羨んだ人に入れ替わったとしても幸せとは限らない

黒鉄丸

羨むアイドルの秘密とは……

「俺はKAGERO。刹那の時まで魅せてやるぜ!!」


羨ましい……


『KAGERO、ドームライブ大成功!!』


あいつが羨ましい……


後輩「いつかKAGEROさんのようなアイドルになります!!」


KAGERO「そっかーなら努力あるのみだな!」


妬ましい……


KAGERO「あー、マネージャーさん。ごめんけど今日の予定全キャンセルで、事務所には許可もらってるし」スタスタ


好き勝手に生きられる。あいつが妬ましい……


マネージャー「社長!なぜKAGEROくんを好き勝手に動かしているんですか!今回の仕事は大物芸能人も居たのに怒ってましたよ、これでは事務所が干されますよ!!」


社長「……KAGEROは特別だ。それは君たちに周知させてるはずだ、とりあえず私は謝罪しに行く。KAGEROを責めるなよ?」


「なぜ甘やかせるんですか。今回だけでは無いですよ!!ライブですら急にやめる時もありますよね、そんな人がなぜ……」


「言ったはずだKAGEROは特別なんだ。そもそも……」


「もういいです!!」


バタン!


「話はまだ終わって無いんだがな。生真面目なマネージャーだ……謝罪と説明のためにこれも持っていくか」つ『??の???』


妬ましい……妬ましい……俺には才能が無かった、どれだけ努力してもKAGEROのようなアイドルになれなかった。


だから……


『契約はなされた……貴様はこれから短太陽炎(タンダ カゲロウ)の魂の交換を行う』


手段を選ばない、悪魔に魂を売ろうとも……俺の方がふさわしいんだ!!


『……喜劇を見せてもらうぞ』クスクス


ーーーーーーーーーーーーーーーーー

翌日の事務所


「……KAGEROとマネージャーの連絡がない!?」


秘書「は、はい!マネージャーさんもKAGEROも居ないので携帯から連絡しましたが音信不通です」


「KAGEROは納得はするが。マネージャーが遅刻するのは珍しい……ん?」プルルル……


「社長の直通電話?なにか予定がありましたか?」


「いや、無かった筈だが……」ガチャ


「もしもし……」


『もしもし社長ですか!?』


「お前かマネージャー。君が遅刻するなんて珍しい……」


『すいません!今山奥の小屋から何とか降りきって今民家の電話を借りたんです』


「は?山奥……?」


『今はどうでもいい事です!俺……いやKAGEROは出社してますか!!』


「い、嫌……出社してはいないが」


『社長、KAGEROの家に早く行ってください!絶対倒れてます!!』


「は?」


『緊急時に合鍵を渡してますよね。事務所で俺の病気の事を知ってるのは、社長のみなんだから!!』


「なぜKAGEROの秘密を知ってるマネージャー……」


『今はどうだっていい。死ぬぞ!!』


ーーーーーーーーーーーーーーーー

KAGEROの家


なんだこれは!


身体が痛い!!


呼吸が苦しい!!!


なぜKAGEROのベッドは血まみれなんだ!!!!


ゴフッコパァ…


咳き込んだだけで血を吐いた!?


身体も自由に動けない!!??


お、俺は……死ぬのか……!!!???


いっ、意識が…………


『KAGEROは特別だ……』ジジッ


特……別……


ま……さか……カゲロ……ウ……から……だ……


ガチャ!!


「KAGERO!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーー

病院


ピッ……ピッ……


主治医「やはりこうなってしまったか。無茶だったんだ、致死率の高い不治の病にかかっている状態でアイドル活動なんて……」


「KAGEROの願いだったんだ。例え短い人生だろうとアイドルとして死ぬ事を望んだんだ……」


「社長さん。あなたは愚か者だ、だが陽炎君の努力を知ってる身としては……」


ガチャ!!


「社長!!」


「マネージャー、君が連絡しなかったら今頃死んでいたな……だが何故だ?何故KAGEROの秘密を知っている?『マネージャーさんに心労かけてるし。絶対に言わない』って言っていたぞ」


「信じられないかもですが俺がKAGERO……短太 陽炎です」


「は?」


「信じなくても良いです、だけど血を吐く程度なら薬と根性で抑えます。知ってるでしょう、社長の知ってる陽炎は痛みも血も慣れているから」


「……」


「多分俺の身体の中のマネージャーさんは知らなかったんだ。吐血した時に飲む薬が近くにあった事を……それ以前に全身が激痛走っていたからパニックになって居たかな?」


「……KAGEROだとして。君は私の秘密を知ってるはずだ、答えなさい」


「社長は叔父さんであること、叔父さんは週一で熟女パブ『オバキューチャン』に通う常連さん、トラウマは消費期限が3年たったカル〇スを飲んで生死の境にさまよった事。それから……」


「もういいわかった……KAGEROだよお前は」ハア……


「グッ……イタイ……ナゼ……」


「マネージャーさん。何故身体が入れ替わったんですか……」


「まて。KAGERO……お前じゃないんだ、まともに話せるかもわからん」


「……そうだった」


「とりあえず、今日の所はお帰りを……これから陽炎君?を喋れる状態までにしてみます」


ーーーーーーーーーーーーーーーー


『喜劇だな』クスクス……


痛い……苦しい……


『陽炎……と言ったなこの身体の名は。どうだ?羨んだ『才能溢れる偶像』の身体になった感想は』


こんなの……望んでない……助けて……悪魔……


『望んではいないな……何故ならあの人間は病に蝕まれてなお、魂を燃やし続けた結果。最高の偶像と見間違える程の光となっただけだ、蝋燭の最後の火が燃え上がるようにな』


そんな……そんな……


『つまりは彼奴は才能では無く、偶像のために魂を燃やす狂気によって成り立って居たのさ。ああ、契約は契約だ……この身体は日の出と共に死に至る。その時は貴様の魂は地獄へ連れていく』


嫌だ……


『強すぎる光は幻を魅せる……光しか見えてなかった貴様にはお似合いの最後だ』クスクス……


ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"……


(この身体を持ちながら、偶像として輝き続けた魂。興味惹かれるな。他者とは言えど健康な身体を持ち、同じように魂を燃やし続けていたら……)


………………ピー


(こやつはやはり魂が弱いな。陽炎が陽炎のままだったからこそ生き続けただけか?日の出はまだ半刻程あったのに……)


ーーーーーーーーーーーーーーーー

1年後


元KAGERO「本当に良いのかな。マネージャー、いや『鶴亀 甲(カクキ コウ)』さんの身体でアイドルをやるなんて……」


「元々アイドルを諦めきれずにマネージャーとして働きながらレッスンを受けていたんだ……あいつの魂が報われるとするならアイドルとして輝く事だろうな」


「そうかな……」


「入れ替わった原因がわからないが。いきなりお前の不治の病の苦痛に苛まれて死んでしまったんだ。せめて鶴亀君の夢を叶えてやってくれKAGERO……嫌『PHOENIX』」


PHOENIX「……ああ、わかった。天国だろうが地獄だろうが鶴亀さんをPHOENIXとして名声を響かせてやるぜ!!」


これが。男性アイドルの頂点だったKAGEROが死去後、KAGEROのマネージャーであった元アイドルがその名に相応しく蘇り。引退するまで頂点に輝き続けたPHOENIXの誕生である。


『まぁ彼奴が望んでいるか、否かは。生者にはわからんがな……』クスクス……

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羨んだ人に入れ替わったとしても幸せとは限らない 黒鉄丸 @siroganemaru

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