エピローグ
そもそもどうして最初に原田さんが「活躍」し始めた時に、女将は弁解しなかったのか。それはあくまで探偵役を自任し、声を挙げた原田さんが「お客様」であったことに起因する。
「お客様は神様である。」
それはある演歌歌手が「神前で歌う気持ちで挑む」という本来自分に課したものであったのだが、いつの間にか言葉が一人歩きして、お客様>サービス業という悲しい構図作りに一役買ってしまったのだ。「お客様」は多くの場合、絶対である。
そんな接客業体質が染みついた女将は「お客様に恥をかかせない」という気持ちから沈黙を貫いて耐えた。しかし結果はエスカレートしてしまった原田に、より深い恥をかかせたのだから考えものである。
しかし今回僕という真の探偵役のお陰で、恥をかかせた犯人は僕になすりついたわけだから、まぁ結果オーライなのかも。そこまで算段して僕を利用したのだったら、あの女将はなかなかすごい人と言える。
「探偵が旅行してもろくなことがないな」と僕。
「そう?いっぱい膨らんだし楽しかった。」と彼女。
心なしか彼女の足取りが軽く見える。
彼女がリフレッシュ出来たなら、それもまた良いか。
「そういえばさ、クロスワードの最後の一個が分からないんだけど、分かる探偵さん?」
「どれ?」
「”現在確定される結論と規則を用いてある前提条件が結論を説明できると裏付ける論理的推論法は?”カタカナ7文字。」
「うげ、なんで旅行雑誌に載っているクロスワードがそんなに難易度高いんだよ。」
「知らんし。で、分かるの?」
「うーん…。」本当は知ってる。でももう少し粘ってみる。そうすればきっと。
「膨らめば…分かるんじゃない?」
と彼女が艶めかしく微笑んでお腹を撫でる。
僕は自分が唾を飲み込む音の大きさにびっくりした。まるで喉が別の生き物みたいに隆起する。お腹が疼く。
「じゃあ、何か食べに行こっか。」と彼女が無表情で悪戯に微笑む。
彼女は僕の「神様」かもしれない。
探偵は膨らんで推理する 寝袋男 @1057past
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