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「それで? 頼み事っていうのは?」
服を戻し座り直したコルさんは、そろそろ本題へとそう尋ねた。
「えーっと。実は――」
無理は承知だし私達もあまり頼むつもりもなかったが、一応ここへきた理由をレナさんは話した。
その話を聞くとコルさんは顎に手を当て唸るような声を出した。
「なるほど。シェパロンかぁ」
「でも流石に距離もあるし、厳しいですよね」
レナさんの言葉の後、彼のある程度は予測済みの返事を待つ間が数秒挟まり、私達は黙りただ待った。
「いいよ。一緒に行こう」
「え? (えっ?)」
意外な返事に思わず声が被る。
「実はシェパロンにさっき話した師匠がいてね。ゴホッ! あの人もいい歳だし、会えるうちにもう一度会っておきたいから」
「でもシェパロンまで結構な距離ありますけど、大丈夫っすか?」
「戦闘面に関してはあまり協力出来ないけど、怪我しても」
パチンっ、コルさんは得意気に指を鳴らした。その音を追って咳も一つ。
「あっという間に治してあげる」
「それは心配してないけど、基本は歩きですよ?」
「もちろん大丈夫。こう見えて人並みには体力あるからね」
力こぶを見せるように腕を曲げて見せたコルさんだったが、案の定とでも言うべきかすぐに咳き込みポーズとは正反対。
「とにかく、こんな感じだけど足手まといにはならいないよ」
どうしようか、そう尋ねる視線がレナさんから向けられた。でも提案と言うか頼みに来たのは私達だしここからやっぱりと言うのは出来ない。
依然と不安は拭えないが、コルさん自身が大丈夫だと言っているのだからそうなんだろう。
「それじゃあよろしくお願いします」
私がそう頭を下げると少し遅れてレナさんは会釈をひとつ。
「こちらこそ」
少しの間を空けて一点に集まり重なり合う視線。
「それじゃあそのまま出発日決めちゃおうか」
「コルさんは準備とかあると思うのでいつがいいですか?」
レナさんの提案を聞いた私は真っ先にコルさんに尋ねた。
「いつでも大丈夫。今日以外ならね。明日でもいいよ」
「じゃあレナさんは?」
「そーだなぁ。――明後日かな。ちょっと改めて剣の点検もしたいし。なんせ二人の分の命を背負うわけだし」
「死ななければ僕が治してあげるよ。もちろん重傷が過ぎれば多少の時間はかかるけどね」
「それは心強いです」
ゴホッ! そう何かを言おうとしたコルさんの言葉を邪魔したのは最早、聞きなれ始めた咳。
「それとさっきからレナさんって呼ばれてるけど――もしかして君って、レナ・タイム?」
「そうだけど?」
そんな不意の質問にさっきまで柔和で敬語交りの言葉遣いをしていたレナさんは、いつも通りの素で答えながら小首を傾げた。微かに眉を顰め質問の真意を探るような目付きと共に。
「あぁ。君があの。――名前は知ってたけどお目にかかるのは初めてだったからね」
「そりゃどうも」
これ以上その話はしたくないと言外で伝える表情を浮かべながらレナさんは視線を逸らした。
「じゃあコルさんも明後日で大丈夫ですか?」
彼がそれ以上深堀しそうだったと言う訳じゃないが、私は話を戻しそう尋ねた。
「もちろん」
「なら、『夕暮れ時の白兎亭』という酒場か町の入り口で待ち合わせたいんですけど」
「その酒場なら知ってるよ。そこに行くよ。時間は?」
「十時ぐらいでいいんじゃない?」
「そうですね。じゃあそれぐらいで」
「分かった」
あっ、これで話は終わりそう思った丁度その時、レナさんが何かを思い出した声を漏らした。
「そう言えばウェルスがよろしくって」
「彼は意外と素質があったからね。今も衰えてなければいいけど」
「多分ですけど大丈夫だと思いますよ。何度か助けてもらったし――ってアタシはそっち系は全く何で参考にはならないと思いますけど」
「いやいや。受ける側の意見は重要だからね。ちゃんと出来てるなら良かったよ」
それから私達はコルさんと挨拶を交わし家を後にした。
でも真っすぐじゃなく、私の我儘で少し遠回りをし森を堪能してから町へと戻った。
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