に当たる雫、誰かの吐息。
視界は不明瞭。
モヤモヤとしていて何もわからない。
わかっているのは、
誰かが僕を抱えて雨の中走っているということ。
あぁ、またこの夢か。
僕は何度もこの夢を見ている。
もう数えきれないくらいに。
僕を抱えている人が誰かも。
なぜ走っているのかも。
僕には何もわからない。
でもこの夢は嫌いじゃないんだ。
なんだかとても、とても落ち着くから
あぁ、今日もあったかいなぁ──
───────────────────────
《近くの森》
「どうした、そんなものか?」
手に木刀を持つ、長い黒髪の少女は言った。
すらりと成長した身体、しなやかな肢体。
大人びた表情だが、あどけなさが少し残る。
おそらく十代後半といったところだろうか。
……少し胸部がさみしい気がするが。
私はナレーターなのに少女に睨まれた気がした。
さておき、今彼女は誰かと戦っているようだ。
相手の少年は十歳を少し超えたくらいだろう。
少女と同じ木刀なのだが、
少年の身体は小さい分、
少女のそれに比べるといささか身に余る。
男の子とはいえ公平とは言えない戦いのようだ。
「はぁ、はぁ……。ちょっとは手加減してよ
「何を言っている。私が本気を出していたらお前なんか立っていられないぞ? けちょんけちょんだぞ?」
「もう十分倒れたい気持ちでいっぱいだよ!!」
「ふっ、そんなに大きな声出せるのならばまだ大丈夫だな」
「食らうといい。
突きだす動作をとる。
いや、とったのだろう。
気づいた時には木刀の切っ先は
少年が構えている木刀の中心を正確にとらえ、
その持ち主ごと、大きく突き飛ばしていた。
声もなく飛ばされる少年。
正確には「ぐっ」といったような
声にならない音は出ていたが。
数メートル先まで飛び、
地面に背中を削られ、やがて……止まる。
「はっはっは。相変わらず弱いな桃」
字に起こせば豪快な物言いだが、
その声は淡々とした言い方だ。
対する桃と呼ばれた少年はせき込んでいる。
さて、紹介が少し遅れたが、
この少年は今、『桃太郎』と呼ばれている。
タイトルで大方予想がつくだろうが主人公である。
「そして、美少女の私がメインヒロインだ!」
……ナレーションに参加しないでいただきたい。
「ふむ。急にお主は何を言い出しておる」
木の上から声変わりのすんでいない声が聞こえた。
目を向ければそこには肩まで伸びる白髪、
吸い込まれるような灼眼、褐色肌の少年がいた。
古風なしゃべり方だが、
見た目から桃太郎と歳は変わらないように見える。
「ケホッケホッ……。栗太郎、
桃太郎はせき込みながら起き上がろうとする。
古風少年こと栗太郎は、
木から飛び降りて桃太郎に手を貸した。
「立ち上がれるか?」
「正直もうしんどい……」
「ふっ、今日もつまらぬものを切ってしまった」
「突きじゃったがの」
栗太郎のツッコミは聞こえてないかの如く、
朔夜はどや顔で立ち栗太郎へと啖呵を切る。
「じゃあ次は栗の番な。 今日こそギャフンと言わせてやる」
「ふむ、ぎゃふん。これで良いかの?」
「ぐぬぬ。余裕ぶりやがって」
桃太郎は背中の土を払いながら
近くの木へと歩き、腰を下ろした。
「ふむ。では始めるかの」
「あっという間に倒してやるからな」
二人は構え、空気が変わる。
どちらも動かない。
「動かない。いや、動けないのさっ」
ありきたりなセリフを吐きながら朔夜は動いた。
木刀を上段に構える。これは袈裟切りだろうか。
「自分で言うものではないのじゃがなぁ」
栗太郎は半ば呆れながら、
「
一太刀、二太刀。そして三つ四つと。
振るう木刀の速度は徐々に増していく。
「ふむ、一太刀ごとに速度が増す技、いつ見ても見事」
そういって栗太郎は涼しい顔で木刀を合わせる。
無数の剣閃はどれも軽やかにいなされ、
その剣先は栗太郎に触れることが叶わない。
「ぐぬぬぬ。これならどうだ。
朔夜は最後に振るった強めの一太刀を引くと共に
大きく後ろへと飛んで下がった。
そして再度、栗太郎へと踏み込んで……、
流れるような無数の突きを繰り出した。
迫りくる突きに落ち着いた表情で迎える栗太郎。
そして……。
「木刀の数が増えたわけでもあるまい」
強烈な一撃を
叩き払うようにぶつける。
木剣は横にはじけ飛び、
朔夜の首元に栗太郎の剣先が添えられた。
栗太郎は汗をかくどころか、
息一つあげていないようだ。
「終いじゃの。そろそろゆうげの準備でも始めるか」
「終わりじゃない! まだ負けてない!!」
負けを認めない
栗太郎は近くに置いてあった荷物を持ち上げる。
「いつも通り、ワシは魚を引っかけてくる。二人とも頼んだぞ」
「うん! じゃあ僕は今日も山菜をとってくるね」
「んむ」
栗太郎の返事を受け取った桃太郎は、
鼻歌交じりで森へと進む栗太郎を見届けて
不貞腐れている朔夜へと声をかけた。
「えーと、朔夜さんは今日も狩猟でいいんだよね?」
「ふん。栗よりいっぱい取ってくれば引き分けだからな!」
「そういう問題じゃないと思うけど」
頬を膨らませてすねる朔夜を見て桃太郎は微笑む。
「桃も勝負だからな! 負けた奴は相手に今夜の食べ物をあげること。勝敗は重さ! ハイ決定!」
そういって朔夜は意気揚々とかけていく。
「えぇ・・・。山菜って不利じゃん・・・・・・」
勿論、その言葉は誰にも届かなかった。
───────────────────────
《近くの森:桃太郎》
「にしても本当に栗太郎って強いよなぁ。朔夜さんもあんなに強いのに」
僕は先ほどの戦いの余韻に浸っていた。
朔夜さんの攻撃は僕だったらどれも止めれない。
朔夜さんが使う『
朔夜さんのお母さんが完成させた剣術であり、
あらゆる場面を想定して作られた流派らしい。
でも、栗太郎には全然通用しなかった。
もっとも、朔夜さん曰く
「私が完全に習得できてないからだ」
ということだが。
栗太郎は剣術の練習をしているところを
これまで一度として見たことがないし、
特に何かの型を持っているわけでもない。
ただただ強い。
それ以外に言いようがないのだ。
「いいよなぁ。僕も強くなりたいよ」
とは口にしてみたものの、
心の中では強くなったところで
何の役に立つのだろうとも思っている。
僕は今、じっちゃんとばっちゃん。
そして、栗太郎と朔夜さんの五人で暮らしている。
もう少し前はもう何人かいたのだけれど、
みんな、様々な理由で山を出てってしまったんだ。
だけど、僕は出て行こうとは思わない。
毎日がにぎやかで、平和で。
なんやかんや楽しいこの暮らしから、
離れたいとは思ったことがない。
無茶苦茶だけど朔夜さんといるのは楽しいし、
なんでも悩みを打ち明けられる
栗太郎がいてくれることが何より心強いもんなぁ。
……そんなことを考えながら
僕は、山菜集めを始めていた。
見慣れた森を歩き進んでいる中、
早速、視界にキノコが入り込む。
「あ、ミコトダケだ。幸先がいいぞ」
朔夜さんがああ言ったからには勝負はある。
つまり、負けたらご飯はないということだ。
だから、食べれるものは
何でも持って帰る勢いで拾うつもり。
でないと量で勝つことができない。
負けたらおなかがすいちゃう。
だがしかし、山菜集め。
これには問題が一つある。
僕は毒キノコや毒草の見分けがつかない。
まぁ、持って帰りさえすれば
栗太郎やばっちゃんが食べれるものを
分けてくれるのだけれど。
僕はいつもとりあえず集めるだけで、
仕分けを誰かに任せちゃっている。
朔夜さんのことだからそれをみて、
絶対、僕が持ってきた量を
仕分けした後の量にするだろう。
……勝てる気がしなくなってきたや。
ふと、風が吹いた。
ぬるい風、まとわりつくような風。
僕は、なんとなく空を見上げる。
今朝は晴れていて、
強い日差しを感じた空だった。
だが、いつの間にかそれは、
鉛色の雲に隠されていることに気付いた。
「雨、降りそうだな……」
そう呟いて、
早く山菜を集めようと手を伸ばした時だった。
「ネェ、ソコの君。チョット良いカナ?」
聞いたことのない声に手が固まる。
振り返るとそこには白い布の服。
昔、お医者さんという人が来た時に
着ていた服に似ている。
そんな、見慣れない服を着た男が。
白髪で眼鏡をかけた男が、そこに立っていた。
「アァ、驚かせてしまったようだネ」
「えぇと、どなたですか?」
前、じっちゃんとばっちゃんが言っていた。
この山に他の人がいない理由。
凶悪な鬼が入ってこれないように、
いくつものまじないをかけていて、
外からは誰も入ってこれないようにしてあるって。
勿論、じっちゃんの知り合いだとかが
この山に来たことある。
だけど、僕はこの人を見たことがない。
そして、今まで見てきた誰とも違う、
異質なものをこの人から感じる。
「私デスか? ……ソウデスネェ。皆からハ、般若とか呼ばれていマス。キミノ名前ハ?」
「桃太郎……です」
「桃太郎! 良イ名前デスネェ。御両親ガ付けてくれたのデスカ?」
「僕はお父さんもお母さんも会ったことがないです」
「ナルホド、コレハ失礼致シマシタ。……マサカ、子供一人デ生活シテル訳ではないデスヨネ? 私は今、人を探しておりまシテ。良カッタラ御家族ノ所ヘ案内してくれまセンカ?」
どうしよう。
すごく丁寧に話していて
振る舞いに違和感があるわけでもない。
だけど。
何故かこの人は危険だと
身体が警報を鳴らしている気がする。
「ダメ……デスカネェ?」
目尻の少し下がった眼で困った様に微笑む。
その瞳の奥からは何か狂気的なものを感じる。
怪しんでいる態度に出したらダメだ。
僕は焦りを隠す様に問いかけた。
「さ、探しているのは誰なんですか?」
「私たちが探しているのはとある男ノ子でしてネェ。マァ、私ハその連レに用があるのデスガ」
「男の子? だったら僕か栗太郎しかこの辺りには居ませんよ?」
「ホホゥ。ツマリ、君はその栗太郎クンと二人で暮ラしてイルと?」
「いえ、僕と栗太郎と朔夜さん。そしてじっちゃんとばっちゃんです」
「朔夜、ソシテお爺様とオ婆様……。トイウコトハ……、ナルホドですネェ!? ソウイウコトモ出来るとは! 良イ、実ニ良い!! 最ッ高ジャアリマセンかァ!!!!」
含まれていた狂気が溢れ出す。
死ぬ。何故かわからないけど強く死を感じる。
でもなんで? 僕は勿論死んだことはないし、
死を見たことがあるわけでもない。
なのに、この状況を知っている気がする。
狂気が作り出す死を知っている気がする。
「サァ、御案内ヲ。サァ! サァ!! サァ!!!」
僕は直感的に走り出してしまった。
逃げなきゃいけないって強く感じた。
「ツレマセンネェ。デスガ、アナタモ逃ス訳にはイケナインデスヨ」
絶望的な狂気。
いや、これが殺気というのだろうか。
振り返らなくても、
ソレが僕の裾をつかんだのが分かった。
死ぬ。
そう思ったのと同時のことだった。
どこかで大きな爆音のようなものがした。
これは、僕たちの家の方!?
だとしたら、じっちゃんとばっちゃんが危ない!?
危ないという思考で自分の現実を思いだす。
殺される!
声にならないような声を漏らしながら
僕は全力で振り返った。
だが、般若と名乗る男の姿は
既にどこにもいなかった。
──────────────────────
読んでいただけてありがとうございます!
待望の一話でごじゃります!!
頑張っていきますので何卒何卒~(˘•̥⧿•̥˘ )
素敵だと思ったら☆3を
まあまあと思ったら☆1を
ぜひお願い致します(* .ˬ.)
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