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僕たち関係者は、というか僕たちは自ら志願して関係者になった杞憂なくちだが、というかもっと言えば僕は志願もしていないのだが、関係者一同は女将に連れられ宴会場に集められた。
僕と彼女、向かって左から女将、板前、仲居、番頭、宿泊客は小林夫妻、女子大学生の櫻井さん、職業不明の原田さん。以上のラインナップである。とりあえず本編に関係あるのか、読者がこの部分に興味があるのかは分からないが、トレンチコートが「ヨシッ」と言うまで僕たちも暇なので、僕個人から見た関係者のディティールでも説明してみちゃおっかな。
まず女将、さっきも言ったけど40歳くらい。身長は160センチあるかないか。
後れ毛一つなく結われた髪のつやもよく、肌も白いながら血色が良い。唇が上下でモテる割合の厚さをしており、唇の下、顎の所にあざとすぎるほくろがある。大きなたれ目。セクシー女将の具現化みたいな容貌である。隣にいる板前との距離感を見る限り、先ほど指輪の跡から推察した関係性は合っている様に思える。しかし結婚後幸せ太りする様な料理か、早く食べたいなーと思ったが、これそもそも食べられる世界線なのだろうか。
続いて板前、ますます読者が興味あるのかなという人物だが、あくまでミステリーの様相を呈してみる為にそれらしい人物像で描いてみる。重要そうだし。
女将と歳の頃は近いと見えるが少し若いかもしれない。身長は180センチくらい。
それなりに肩幅も広く、引き締まった印象。顔も表情は堅く、精悍な顔つき。職人らしい。いや、もしかしたら普段はもっと柔和な顔つきかもしれない。なんせ自分の勤める旅館で死人が出たらこんな顔つきにもなるかもしれない。手を見てみる。造形の綺麗さもさることながら、清潔さを保っている指先。この手からどんな繊細な料理が繰り出されるのだろう。
続いて、と思いながら隣をちら見してみると我が探偵事務所の女性スタッフは随分退屈したと見えて旅行雑誌についているトラベルクロスワードなるコーナーに取り掛かり始めていた。正直僕も説明するの飽きてきた気がしなくもない。でもあと6人もいるしな。ここから急に手を抜いたらいざって時に女将か板前が犯人となりかねない。いや、寧ろそれこそミスリードに繋がるのでは?と思っているとトレンチコートが宴会場に入ってきた。
「お待たせしました。それでは一人ずつお話を伺いますので、何処か部屋をお借りしても?」
女将が頷いて、トレンチコートを連れて出ていく。
そういえば事情聴取なんて面倒なイベントありましたね。まぁ僕が話せることなんてほぼないんだけど。
というわけで僕のプロフィール、ここに関わった経緯を話してみた時の刑事の胡散臭そうな表情は各々のご想像からそう遠くないと思うので割愛させていただく。僕はショートカットが大好きだし、髪型も含めて。
全員の事情聴取が済み、再び宴会場に集まる面々。
番頭だけ長いと思ったら第一発見者だったらしい。
「今回の件は大方事故という見込みで進めますが、念の為今日の所はこの旅館でいてください」という様な事をトレンチが言い、旅館スタッフたちが深々と頭を下げた。
「次は向こうを調べるぞ」と露天風呂の方にトレンチたちが去ったあと、最初に口を開いたのは大学生の櫻井さんだった。
「あの、」
「なんでしょう?」と女将。
「私、今夜には家に帰らなければいけなかったのですが、どうしてもだめなんでしょうか…?明日講義もあるし。じ、事故死なんですよね…?それなら、」
「本当に事故死なんですかね。」と原田さん。
女将がぎょっとした顔で原田を見る。そりゃあ事故が起きた旅館、自殺があった旅館、殺人が起きた旅館、マシなのは当然最初のやつだろう。
「私、少し考えてみたんですよね。今回の事件。」
おや、原田氏の目つきが変わった。そして確かに「事件」って発音した。
「私はこの中に犯人がいると考えています。」
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