こうして始まる


 件の返答の手紙をもらってから、数日経った。


 差出人不明__いい加減名称がないとなぁ、言いずらいわ。

 とりあえずしばらくは不明さんでいいか?


 不明さんとのやり取りは俺の靴箱を通して4日に一回の頻度でおこなわれている。

 とはいっても、最初のころのような告白の内容というよりかは日常についての会話をしている。


 それでわかった?ことといえば

 手紙という手段を用いているけど、不明さんの中身は割と活動的.....アクティブな人間のようだ。

 どうやら部活動にも所属しているらしいけど、運動部のようだ。

 さすがに自分の詳細な情報を明かしていないためか、どの部に所属しているのかなんかは一切書かれていないが、その時の様子や心境について記載されていた。



 それにしても、この手紙はすごく読みやすい。

 最初のころに比べると内容は日常的でやわらかい表現を使っているけれども、手紙の構文や内容は読み手の俺にとってすごく端的でそれでいてわかりやすい内容となっており、読み手の俺にとってもその情景を思い起こせそうなものだ。



 対する俺の返答と言えば.....まぁつたないものだと思う。

 不明さんの内容に対する、応対も普通に返答しているだけであるし俺自身の日常についてもそこまでしっかりしたものでもない。


 だって、俺の日常なんて学校生活を送りその後アルバイトをしているだけで特に変化が見られないような日常だ。


 しかし、不明さんはその返しにもしっかりと返されており俺は自然と自分のことについて不明さんに教えていたんじゃないだろうか.....。



 そんなこともあってか、5月も終わりに近づいてきてようやく退屈に感じていた日常にこの手紙のやり取りが追加され、俺にとって新しい楽しみが増えた。


 それにともない、手紙の内容をもっと色鮮やかなものにしたいとも考えるようになった。


 それこそ免許取得という挑戦が終わり、特にすることもない生活だったものが不明さんに報告できるような内容として久瀬や江藤とのやり取りなんかも追加されるようになるぐらい近くのクラスメイトとのコミュニケーションの機会が増えたと思う。


 4月は本当に孤独感を感じていたが、自分が距離を取っていて勝手にそんな感じになって諦めてしまったのだと思い知らされてしまった。5月に入り、この手紙_不明さんとこうしたやり取りがなかったら自分の思い違いに気づくこともなく、こうして学校生活を楽しむこともなかったのではないのか。そう感じてしまう。



 そう考えると不明さんには感謝の思いが高まるな。

 きっかけはどうであれ、実際に不明さんと会って手紙だけでなく実際に会話をして感謝したいもんだ。




「おーい、耕平!次の授業に行くぞー!」

「ん、わかった」

「にしても、最近の耕平は変わったよな?なんつーかとっつきやすくなったというか」

「そうだね、斉藤君。席替えしたころは僕たちとあまり話そうとしてなかったけど。今はこうして一緒に行動するようにもなったし」


 そうだな.....。



「ま、ようやく学校生活になじんだってことだろ」

「なんだよそれ!」



 久瀬と江藤と班のみんな.....。こうして活動を共にして学校生活に楽しさを覚えて.....うん。



「決めた」

「ん?何がだ?」

「............個人的なことだ、まぁ新しい目標が決まった感じだな」

「んだよそれ」




 そう、これからの学校生活.....最大の目標として。




 不明さんの正体を突き止める。



 そうと決まったら自然と俺の中でやる気が上がる。

 これからの学校生活.....不明さんに共有できるぐらいには楽しめるように頑張ろう。






 そうして、俺と不明さんとの文通.....そして俺の学校生活が本当の意味で始まった。

 外は梅雨どきを知らせるような、恵みの雨が降り始めようとしていた。





 もう6月になるのか......。

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