第40話 行方不明

「私たちは大学の探索者クランで、主に三層を探索していたんです」


 ユキは神妙な面持ちで話し始める。


「私はまだ全然実力がないから、やっと三層にこれたくらいで……。けど、前線で戦っていた男二人組のパーティがいて、その一人がレン君……私の彼氏だったんです」

「二人パーティ?」

「結構多いわよ、二人パーティって。機動力が求められることもあるから、少数で動く方がいいこともあるの。特に前線で斥候のような役目を担うパターンが多いわね」

「なるほどな、斥候か」


 俺なら一人で未知に挑みたいと思うところだけど、組織として攻略していくならそういう役割分担もありか。


「で、その斥候だった彼氏が?」

「行方不明なんです……」

「行方不明? どういうことだ?」


 このゲーム……じゃなくて、ダンジョンは死んでも戻ってくることができる。

 仮に迷子にでもなったとしても、最悪モンスターにやられれば戻ることができる。


 モンスターが全くいないフィールドに放り出されていたとしても、いずれ飲み食いするものがなくなり餓死で戻るはずだ。


「戻ってきてないんです……三層の森に探索に行って以来」

「どれくらい戻ってきてないんだ?」

「三日です」

「三日か……微妙なところだな。純粋にどこかで迷子になってる可能性もなくはないんじゃないか?」

「そうなんですけど、私たちのクランはダンジョンに潜る日数を事前申告するルールになってまして……」

「申請された日数がたっても戻ってきてないってことか」


 シズネはこくりと頷く。


「こんなこと今までなくて……それに……」


 シズネは泣きそうになりながら不安気に眉をひそめ、ちらっとユキの方を見る。

 ユキはシズネからのパスを受け取ると、続ける。


「石碑に火が灯ったの」

「石碑?」


 なんだそのワクワクするものは。


「十二層の”朱色の高原”で見つかった石碑なんだけど、ずっと八王に関連する石碑と言われていたの。それがこの間のデュラルハンの一件でその可能性がかなり高まってね」


 ユキは続ける。


「常に観測してるクランがあるんだけど、どうやら私たちがデュラルハンと戦った時にちょうど灯っていたらしくて。それで可能性が濃厚になったってわけ」

「八王の出現に合わせて火が灯るのか?」

「そう。それで、シズネちゃんの彼氏が行方不明になった時期と同じ頃に、石碑に火が灯ったって情報が出回ったの。それで、トップクランから考察系の探索者まで動き出してるってわけ」

「なるほど……ただの行方不明ってわけじゃないかもしれないってことか」


 そりゃいろんな探索者が出張ってくるわけだ。

 通りで三層に入った時少し騒がしいと思った。上の階層からも今回の一件で人が集まってきてるってことか。


「あの人たち、レンくんを探そうって気なんて全然なくて……それよりも八王とかっていうモンスターのことを知らないかってしつこくて……だから、ユキさんが手伝ってくれるって言ってくれた時嬉しかったんです」

「触手に捕まってたけどな」

「そ、それはいいでしょうが! 不意をつかれたのよ!」


 ユキは恥ずかしそうに顔を顰める。


「と、とにかくそういうことだから。テンリミならきっと人助けもしてくれると思って」

「俺って結構廃ゲーマーだぜ? ボスにしか興味ないと思わないのか?」

「効率厨ならそうだろうけど、君なら困ってる人を助けるクエストも逃さないんじゃない?」

「……わかってんじゃん」


 意外とゲーマーか、こいつも?

 知り合いにそういうタイプのゲーマーがいるのかな。


「のった。俺も手伝うよ、君の彼氏探すの」

「本当ですか!? ありがとうございます!」


 シズネは深々と頭を下げる。


「ユキも配信切ってまで本気で手伝おうとしてるみたいだしな。俺だけ無視できるかよ」

「ありがとね。それじゃあ、シズネの彼氏が行方不明になる前に向かった森へ行きましょう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る